9月号
梵字について
高野山真言宗・浄徳寺
東須磨、月見山に佇む高野山真言宗・浄徳寺。
静まり返った本堂を訪ねると、宇賀芳樹先住職が、涼しげな恰好で卒塔婆(そとば)に梵字(ぼんじ)を書き綴る。
「どういう意味ですか?」と尋ねてみると、
「地・水・火・風・空(じ すい か ふう くう)のこと。どれが欠けても人間の生命や宇宙はなりたたないという意味や。梵字は、一字一字が諸仏諸尊をあらわしており、ひとつの梵字が仏を表している」と先住職。
梵字はインドで使用されるブラーフミー文字の漢訳名を指している。ブラーフミーは「ブラフマー(梵天)の創造した文字」を意味するそうだ。
日本で梵字というと、仏教寺院で伝統的に使用されてきた悉曇(しったん)文字を指すことが多い。天平年間(729年-749年)に日本に伝来したと考えられている。日本には仏教伝来と共に漢訳された経典と共に伝来したが、難解なために文字自体を仏法の神聖な文字として崇めた。
平安時代に入ると、最澄、空海らが悉曇梵語の経典を大量に唐から持ち返り、空海が翻訳したことで梵字は一般の人々の間にも広まった。
「最近は、梵字を書く人が少なくなったなあ。わしもええ歳やからねえ、今日はあと何枚かけるかなあ」と先住職。お盆の季節になると約700枚もの卒塔婆を書くそうだ。
住職になって以来、50年以上も欠かさず続けているそうだ。
宇賀 芳樹(うが よしき)
月見山 浄徳寺 住職
2004年、高野山真言宗から僧侶の最高位である大僧正を贈られる。2003年には、密教の故郷、ブータンの山岳地帯にあるタクツァン寺院が山火事で焼失、神戸ブータン協会副会長として梵鐘を寄贈するなど復興再建のために尽力。長年、ボーイスカウトの活動を通して青少年の育成に務める。2007年には、モスクをイメージさせる納骨堂を完成させ、現在も「平成の寺」をめざす