11月号
兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第六十六回
地域医療構想とは?
─地域医療構想とはどのようなものですか。
堀本 2025年にいわゆる団塊の世代が後期高齢者となりますが、その頃には少子高齢社会のピークを迎えることになります。その少子高齢社会のピークを乗り切るために、国が定めたガイドラインにしたがって2025年の医療需要を推計し、それに見合う医療供給体制を都道府県が主体となって決める医療構想が地域医療構想です。
─今までの医療計画とどのような点が異なりますか。
堀本 いずれ少子高齢化のピークを迎えるということがポイントです。少子化していますから、当然、将来には高齢者人口も減るわけです。つまり、当面は高齢者人口が増加するからといって、医療施設や介護施設をどんどんつくっていっても、少子高齢化のピークを過ぎればやがてそれらが不要なものとなってしまいます。そこで、今回の地域医療構想では新たに病床を増やしたりはせず、今ある病床の機能を転換することと、患者さんの居宅に医療や介護機能を持ち込む在宅医療・介護をより充実させることで乗り切ろうとしています。
─具体的にどのように対応していくのでしょうか。
堀本 例えば、高齢者が急病や怪我で入院しても治ったらすぐに退院せず、自宅に帰ってある程度自分で生活ができるように機能回復をするため、回復期というカテゴリーの病床を新たに設けます。その確保のため、少し過剰だといわれている急性期病床の一部を回復期病床に転換することなどが考えられています(図1)。
─地域ごとへの対応という点では、どのような特徴がありますか。
堀本 高齢者人口比率は地域差が大きく、すでに高齢者人口が減少し始めている地域もあります。つまり、地域の実情に応じた対策が必要ということです。ですから全国一律ではなく、例えば兵庫県なら10箇所に分かれた二次医療圏という単位ごとに、構想を作り上げていくことも大きな特徴です。
─地域医療構想について、どのような問題点がありますか。
堀本 まず病床の転換についてですが、地域医療構想では、現在稼動していない非稼動病床は、他の医療機能を持つ病床に転換することになっていますが、患者需要が少ないから稼動していないこともあれば、医療従事者の人的資源の不足でやむなく非稼動となっている病床もあり、一律に非稼動として病床転換を行おうとすると、本来の需要を見誤ることになります。
─医療圏についてはどのような課題がありますか。
堀本 地域医療構想の基本となる二次医療圏は、30年以上前の1985年に導入された概念であり、その後の人口動態や交通事情の変化を踏まえた見直しがあまりおこなわれておりません。現在すでに複数の二次医療圏にわたって医療連携が行われている地域も少なくなく、二次医療圏の線引きの妥当性を検証することが必要かもしれません。
─在宅医療・介護についてはどのようなことが課題になるのでしょう。
堀本 地域医療構想は、回復期病床を新たに設けたように、退院後の在宅復帰を重視したシステムですが、その受け皿として地域包括ケアシステムを中心とした在宅医療・介護体制の整備が間に合うのかという点にも注意が必要です。
─地域医療構想の推進に際し、何か新たな制度が設けられるのでしょうか。
堀本 一つの選択肢として、非営利ホールディングカンパニー型法人である地域医療連携推進法人制度が法制化され、2017年4月にスタートします。これは、同じ地域で医療機関や介護事業を展開する医療法人や社会福祉法人などが共同で設立する一般社団法人を、都道府県知事が「地域医療連携推進法人」として許可・監督する制度です(図2)。
─地域医療連携推進法人のメリットと課題を教えてください。
堀本 医薬品などの共同購入によるスケールメリットだけでなく、医療資源配分の適正化による医療過疎地への対応、コスト意識の向上などを図っていく意義は大きく、地域にとってより良い医療・介護供給体制が構築されていく契機になるかもしれません。しかし、一方で一般企業のようにM&Aを進めて事業展開することが可能で、また関連事業を行う株式会社を持つことができ、医療の営利産業化に繋がりかねない規定も見受けられます。このあたりは医師会としても注意深く推移を見守っていく必要があります。
堀本 仁士 先生
兵庫県医師会医政研究委員
堀本医院 院長