10月号
心の中につくった壁を乗り越えよう|六甲学院OB会75周年
古泉 肇 さん 六甲学院中学校・高等学校 校長
小さな木箱を大事そうに抱えて教室に入って来られた古泉肇校長。教室からあふれるほど詰めかけた〝生徒〟たちが「なに?なに?」と興味津々な中、〝校長先生〟の授業が始まった。
伝統を重んじ時代の最先端をいくレトロ・モダンな教育
「六甲学院とは?」。難しいお題を頂きました。古めかしい学校という印象をもたれがちですが、校舎のコンセプト「レトロ・モダン」と同じく、教育も伝統を重んじつつ時代の最先端をいっているのが六甲学院です。私の授業も内容は最先端ですが、デジタル機器など一切〝使わず〟、決して〝使えず〟ではないですよ(笑)、黒板とチョークで極めてレトロ。今日は六甲学院の教育の中から「心の中の壁を乗り越える」ということをお話ししようと思います。
「どうせダメ」ではない! ノーベル賞も身近なもの
最近の六甲生は、「どうせダメ」と口にする傾向があります。生徒に「ノーベル賞を取れると思う?」と尋ねると、「六甲じゃ無理。灘とかじゃないと」などと言います(笑)。
さて、ここですごい物をお見せします。野口英世がアメリカで研究に使っていたフラスコです。野口英世は自分で自分に限界をつくらなかった人です。東北の貧しい農家に生まれ、幼い頃にやけどを負い左手が使えなくなる。そんな状況でも「どうせダメ」などと考えず全てを良い方法へと変えていき、他者のために一生を捧げました。そして細菌学で3回もノーベル賞候補に挙がった人です。
おそらく世界に二つしかないフラスコの一つがなぜ六甲学院にあるのか?本校11期生の井上正順さんの所蔵品を寄贈いただいたものです。井上さんの研究成果は後のノーベル賞の基礎になったといわれ、最もノーベル賞に近い六甲卒業生です。「ノーベル賞なんて遠い存在と思っているかもしれない。でも、自分自身が思いさえすれば身近なものになるんだ」。現在もアメリカで生理学の研究を続けておられる井上さんは、そんなメッセージを後輩たちに伝えたいのだと思います。自分の心の中に見えない限界をつくらないでほしい。夢をもってコツコツと頑張るなら、学校としても応援していこうとしています。
世間一般とは一線を画す六甲学院のグローバル教育
六甲学院ではグローバル教育に力を入れています。しかし、それは世間が言う「英語をちゃんと使えるようにしましょう」などという考えとは一線を画すものです。国境や、言葉や文化の違いなど人間がつくったものではない地球的な視点で世界を見ようという考え方です。本来、グローバル教育の目的は世界の経済的格差を無くすことであるべきです。ところが今の世の中、格差は広がるばかりです。私たちは本来の意味に戻ってグローバルな人間を育てようとしています。ですから、全員そろって海外へ研修旅行に出かけるなどということはありません。40年続くインドとの交流をはじめ、六甲学院独自のプログラムをもっています。
グローバル化にはもちろん言葉や国や人種の壁を乗り越えることも必要です。しかし最も難しいのは、自分の心の中に勝手に作ってしまった壁をまず乗り越えることです。ここで改めてOBの皆さん、現役生、そして六甲学院を目指す皆さんに「『どうせダメ』というのは、自分が心の中の壁を乗り越えようとしない人の言葉。これは一番使ってはいけない言葉」とお伝えしたいと思います。