10月号
interview 私の神戸再発見
阪神電気鉄道株式会社
代表取締役・取締役会長
坂井 信也さん
散歩コースの山の手は子どもの頃の遊び場
―神戸生まれ、神戸育ち、神戸高校から神戸大学へ、そして今も神戸にお住まいの坂井会長ですが、お気に入りの散歩コースはありますか。
坂井 下山手に住んでいますので、海の手ではなく、やはり主に山の手です。近所の県庁界隈や相楽園、諏訪山公園辺りですね。
―子どもの頃の思い出もあるのでしょうね。
坂井 山のふもとの「諏訪山公園」は昔、「武徳殿(ぶとくでん)」と呼んでいました。子どもの頃からの遊び場で、「野球をしよう!」という時は武徳殿でした。インドの人たちの運動会を見に行ったこともあります。小学生の頃は、学校帰りに金星台や諏訪山神社まで登ったり、たまに、当時の山手女学校の校庭に侵入したり(笑) ―山には親しんでいました。
―神戸を訪れる観光客にお勧めするとしたら?
坂井 海岸通りや北野町界隈を歩かれるのもいいですが、山の手ならばビーナスブリッジや金星台辺りでしょうか。ちょっと西へ足を延ばすと関帝廟もあります。道幅が広くて、車の往来も比較的少なく、歩きやすいのもお勧めできる理由です。
―神戸は食の楽しみもありますが、子どもの頃の思い出はありますか。
坂井 度々外食するような時代ではなかったですから、普段は近所の中華料理屋さんに親父に連れられて行ったという程度の思い出しかありませんが、神戸だから、あちらこちらに気軽に入れるお店がたくさんあったということは言えるかもしれません。法事やお祝い事で「神仙閣」や「第一樓」に中華料理を食べにいくのは子供心にも楽しみでしたね。小・中・高では同級生に中国人の友だちも多く、家に遊びに行った時にはご馳走してもらうこともありました。
―まさに本場の味ですね!
坂井 ところが、あまりに本格的過ぎて、なかなか口に合わないのです。「そこらへんの中華屋さんでラーメン食べたほうが旨いなあ」などと思っていました(笑)。こういう経験も神戸ならではでしょうね。中には今、中華料理店をやっている友だちもいますが、日本人好みの味で美味しいですよ。
―海岸通り、海、港などの思い出はありますか。
坂井 それが、海岸通り辺りはメリケン波止場へ行く時に通り抜けたという思い出くらいしかないんですよ。アメリカの駆逐艦や潜水艦が入港した時には見に行きましたし、南米移民のぶらじる丸を見送りに行ったこともあります。同級生の中にブラジルへ移住した友だちもいましたね。
―神戸ならではの国際性いっぱいの思い出ですね。ところで、神戸大学在学中はどのような学生だったのですか。
坂井 学生紛争の時代でしたから、大学3年生後半から4年生の間はあまり学校にも行けませんでした。経済学部でゼミは経済史。当時、卒業後は商社や銀行に就職する同級生が多く、貿易や金融などに関するゼミが人気でしたが、特に興味があったわけではなく、あまり縛りのないゼミということで選んだように思います。体育会系のハンドボール部に所属していましたが、この部が全く弱くて…(笑)。
―同窓生とは今でも交流はあるのですか。
坂井 神戸大学18回生の会で、時々集まります。在学中には面識のなかった同級生もたくさんいます。ロータリークラブなどの神戸の集まりでお会いする先輩や後輩も少なくありません。
秋はピクニック気分で六甲山をアート回遊
―さて、神戸の玄関口・阪神三宮駅が新しくなりますね。
坂井 安全第一で進めておりますが、かなりの難工事で時間がかかり、ご迷惑をおかけしています。ホームの配線変更で大阪方面への乗換えの利便性を良くするとともに、神戸の顔となる駅としてコンコースを拡張し、神戸のお土産や特産品を販売する店舗のほか、神戸や奈良の観光案内を行うサービスセンターの設置も検討しています。更に、東改札口を新設し、ミント神戸の地下ともつながりますから、三宮東地区を元気にする役割にも期待してください。
―六甲山にも力を入れていますが、この秋のお勧めはありますか。
坂井 当社では、昨年から芸術という切り口で六甲山を賑やかにしようという取組みを開始しています。おかげさまで普段は六甲山になじみのない世代の方々にもご好評をいただいていることから、今年も現代芸術の新進作家のアート作品をピクニック気分で回遊できる、「六甲ミーツ・アート 芸術散歩2011」を11月23日まで開催しています。神戸の海の手ではビエンナーレ、山の上では六甲ミーツ・アートというのもいいのではないでしょうか。こういった取組みはこれからも継続していきたいと思っています。
―企業の保養所の利用についてはどうでしょうか。
坂井 保養所を芸術という切り口で、陶芸教室などに利用してもおもしろいですね。各企業でもいろいろ新しい利用方法を模索されているようです。
観光ルートが良く分かる総合的な案内所が必要
―来年の大河ドラマに登場する平清盛は神戸とも縁があります。
坂井 神戸には清盛塚や兵庫大仏で知られる能福寺など縁のスポットが数多くあります。いずれも鉄道を利用すれば気軽に訪れられる場所ですので、そのことも含めて神戸市さんと協力して観光に来られた皆さんにお伝えしていきたいと考えています。
―神戸の観光をもっと元気にする方策は何かありますか?
坂井 いざ神戸を観光しようと駅に降り立たれても、「さて、どこへ行ったらいいのか」がよく分からないようですね。私たちは、こっちへ行けば六甲山、あっちへ行けば旧居留地などとよく知っていますが、初めての人にはどうも分かりにくいようです。今も案内所はありますが、より総合的な案内ができるように、さんちか辺りにも情報発信の拠点があった方がいいのではないでしょうか。私たちも六甲山にこだわることなく、神戸全体の魅力に目を向けていきたいと思っています。
―阪神といえば、タイガース。今年はどうですか。
坂井 今年は接戦も多く、どこが優勝してもおかしくない状況です。特に今シーズンは開幕が遅れたことと、雨で延期となった試合が多かったことで、10月中旬以降には連戦となり、選手も大変な時期になります。そこでいかに勝ち残れるかが勝負だと思います。タイガースの成績は大阪だけでなく、神戸にとっても大きな話題となりますから、責任は重大です。
―坂井会長には是非、引き続き神戸を盛り上げる旗振り役をお願いしたいと思います。今後ともよろしくお願いいたします。
インタビュー 本誌・森岡一孝
坂井 信也(さかい しんや)
阪神電気鉄道株式会社 代表取締役・取締役会長
兵庫県出身。1970年に神戸大学経済学部卒業後、阪神電気鉄道株式会社入社。2006年、阪神電気鉄道株式会社代表取締役・社長に就任。現在、阪急阪神ホールディングス株式会社代表取締役、阪神電気鉄道株式会社代表取締役・取締役会長、株式会社阪神タイガース代表取締役・取締役会長。