8月号
神戸鉄人伝 第92回 マリンバ奏者 間瀬 尚美(ませ なおみ)さん
剪画・文
とみさわかよの
マリンバ奏者
間瀬 尚美(ませ なおみ)さん
振り上げられたマレット(ばち)が宙を切り、鍵盤を連打すると音が転がるように飛び出してきます。魔術のようにマレットを扱い、旋律を奏でる間瀬尚美さん。時には大胆に、時にはしっとりと。あの素早さで正確に叩けるなんて、素人には神業に見えますと言うと、「勘ですよ、感覚!」とにっこり。チャーミングな笑顔に、芯の強さを感じさせるマリンバ奏者、間瀬さんにお話をうかがいました。
―マリンバを始められたのは?
3歳からピアノは習っていましたが、小学生の頃から木琴が大好きでした。音楽会で木琴を志願して、とても上手に弾けたのにジャンケンに負けて弾かせてもらえず、一日中号泣しました。それが悲しくて、マリンバのお稽古に行くようになったんです。その後「マリンバを専攻できる学校へ行きたい」と、神戸山手女子高等学校の音楽科に進学しました。
―もうその頃には、マリンバ人生が始まっていたと。
「打つ、弾く」という行為は私にとってすごく自然で、自分の中に入っている動作なんです。だから違和感なく「自分に合ってる」と思える。そういう楽器に出会えたのは、本当に幸せですね。小学校6年生の時の夢は「マリンバの先生になる」でしたから、その頃から既にマリンバ一筋でした。
―そして進学した学校で、師匠と巡り会ったわけですね。
高校1年生から宮本慶子先生の指導をみっちり受けました。大学は講師陣が充実しているからと、同志社女子大学学芸学部音楽学科へ進みました。大阪フィルハーモニー打楽器奏者(当時)の中谷満先生や、アンサンブル タケミツの打楽器奏者・山口恭範先生方に指導していただき、特別専修課程を含め5年間、とてもぜいたくな時間でした。もちろん宮本先生は、生涯の師。今の私があるのは、先生のおかげです。
―さて、学校を卒業してからは?
ピアノや声楽専攻の人は留学することもありますが、私は国内に留まりました。日本人のマリンバ奏者はレベルも高く、日本へ学びに来る学生も居るくらい。まずは日本で実績を積んで認められようと、コンクール出場を重ねました。KACCオーディション合格、神戸新聞松方ホール音楽賞、神戸新人音楽賞コンクール優秀賞などを受賞し、リサイタルも開催しました。最初に地元の神戸で評価して貰えたので、恩返ししなくてはという思いは格別強いです。今も宮本先生率いる神戸マリンバソサエティの一員として、神戸を中心に活動させていただいています。
―日本はマリンバ先進国とのことですが、海外へ演奏に行かれたことは?
20代後半の頃、ベルギーのコンペティションやアメリカのフェスティバルに参加しました。海外の奏者のレッスンを受けたり、ジュリアード音楽院の学生たちと演奏したりして、日本のマリンバ教育の質の高さを再認識できました。自分が日本で活動することは間違っていない、と自信にもつながりましたね。現在は県立西宮高等学校音楽科、神戸女学院大学音楽学部、大阪音楽大学でマリンバ専攻生の指導にもあたっています。
―これからの奏者たちを指導する時、意識していることは?
今の時代、ポップスなど他ジャンルとのコラボレーションは必要ですが、クラシックを学んできた者として、流されずに伝統的に守られてきた道を示したいと思っています。でも音楽は時代によって変化するもの。昔はいかにも打楽器らしい硬い音で演奏していましたが、今は柔らかい曲想が主流なので、マレットのチョイスも変わってきました。アンテナを張って日々努力しないと、演奏スタイルが古くなってしまいます。マリンバはまだまだ進化する楽器ですから、学生たちには伝統的にも現代風にも、柔軟に演奏できるように指導しています。 (2017年6月25日取材)
楽器や奏法が進化するなら、奏者もまた進化するのでしょう。頑張り屋の間瀬さんに、エールを送ります!
とみさわ かよの
神戸のまちとそこに生きる人々を剪画(切り絵)で描き続けている。平成25年度神戸市文化奨励賞、平成25年度半どんの会及川記念芸術文化奨励賞受賞。神戸市出身・在住。日本剪画協会会員・認定講師、神戸芸術文化会議会員、神戸新聞文化センター講師。