7月号
「農と自由に関わる人が、 神戸の街に増えたらいいな」 | EAT LOCAL KOBE Presents
北区・淡河地区。誰もが農業に挑戦できる「マイクロファーマーズスクール」は、地産地消の新しいプラットフォーム「EAT LOCAL KOBE」から派生した農業の学校です。今の仕事に農業を生かしたい人や自分の食べる分だけ野菜を育ててみたいという人など、受講生の個性も様々。自由に農と関わる〝マイクロファーマー〟
という新たな就農の形が、今後神戸で広がっていきそうです。
森本 聖子さん
農家/マイクロファーマーズスクール講師
きっかけはプランター菜園 会社員から農家に転身
神戸の街から車で約30分。農家の森本さんが手がける約40アールの畑があるのは、美しい里山に囲まれた自然豊かな淡河町。
「これはクラフトビールの原料になるホップです。ちょっと嗅いでみますか?」。少量多品種を育てる畑に案内してもらうと、爽やかな香りのホップや春キャベツ、ブロッコリー、珍しい品種の野菜まで、愛情を込めて作られた様々な作物が。
農家になって11年。聞けば、農家に生まれ育ったというわけではなく、以前は旅行代理店に勤務していたそう。なぜこの道へ進んだのでしょう?
「会社員時代に、プランター栽培にハマったんです。まずはハーブなど育てやすいものからスタートして、次第に家のベランダでは手狭になりました。そこで貸し農園を借りてみたいと思うようになって」。そして検索で偶然ヒットしたのが、ここ淡河町の農園。1年足らずで農園を借りて、当時住んでいた兵庫区の自宅と淡河の畑を行き来する生活へ。会社員をしながらも、農への興味がますます膨らんでいったといいます。
農家になるには? とネットで調べてみても、全然わからない。でも、もっと農業の勉強がしてみたい。そんな思いを胸に、三宮の就農講座へ。最終的には仕事を辞めて兵庫県楽農生活センターが開く1年間の新規就農養成講座を経て、淡河町に就農することになりました。
「仕事は楽しかったけれど、目に見えるものを売る仕事や手に職をつけることに内心憧れていたんです」。30歳というタイミングも良かったと当時を振り返ります。「チャレンジするなら今かなって。無理だったとしてもまた以前の仕事に戻れるかもと考えていたので、思い切った感覚ではなかったですね。もっと普通は悩むんでしょうけど(笑)」
神戸ならではの立地を生かして〝小さな兼業農家〟をサポート
農業を学んでみたい人や、農業以外の仕事と両立させるマイクロファーマーを目指す人、それよりももっと小規模であっても農業で収入を得てみたい人。EAT LOCAL KOBEが主宰する「マイクロファーマーズスクール」では農業へのハードルを一段階下げて、誰もが小さな兼業農家を目指すことができるような環境をサポート。また、農業や食、環境に関心を寄せる若い世代が農と触れ合う学生向けの「マイクロファーマーズユース」も並行して開校し、未来を担う世代にも門戸を開きます。森本さんはその2つのスクールで自身の経験を生かして、講師としても農の知識や楽しさ、リアルを伝えています。
「農家になることがどういうことかわからなかった中で勢いよく飛び込んだ農業の世界。今はこうして兼業もアリだよねとスクールをしていますが、私が就農した当時は親が農家でない限りはその選択肢もありませんでした。でも実際は、この淡河でもほとんどが兼業農家なんですよね」
神戸の街は、実は3分の1が農地であり、都市と農村の距離感も密接です。「神戸で農家をするなら、街と農地を行き来するにも気楽な距離感。専業にこだわらなくてもいいと思います。むしろ神戸は、小さな兼業農家に向いている場所だなと感じますね」
2020年に開校し、今年の秋で3期生を迎えるスクール。神戸市で新たに創設された就農制度「ネクストファーマー制度」の研修認定校にも登録されたことで、従来であれば農家資格を得るためには仕事を辞めることを余儀なくされていた状況から、仕事を続けながらも新規就農やマイクロファーマーを目指せるように。都市と農村が近い神戸らしく、農との自由な関わりを後押ししています。
1年間のスクールで意識がガラリと変わるはず
現在2期生は16名。ほとんどが30~40代で、税理士、カメラマンなど職業もバラバラだそう。「面積にもよりますが週に2~3日畑に従事できるならそれなりに成立すると思います。すでにご自身の仕事で食べていけている人たちなら、安定感も増してむしろいい選択肢なんじゃないかな」
ちなみに森本さんが新規就農した際、一番大変だったのは野菜の不出来などの部分よりもむしろ「会社でいうところの起業部分」だったそう。「学校でも、みんな仲間だけどライバルみたいでした。そしていざ就農できても、今度は村のルールがわからない。やっぱり土地と共にあるのが農業なので、村の人達とのコミュニケーションは必要ですよね。作物の育ちに関しては、気候に左右されるのは仕方のないことなので覚悟していましたけれど」
そんな自身の経験を生かして、農薬や化学肥料を使わない有機肥料を中心とした野菜の栽培だけでなく、農村での暮らしや地域との関わり方などを伝えながら、淡河で実践を重ねています。
「半年ごとのプレゼンではみなさんに今後農業とどう携わっていくかをお話ししていただくのですが、ほとんどの人が半年後と1年後で気持ちが変わります。嬉しいのは、今後淡河やそのほかの神戸の農地に何かしら関わってみたいと感じてくれること。農業だけではなく最終的には神戸の農村部に人が増えることが一番の底上げになってくれると感じています。また、卒業後はきっとスーパーや農村に行った時の感じる思いにも変化があると思います」
「自身の仕事+α農業」の新しいカタチが増加中
「このスクールは、私が通っていた学校のように就農率を上げようと意気込むようなものとはまた違います。死ぬまでずっと食べ続ける作物の作り方を学び、しかもそれが農薬を使わない栽培ならどれだけ作るのが大変なのかということを実感してもらえるんですよね」
森本さんが近頃いいなと感じているのは、今の仕事と農業をうまく絡める受講生が多いことだとか。
「ヨガの先生をしている人が野菜を教室で販売したり、福祉のお仕事をしている人が給食に野菜を使ったり、飲食店を経営している人もいます。今のお仕事に農業を上手に絡めていていいなと思うんですよね。みなさん口を揃えて言うのが、『自分の食べるものぐらいは自分で作りたい』ということ。自分や家族の分ぐらいであれば少しの面積でも叶いますし、近頃野菜が高いなんて言わなくてもすみますよね」
さらに森本さんはあまり意識していなかったと言いますが、土と触れることでメンタルにもいい影響があるという説も。「言われてみれば、会社勤めしながら貸し農園に通っていた時は大変だったけれど帰る頃には心がスッキリとしていて。きっと自然に癒やされていたんだろうなと思います」
EAT LOCAL KOBEの運営者である小泉亜由美さんからは「農業のハードルを下げる担当と言われています(笑)」と笑う森本さん。「神戸にマイクロファーマーが増えたら面白い街になるだろうなと思います」。そんな優しい眼差しと森本さんだからこその経験が、神戸の街に息吹く新たな可能性の芽を今後も育てていきます。
森本聖子(もりもと しょうこ)さん
北区出身。旅行代理店に勤務後、専業農家に転身。現在は淡河町に移住して専業農家としての暮らしを営みながら、マイクロファーマーズスクールでは自身の経験を生かして講師として活躍中。膝に乗るのは、愛犬のダリちゃん。
EAT LOCAL KOBEのHPはこちら https://eatlocalkobe.org/