2016年
9月号

神戸鉄人伝 第81回 野元 正(のもと ただし)さん

カテゴリ:, 文化・芸術・音楽

剪画・文
とみさわかよの

20160908201

小説家
野元 正(のもと ただし)さん

 神戸市内が舞台になった文学と花の名所をまとめた小冊子、「花を巡る文学散歩」をご存知でしょうか?この編集に尽力した小説家、野元正さん。現在も文学講座やエッセー教室の講師、評論や書評でも活躍中。また文学賞の選考委員や、芸術文化団体の事務局長も務めておられます。いつも多忙な野元さんにお話をうかがいました。

―お仕事上のご専門は、文学とまったく別ジャンルとか。
専門は造園学と環境デザインです。神戸市職員として、しあわせの村や布引ハーブ園などの全体プラン、設計、施行監理から管理運営までを担当し、また「花と彫刻の道」やフラワーロードなどの原型も造りました。「花を巡る文学散歩」は12年越しの仕事で、文学と造園、両方の専門性で係わらせていただきました。

―文学を志した動機は?
40歳の頃は、職員としての仕事がピークで寝る間もないくらいでした。でも職場での仕事には限りがあります。このままでは退職後に何も残らない、何か仕事以外の事をしたいと思い、密かに小説を書き始めました。最初はカルチャーセンターに行きましたよ。

―趣味のつもりで始められたのですか?
そうです。1年くらいして『八月の群れ』の同人にしていただきました。これは小説を主体とする同人誌で、主に関西圏の人が参加しています。以後ここで純文学作品を発表するようになり、中央の文芸雑誌『海燕』や『文學界』の同人誌評でも取り上げていただき、おかげでその気になって今も書き続けています。

―小説家は執筆で食べていけるイメージがありますが、実際はどうなのでしょう?
純文学はもちろん、文筆だけで生活できるのはほんの一握りです。直木賞・芥川賞作家だって文筆だけでやっていける保証はない。悲しいことに、今は気楽に読める作品が次から次へと消費され、後世に残すべき作品が正当に評価され難い時代です。でもどんな時代でも、才能の無い作家は消えていく。大事なのは自分の人生を、文学とともにどう生きるかだと思いますね。

―小説を書く際の大原則は?
まず、自分にしか書けないものを書くこと。そして他人にわかるように書くこと。それが満たされていれば、自分の書きたいように書けばいいんです。既存の枠をはみ出すのが文学なんですから。今はむしろネットを使う若い人の方が世間が広くて、いろいろな手法に挑戦していますよ。内容が濃ければ、必ず人に読んでもらえます。

―小説のネット上での発表や、書籍のネット配信をどう見ておられますか。
ネットの情報量や伝達の速さはすごいし、大いに活用すればいいと思いますが、小説はあくまで活字文化です。紙に書いた活字と、タブレットの文字は違う。電子画面は動くし、簡単に消える。どうしても感覚的に違和感を覚えてしまいます。しかし発表の場はより好みをせずに、新しい方法にも挑戦したいものですね。

―文学ジャンルの、これからの課題は?
一時は若い世代の活字離れが嘆かれましたが、最近は同人誌にも若い書き手が増えています。しかし彼らを育てるには、その欠けている点を的確に指摘して伸ばす「編集者」が必要です。生粋の活字文化人のわれわれ世代が、まるで文化の違う若い人たちに文学をどう引き継いでいくか。悩ましいところですが、努力しなくてはなりませんね。
(2016年6月28日取材)

小説を「活字文化」と言い切りながらも、若い書き手たちの仕事と文学の未来を見据える野元さんでした。

とみさわ かよの

神戸のまちとそこに生きる人々を剪画(切り絵)で描き続けている。平成25年度神戸市文化奨励賞、平成25年度半どんの会及川記念芸術文化奨励賞受賞。神戸市出身・在住。日本剪画協会会員・認定講師、神戸芸術文化会議会員、神戸新聞文化センター講師。

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