9月号
国と国の思いをかけた、肉体のぶつかり合い! をぜひ会場で!
名門・早稲田大学ラグビー部出身の増保さんは、ラグビーワールドカップ(W杯)1991・1995・1999年の3大会に日本代表として出場。神戸製鋼V7時代の後半には同チームに在籍し、その後監督を務めた。アジアで初めて日本で開催されるW杯の見どころを伺った。
日本代表が強くなった節目
―増保さんは19歳で日本代表に選ばれましたね。
非常に良い経験をさせていただきました。当時はまだ第2回のW杯で、完全なアマチュアの大会でした。現在より牧歌的なというか、試合が終わった後は相手チームとディナーを囲んでお酒を飲んだりして、それで各国の選手と仲良くなったりしました。今は試合後はコンディションの問題がありますし、お酒も飲みませんからそんなことは一切ありませんけどね、そんな時代でした。
91年に、日本としては初めてジンバブエに勝ちましたが、95年にはニュージーランドに記録的な大敗を喫し、それから前回の2015年に勝つまで24年かかりましたね。ですから95年の大敗が、ネガティブでしたが日本ラグビー界にとっては節目だった気がします。2003年大会ではスコットランドとの試合で、観客の胸を打つ試合ができた日本代表は、「勇敢な男たちだった」と評価され、『チェリーブラッサム(開花する桜)からブレイブブラッサム(勇敢な桜)』と、海外メディアが紹介してくれまして、これが今でも日本代表の思いになっているようです。
―では、前回大会の歴史的勝利は喜ばれたでしょうね。
それが試合の途中で眠ってしまいまして(笑)。というのは、南アフリカ戦の勝利は、関係者が一番信じていなかったんですよ。それほどすごいことなんです。南アに勝つということがどんなにすごいことか、メディアも含めて一般の方はよくわかっておられなかったでしょうね。2011年大会までは、どちらかといえば相手国にチャレンジをする心構えでぶつかっていたと思います。それが2015年大会の日本代表選手たちは、挑戦者ではなく同じ土俵で戦っていました。格上感すら漂っていて、相手を受け止める感じでしたね。ぼくらのときと違って、アジアのチームも格上のチームとどんどん当たるような編成になっており、練習も相当ハードなものですしね。我々は古き良きラグビーでしたから、ぼくら元選手たちはみんな、早く引退して良かったね、と言っています(笑)。
―現在は、神戸製鋼のチームアドバイザーでおられます。
ぼくが監督時代にマネージャーだった福本正幸さんに手伝ってほしいと言われて、現場には出ていませんが、どの外国人選手を入れるかといったような編成のサポートをしています。総監督のウェイン・スミスをはじめ、良い縁ができていいチームづくりができていると思います。スミスはニュージーランド代表・オールブラックス(AB)の出身です。ABには『良い人間がABを作る』という考えがあって、いま在籍している選手は「きみたちはこの時代にABのジャージを借りているだけであって、その価値を高めて次の世代にわたす絶対的な責任がある」と言われるんだそうです。そのために立ち居振る舞いや、ラグビーに対する取り組み方などを自分で考える。神戸製鋼でもその考えに沿って、何のため、誰のためにラグビーをやっているのかをまず考えなさいと言っています。
9月20日、W杯開幕!
―いよいよW杯日本大会が開幕しますが、日本代表は。
予選突破の可能性は十分あると思います。日本での大会という地の利、前回と違って日程がとても良いということ、最初にロシア、そしてアイルランド、サモア、スコットランドという対戦相手の順番も理想的です。気候の点でも良いでしょう。ラグビーというのは、ドームのような屋根がついたグラウンドでやると良くないんですよ。番狂わせが少ないスポーツなので、雨とか暑さとか湿度といった外的要因があった方がいい。もちろん日本に不利になる場合もありますが、何かそこに隙やミスが生まれたりしてゲームがひっくり返る可能性が出てくるわけです。それが楽しみです。しかしスコットランドもそうですが、サモアもとても強いチームです。メディアではサモアには勝つということが前提みたいになっていますが、ぼくは五分五分だと思います。選手たちもそれはわかっていると思いますが、油断はできませんよ。
―2連覇中のニュージーランドが優勝候補でしょうか?
今回のニュージーランドは、圧倒的に強いというわけではありません。アイルランドは安定して強いですし、南アフリカも調子が上がってきています。ですから大本命というチームがなく、どこが優勝してもおかしくない。非常に面白いW杯になると思います。
―今回のW杯の誘致にも尽力したのが平尾誠二さん(故人)ですが、関東出身の増保さんが神戸製鋼に来られたのも平尾さんに口説かれてですか。
日本代表で一緒にやっていて、可愛がってもらいましたが、本当に格好いい人でしたね。ラグビーも勿論上手いですが、人をまとめる力もあるし、会話もウィットに富んでおもしろくて、人としてバランスがとれた人でした。平尾さんの何が素晴らしいかと言えば、スキル的なことは勿論ですが、判断力であったり、ゲームの読みが優れていて、非常に広い視野を持っていたことです。平尾さんは、神戸製鋼の優勝と、W杯の成功、これが自身の最大の目標でしたから、ぜひ今回の大会を成功させて、平尾さんに恩返しできればと思います。
―ラグビーの醍醐味はどんなところにありますか。
ラグビーというのは非常に制約の少ないスポーツで、ボールを持って走れるところまで走り、それを止めるために肉体と肉体がぶつかり合います。昔は、国と国との代理戦争であったという歴史的な経緯もあります。自分たちが戦えないので選手たちに思いを託した、そういう国と国を賭けた激しさというものを見ていただきたいです。特にW杯は、選手たちは国を代表しているという思いが大きいですから、いつも以上の力を発揮しますので、そういう迫力とか、スピードを目にしていただきたいですね。できれば試合会場に足を運んでいただき、両国の国歌を聴いて、キックオフがあってという一連のプロセスを体験してほしい。これはなかなか日本で見られることではありませんので。
今回、W杯の選手を受け入れる開催都市で各国の国歌を覚え、国歌斉唱のときにスタンドで一緒に歌おうというプロジェクトを進めていますが、こういうおもてなしもとても良いことだと思います。
増保 輝則(ますほ てるのり)さん
神戸製鋼コベルコスティーラーズチームアドバイザー
ラグビーワールドカップ2019アンバサダー
1972年東京生まれ。早稲田大学を経て、1994年に神戸製鋼に入社し7連覇目を経験。
1999年からはキャプテンを務め、1999年度、2000年度に全国社会人大会連覇と日本選手権連覇を成し遂げた。日本代表には、当時史上最年少の19歳3カ月で選出され、第2回(1991)、第3回(1995)、第4回(1999)ラグビー・ワールドカップに出場している。2019年ラグビーW杯初代アンバサダーに就任し、W杯の成功のため、全国においてPR活動及び普及・育成活動に携わる。2017年より神戸製鋼コベルコスティーラーズのチームアドバイザーにも就任。芦屋在住