9月号
縁の下の力持ち 第15回 神戸大学医学部附属病院 国際診療部
名実とも〝国際都市〟にふさわしい病院を目指す
外国人の受診サポートから、海外渡航前の準備や帰国後の健康相談まで、感染症と旅行医学専門医が対応する国際診療部。国際基準を満たすための改革にチャレンジしている。
―国際診療部のスタッフは。
感染症内科の医師、看護師などスタッフが兼任しています。国際診療部では感染症が一つの大きな要素を占めています。外国で流行している感染症が日本に持ち込まれた場合の治療や、日本から外国に行く場合の予防接種や予防薬の処方は感染症内科の担当ですから深い関りがあります。
―主に感染症対策ということですか。
感染症に限らず、海外旅行に行ったとき帰ってきたとき、飛行機に乗ったとき、どういう病気になるのか、どう対処したら良いのかなどアドバイスしています。
―誰でも相談できるのですか。
そうです。皆さんに身近な例では時差ボケ予防やエコノミー症候群の診断・治療、またインスリン注射が必要な糖尿病患者さんやCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の患者さんが飛行機で海外へ出かけるときのアドバイスなど、短期の旅行や長期滞在かで対処の仕方も変わってきます。
―日本に住む外国人に対応していると思っていましたが…。
もちろん、英語をはじめとして医療通訳も大きな役割です。私たちでは対応できない言語については専門の団体に依頼します。各診療科の先生方に治療をお願いする場合や手術を受ける場合もフォローします。逆に、海外から日本に来て病気になった患者さんから診断書の依頼を受けますし、ICCRC(神戸大学医学部附属国際がん医療・研究センター)を通じて日本の医療を受けに来る外国人への対応もしています。
―海外との人の行き来が盛んになる今後、ますます担う役割が大きくなりますね。
オリンピックに続き、大阪万博が開催され日本に来る外国人は増え、人口減少に伴って外国からの労働者も増えてくるでしょうね。その方たちの健康診断や予防接種、保険診療をどうするのか?大学病院に窓口を一つつくっても解決できるものではなく、グランドデザインが必要です。本来、行政の仕事なのでしょうが、現場レベルで今できることをやるのが私たちの務めだと考えています。
―私たちにできることは。
以前、アフリカで流行したエボラ出血熱が今、コンゴ民主共和国で流行しています。でも日本では報道されていません。遠い国のことなど関係ないと言っている場合ではなく、世界で起きていることにもっと敏感にならなくてはいけませんね。気軽に外国へ行くのもいいことですが、犯罪や災害のリスクと同じように病気に対しても危機感を持ち自分の身は自分で守らなくてはいけません。
―岩田先生が感染症を専門にされたのはなぜ?
感染症は発展途上国でも、先進医療の中で例えば臓器移植手術後など、どこでも起きうるものです。私は世界中で通用する何かをやりたいという気持ちがあり、結果として感染症を専門に選ぶことになりました。
―やりがいのある仕事ですね。ストレスなし?
100%の医療はありません。上を目指し、常にチャレンジしていますからストレスがあり、だからやりがいがあります。
―今、チャレンジされていることは。
たくさんありますが、まず外国から来た人たちを病気に起因するストレスから解放してあげること。言語や文化の違いを乗り越えるための国際性を病院全体につくりたいと、国際基準に照らし合わせて不足している部分を補おうとしています。従来、日本語しかなかった検査や治療の同意書を英語でも作成しましたし、重複している手続きや不要な書類などの簡略化を進めています。外国人に限らず、病気で来られている患者さん、特に高齢の方には私たちにとって当たり前のことでもとても大変です。患者さんの気持ちが分かった上での医療サービスが大切です。
―なぜ神戸大学病院へ?この街の印象は。
神戸の街は好きですよ。海があり、すぐそばの山に行けばふるさと島根を思い出す懐かしい風景があります。神戸大学が兵庫県内の医療を担っているのですから、いい病院にすることは県内の医療レベルを高めることになります。これは私のミッション、チャレンジの一つです。