9月号
私の 神戸未来図 「安穏と待っていても、まちに人は集まらない」
安穏と待っていても、まちに人は集まらない
ラグビーワールドカップ2019日本大会開催や、ワールドマスターズゲームズ2021関西、更には2025年大阪・関西万博開催決定など、関西、神戸に人が集まる絶好のチャンスが訪れている。精力的に動き始めている神戸観光局会長の尾山基さんに、今年のこと、今後の展望などお聞きした。
一般財団法人 神戸観光局 会長
株式会社アシックス
代表取締役会長CEO
尾山 基さん
淡路島や姫路もリンクした神戸観光圏の魅力化に向けて
―神戸観光局とは。
民間の視点をもって行政と連携し、神戸市及びその周辺地域の観光を促進し、インバウンドやMICEなどを誘致しようと、神戸国際観光コンベンション協会を改組し2017年に設立されました。
―現段階での大きな目標は。
神戸観光局の基本方針の一つに『「神戸観光圏」の結集と関西圏との連携』ということを掲げています。例えば六甲山を広域でとらえ、西宮や宝塚、芦屋から須磨までの行政区を超えたプロモーションに各市と連携して取り組んでいます。また、西に目を向けると、世界遺産の姫路城もあります。近い将来は淡路島も含めて各地とリンクした「神戸観光圏」の魅力化を推進していこうと計画しています。
―具体的にはどういうプランを?
規制が一部緩和された六甲山と摩耶山に滞在施設が整備されるといいですね。有馬温泉にもすぐに足を延ばすことができ、地理的には須磨海岸や明石海峡大橋などのウォーターフロントもリンクさせたいと思います。京都へも往復できますし、滞在型レジャーが可能です。
また、旅行会社とも連携して、ヴィッセル神戸や阪神タイガースの観戦ツアー、神戸フィルムオフィスのロケ地ツアー、県内の安藤忠雄建築を見て回る海外からの観光客を対象にしたツアーなど、局内では話をしています。アイデアは尽きませんね。
―兵庫県内には観光資源がたくさんありますね。
欲張ると伝わらないので、神戸観光局としては期間を決めどの部分を強化していくかを考えています。例えば、今年のラグビーワールドカップでは、欧米豪を中心に延べ3万6000人の外国人が神戸に来ると想定しています。
観戦後、午後10時以降に三宮・元町にやって来る外国人のナイトタイムエコノミーを見据えて、この度、事業提案を公募し、6事業者を選定したところです。兵庫県ゴルフ連盟にもお願いし、期間中には神戸市内をはじめ、三木市等のゴルフ場とタイアップして、海外のお客さんがプレーできるよう準備を進めていただいています。食ではまず神戸牛、そして灘の酒のPRに力を入れています。
神戸の強みはMICE。しかし、安穏としてはいられない
―「ビジット・ジャパン」は今や4千万人に達しようとしています。どうご覧になっておられますか。
国の施策がうまく回ったと思いますね。前段として2000年初頭から、各国が中国人へのビザ解禁を本格化して以来、中国人旅行者への海外への門戸が開かれました。以降、日本も中国をはじめ、アジア各国に対するビザ発給要件を段階的に緩和し、インバウンドを堅調に伸ばしてきました。ちょうどアジアの経済成長やLCCの成長もマッチしたことが功を奏したのではないかと考えます。
―京都・大阪はオーバーインバウンドといわれていますが、神戸については。
昨年のインバウンドは国全体で3100万人、大阪・京都が1900万人、神戸へは140万人でした。大阪や京都では混雑がひどく、市民生活への支障も出ています。神戸では、市民生活と観光振興が共存できる形があるべき姿で、過度な混雑は避けなければなりません。現在は大多数がアジアの方ですが、ラグビーワールドカップでは欧米豪からの方に向けたPR動画を作成し、ターゲットを絞って発信しています。
―MICE誘致についてはどうお考えですか。
昨年発表の国際会議開催件数で、神戸は国内第2位となりました。神戸にはコンベンション会場とホテルが同地域にあるという強みがあります。しかし、2020東京オリンピック・パラリンピックに向けた東京ビッグサイトの拡充やパシフィコ横浜の規模拡大等、他都市では施設整備の動きが活発化しています。一方、神戸は施設も老朽化しており、安穏としてはいられません。施設の再整備、空港の活性化や二次交通の課題など、官民一体での議論が必要です。
―3空港一体運営は今後の強みですね。
神戸空港の受け入れのキャパシティが増えたことは確かですが、羽田空港は既に2020年に向けて拡張工事に入っていますし、成田空港も拡張計画案があります。関西3空港も早急に対策を取らなくては、神戸というより関西に外国から人が来なくなってしまいます。直接関西に入って来て西日本一帯へ行くという流れをつくるために3空港一体での取り組みが重要です。
―東京オリンピック、大阪万博の影響はどうでしょうか。
2012年のロンドンオリンピック・パラリンピックでは、競技は市内中心でしたが、文化関連事業は国内全域で開催され、観戦に訪れた人たちは他都市も巡りました。そうした人の流れを見ると、東京へ来た人も全国を回ると考えたほうがいいでしょうね。21年以降については、25年の大阪・関西万博に向けて考えるべきです。私は経産省の大阪・関西万博具体化検討会の委員として夢洲の会場予定地へも行きましたが、対岸が尼崎、遠景にポートアイランド、その間には六甲アイランドもあり、神戸・阪神間が近いと実感しました。神戸に泊まって船などで万博へ行き、さらに夢洲と尼崎のルートを整備すれば、IR実現後の兵庫県全体の活性化につながるのではないでしょうか
建物を造る。次に重要なのはプラスアルファ
―ウォーターフロントもハード面で充実してきました。どうご覧になっておられますか。
震災後のまちづくりについては短期間にビルを建て直すことに重点を置いてきました。都市型災害であったがゆえに致し方ないことですが、港周辺の古いビルも無くなり画一的になってしまったのは少し残念ですね。また、まちに音楽と絵画を取り入れるとしていましたが、兵庫県立美術館と兵庫県立芸術文化センターを集約して道路網を整備できていればもっと違った展開になっていたのではないでしょうか。王子動物園から兵庫県立美術館への道路をミュージアムロードとしていますが、これには安藤忠雄さんも賛同し、協力もされています。更なる緑化や、沿道へのデザイナーによる出店など、官民一体の取り組みでエリアの魅力が一層高まることを期待しています。
―三宮周辺に文化ホールや百貨店が充実しますね。
まちで最先端のものを見て買い物はネットでという時代です。消費してもらうためにはプラスアルファの仕掛けが必要です。例えば阪急うめだ本店のコンセプトは「暮らしの劇場」です。年間を通じて多くのフェアを開催し、お客さんはついでに買い物をします。建て替えをして「買い物に来てください」というだけでは、今の人たちの行動パターンには合いません。食べる、見る、聴く、鑑賞するなどというコト消費による価値をどう付け加えられるか?これが今後の大きなポイントです。
―芸術文化に関してご自身が楽しみたいことは。
県立美術館の蓑館長のお考えで世界中の美術館とネットワークを結び、すごくいい展示を開催しています。Ando Galleryもできましたしね。神戸市立博物館などとも連携が深まるとより魅力的になると思います。世界で活躍する指揮者・佐渡裕さんも阪神間にお住まいですから、戻って来られた時には神戸に協力いただけたらいいですね。
―当面の課題は。
神戸観光局のインバウンド戦略で第一ターゲットを欧米豪として取り組んでいますが、受け皿となるホテルが課題と考えています。井戸知事もおっしゃっていますが、特に富裕層に向けた外資系の高級ホテルや、ゆったりと滞在してもらうためのリゾートホテルができれば、さらに神戸をアピールできると思います。
―いろいろなことが動き始めているのですね。これからも神戸市、そして兵庫県のためによろしくお願いいたします。
尾山 基 (おやま もとい)
株式会社 アシックス
代表取締役会長CEO
1951年生まれ。1974年大阪市立大学商学部卒業。1982年株式会社アシックス入社。2008年代表取締役社長。2011年代表取締役社長CEO。2018年代表取締役会長CEO(現任)。一般社団法人 日本スポーツ用品工業協会 会長。神戸商工会議所副会頭