10月号
[対談]学びと教え 実学のよろこび
カワノ株式会社
代表取締役社長
神戸慶應倶楽部幹事長
河野 忠友さん
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神戸ポートピアホテル
代表取締役社長
神戸慶應倶楽部副幹事長
中内 仁さん
慶應塾員 今も仲良し
―昭和60年に慶應義塾大学に入学したお二人ですが、出会いは?
中内 お互い名前は聞いてましたが、言葉を交わしたのは2年生のころ。共通の友人に紹介されたのが最初です。
河野 同じ学部だったので教室で会って、「ああ、君だったのか」と。
―それから交流が?
河野 3年生になってから似通ったゼミに入り、時々、電車で会ったり、一緒にご飯を食べたり。
―卒業後のお付き合いは?
中内 私は神戸に戻り、その後アメリカへ行きましたし、彼は全日空に入社して東京・霞ヶ関が職場でしたから、何年かは会うこともなかったですね。神戸に戻っても、彼はしばらく会社の仕事に一生懸命頑張っていましたから、慶應倶楽部はじめいろいろな会合にもあまり顔を出さなかったようです。共通の知人を介して、また交流するようになったのはここ数年前からです。
河野 それからゴルフも一緒にするようになって仲良し(笑)。昨日も一緒、今日も一緒、明日も一緒、あちこちで今週は毎日一緒です。
―お互いに相手を評価する点は?
河野 神戸でのいろいろな活動は、ほとんど彼に紹介してもらって始まっています。学生時代はおとなしくて真面目に勉強している人でしたから、神戸に帰って来てからの彼はすごく積極的で社交的な人になっていました。仕事柄必要だったのかも知れませんし、以前から素質は持っていたのかも知れません。私は、彼の後を追っているという感じです。
中内 目立たなかった私とは違って、学生時代の河野君はとても華やかに目立っていました。神戸に帰って来てからは、会社の仕事に没頭していたようですね。イタリア・ミラノで靴の展示会があると、日本の企業は普通、買い付けに行くのですが、彼は日本の靴をミラノへ売りに行く。また、東京・丸ビルに出店するなど同じ年代の河野君がいつも新しいことにチャレンジしているところは、尊敬しているし、大変刺激を受けています。
人生いつまでも勉強は大切
―お二人は神戸大学で講義されたそうですが、どういう経緯で?
中内 二人とも神戸商工会議所で同じ勉強会のメンバーでした。そこに参加していただいていた神戸大学経営学部 栗木契准教授が「皆、一生懸命頑張っている人たちばかりで、話がなかなかおもしろい。是非、神戸大学で講義をして欲しい」と企画をされ、依頼があり「それでは」と快諾しました。
―講義のテーマは? 事前に勉強されたのでしょうね。
河野 テーマはマーケティングです。中内君は「ポートピアホテルの革新マーケティング」、私は「バークレーのハイブリッドマーケティング」。マーケティングは私の専門でしたので、GWには改めて3冊の本を読んで勉強しました。学生時代に学んだマーケティングと今のマーケティングはバージョンが違うんだと実感しましたね。
中内 「立派な話はできませんから、自分の会社の話をさせてください」と栗木先生には事前にお願いしていました。約72枚のスライドを使って講義し、質疑応答も想定しました。1週間前には、河野君の講義を聞きに行き14ページに及ぶノートを取りました。ハイブリッドの話や、コルベール委員会の話などおもしろかったですよ。次は私の番でしたから、「これはいかん」と焦りました(笑)。
河野 ファッショントレンドの成り立ちなど、学生が興味を持ってくれそうなテーマを選びましたので、「聞いてくれているな」という感覚はありました。次週の〝中内教授〟の講義は気楽に聞きに行けました。
中内 自分は終わったんだから来なくていいのに(笑)。
河野 彼の講義はアメリカのゼミナールの雰囲気がありました。「皆さん、こんにちは」と声は聞こえるのに姿は見えない。そうしたら、後ろにいるんですよ! そして大講堂に集まった経営学部約400人の学生たちに後ろから声をかけながら歩いてくる。やはり、ホテルマンとしてのホスピタリティだと感心しました。
―学生たちの反応はどうでしたか。
中内 学生はいろいろなことをよく調べていますね。講義中でも、iPadやノートパソコン、スマートフォンで検索するのが日常という時代ですから。質問もたくさんいただいて良かったですよ。〝シーン〟となったらつまらないですからね。
河野 ちゃんと聴いていて、ポイントを抑えているなというのが感想です。さすが、神戸大学。
―ご自身が学んだことはありましたか。
河野 やはり「勉強はしないといけない」ということです。ビジネス界に身を置き自分で学んできましたが、支えている理論が変わってきています。時には学術書や専門書を読んで今を学ぶ必要があるということです。
中内 他の大学でも講義することがあるのですが、自分の頭の中を整理するには良い機会になります。神戸大学の学生は優秀ですから、いい加減なことを言うと見透かされてしまいそうで、自分なりにかなり準備しました。
魅力は〝慶應ネットワーク〟
―慶應の教えがビジネスで役立っていると思うのはどんな時ですか。
中内 教わったことがそのまま役立つかといえば、それはどこの大学でも同じこと。慶應のネットワークの強さが役立っています。困った時など、たとえ知り合いでなくても同窓ということで相談できることです。大学内では教授も学生も「君」づけで呼び合います。「先生」は福沢諭吉先生だけなのです。同じ先生から学んだ弟子というイメージで慶應の卒業生「塾員」は皆、つながっています。
―塾員のお二人は神戸慶應倶楽部の幹事長と副幹事長ですが、それぞれの役割は?
河野 神戸慶應倶楽部を引っ張る役目の会長が決める方針に沿って、実際に計画を立て、遂行するのが役割です。お引き受けして初めて知ったのですが、激務です。それをサポートしてくれるのが副幹事長です。
中内 副幹事長は何人かいますからね。幹事長は大変だと思いますよ。
―今後の神戸慶應倶楽部について。
河野 ここ十数年、不景気が続いたせいか神戸から慶應へ進学した人が減っているのです。帰って来る人も少ないわけです。それを如何に食い止めて会員数を維持していくかが課題。ローラー作戦で頑張っているのですが横ばい状態です。奨学金制度を立ち上げて慶應への進学をサポートするという夢の実現のためにも、会員を増やしていきたいと考えています。
中内 仁(なかうち ひとし)
神戸ポートピアホテル 代表取締役社長
1966年12月生まれ。神戸市出身、慶応義塾大学卒。平成元年神戸ポートピアホテル入社、1999年より同社代表取締役社長(現職)。日本ホテル協会理事、神戸商工会議所観光集客委員会委員長、神戸経済同友会副代表幹事、趣味は、旅行・読書・ゴルフ。
河野 忠友(かわの ただとも)
カワノ株式会社
代表取締役社長
1966年4月生まれ。神戸市出身、1985年兵庫県立長田高等学校卒、1989年慶應義塾大学卒、同年全日本空輸株式会社入社、平成4年カワノ株式会社入社、2006年より同社代表取締役社長(現職)。趣味は鉄道(乗り・撮り)・読書・グルメ・音楽鑑賞。