2017年
8月号
「音楽で生活するのは確かに大変です」と間瀬さん。「でもそんな時代だからこそ、夢を持って音楽科へ来る子たちの歩みを止めてはならないと思います」

神戸鉄人伝 第92回 マリンバ奏者 間瀬 尚美(ませ なおみ)さん

カテゴリ:絵画

剪画・文
とみさわかよの

マリンバ奏者
間瀬 尚美(ませ なおみ)さん

 振り上げられたマレット(ばち)が宙を切り、鍵盤を連打すると音が転がるように飛び出してきます。魔術のようにマレットを扱い、旋律を奏でる間瀬尚美さん。時には大胆に、時にはしっとりと。あの素早さで正確に叩けるなんて、素人には神業に見えますと言うと、「勘ですよ、感覚!」とにっこり。チャーミングな笑顔に、芯の強さを感じさせるマリンバ奏者、間瀬さんにお話をうかがいました。

―マリンバを始められたのは?
 3歳からピアノは習っていましたが、小学生の頃から木琴が大好きでした。音楽会で木琴を志願して、とても上手に弾けたのにジャンケンに負けて弾かせてもらえず、一日中号泣しました。それが悲しくて、マリンバのお稽古に行くようになったんです。その後「マリンバを専攻できる学校へ行きたい」と、神戸山手女子高等学校の音楽科に進学しました。

―もうその頃には、マリンバ人生が始まっていたと。
「打つ、弾く」という行為は私にとってすごく自然で、自分の中に入っている動作なんです。だから違和感なく「自分に合ってる」と思える。そういう楽器に出会えたのは、本当に幸せですね。小学校6年生の時の夢は「マリンバの先生になる」でしたから、その頃から既にマリンバ一筋でした。

―そして進学した学校で、師匠と巡り会ったわけですね。
 高校1年生から宮本慶子先生の指導をみっちり受けました。大学は講師陣が充実しているからと、同志社女子大学学芸学部音楽学科へ進みました。大阪フィルハーモニー打楽器奏者(当時)の中谷満先生や、アンサンブル タケミツの打楽器奏者・山口恭範先生方に指導していただき、特別専修課程を含め5年間、とてもぜいたくな時間でした。もちろん宮本先生は、生涯の師。今の私があるのは、先生のおかげです。

―さて、学校を卒業してからは?
 ピアノや声楽専攻の人は留学することもありますが、私は国内に留まりました。日本人のマリンバ奏者はレベルも高く、日本へ学びに来る学生も居るくらい。まずは日本で実績を積んで認められようと、コンクール出場を重ねました。KACCオーディション合格、神戸新聞松方ホール音楽賞、神戸新人音楽賞コンクール優秀賞などを受賞し、リサイタルも開催しました。最初に地元の神戸で評価して貰えたので、恩返ししなくてはという思いは格別強いです。今も宮本先生率いる神戸マリンバソサエティの一員として、神戸を中心に活動させていただいています。

―日本はマリンバ先進国とのことですが、海外へ演奏に行かれたことは?
 20代後半の頃、ベルギーのコンペティションやアメリカのフェスティバルに参加しました。海外の奏者のレッスンを受けたり、ジュリアード音楽院の学生たちと演奏したりして、日本のマリンバ教育の質の高さを再認識できました。自分が日本で活動することは間違っていない、と自信にもつながりましたね。現在は県立西宮高等学校音楽科、神戸女学院大学音楽学部、大阪音楽大学でマリンバ専攻生の指導にもあたっています。

―これからの奏者たちを指導する時、意識していることは?
 今の時代、ポップスなど他ジャンルとのコラボレーションは必要ですが、クラシックを学んできた者として、流されずに伝統的に守られてきた道を示したいと思っています。でも音楽は時代によって変化するもの。昔はいかにも打楽器らしい硬い音で演奏していましたが、今は柔らかい曲想が主流なので、マレットのチョイスも変わってきました。アンテナを張って日々努力しないと、演奏スタイルが古くなってしまいます。マリンバはまだまだ進化する楽器ですから、学生たちには伝統的にも現代風にも、柔軟に演奏できるように指導しています。        (2017年6月25日取材)

 楽器や奏法が進化するなら、奏者もまた進化するのでしょう。頑張り屋の間瀬さんに、エールを送ります!

「音楽で生活するのは確かに大変です」と間瀬さん。「でもそんな時代だからこそ、夢を持って音楽科へ来る子たちの歩みを止めてはならないと思います」

とみさわ かよの

神戸のまちとそこに生きる人々を剪画(切り絵)で描き続けている。平成25年度神戸市文化奨励賞、平成25年度半どんの会及川記念芸術文化奨励賞受賞。神戸市出身・在住。日本剪画協会会員・認定講師、神戸芸術文化会議会員、神戸新聞文化センター講師。

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