9月号
連載 ミツバチの話 ②
分蜂(巣分かれ)について
藤井内科クリニック 藤井 芳夫
先日、分蜂を経験した。どこかから飛んで来たらしい。最初に見つけたのはカミさんである。駐車場にミツバチが沢山集まってきて傍らの植木に移ったようだ。呼ばれて行ってみるとミツバチが写真(上)のように密集していた。植木に移る前は直径1m位の球形になって空中に浮かんでいたという。まさかうちのミツバチ?と不安が過ったが、今巣箱を点検していた所であったのでそれは否定的であった。
この巣分かれした一群をどのように扱ったらいいのか全く分からなかったが、幸いその日は俵養蜂場の春井さんが一緒に作業をしてくれていたので、早速お願いした。すると春井さんはラグビーボールよりも大きなミツバチの塊の下に段ボール箱を持ってきて、植木を思い切り揺さぶった。するとミツバチの塊はドサッと箱の中に落ちたではないか。このミツバチの塊の中に女王蜂がもし入っていればミツバチは逃げないのだが、そんなことは分からない。しかし30分もするとミツバチはすっかり段ボール箱の中に落ち着いた。
一時間位経つと、春井さんはさっと段ボール箱をガムテープで密閉し、新しい巣箱の中に新入りのファミリーを迎え入れた。春井さんが丁度その場に居てくれたのはラッキーであった。また第一発見者がカミさんであったこともラッキーであった。何も知らない方に発見され、区役所か消防署に通報されていたら、この一群は消えていたかも知れない。
一般に管理されている女王蜂は、片羽根の一部をカットされ遠くまで飛べないようになっている。また女王蜂に青や黄色の印をつけ、点検時に見つけやすいようにするのが普通だが、後日点検したところ、この女王蜂は片羽根の一部カットも印もついていなかった。
巣分かれを初めて見たのは高校一年生の頃であったが、その時はただ驚くだけで何もせずに見ていると、やがてどこか山のほうへ去っていった。童心に返った様な気持ちであった。しかし気の毒だったのは春井さんで、防御ネットを被っていなかったので、あちこちミツバチに刺されたとのこと。私もボーとミツバチの回収劇を見ていたら、怒ったミツバチにチクリとやられた。刺された後は痒くなったが、一週間ほどで治った。少し犠牲は払ったが、ミツバチのファミリーが増えたので良しとしよう。
さて分蜂(巣分かれ)とは何かというと、ミツバチ一家の世代交代現象である。女王蜂も成熟し、働き蜂が一生懸命に蜜を集め、巣の中が蜜で一杯になると、人もミツバチも同じで満たされるとあまり働かなくなる。次にすることは命を次世代に繋げることである。そこでそのミツバチ一家の中に世代交代をしようという機運が高まり、王台という女王蜂専用の大きなベッドを作り、次の女王蜂誕生に備える。王台はいくつか作られ、そこから生まれた数匹の女王蜂候補同士の戦いが始まるのだが、 “真”の女王蜂の椅子はひとつだけである。古い女王蜂は、新しい女王蜂が生まれる前に70%位の働き蜂を従えて巣分かれし、どこかへ行ってしまう。人間なら子が独立するときは、子が親元から離れて行くケースが多いと思うが、ミツバチは反対で親が出ていくのである。
近年ミツバチが少なくなっているという。身近なところでは、北区のイチゴ農家はミツバチを利用してイチゴの花の受粉をしているという。もし人間が花粉を花のめしべに付ける人工授粉をするとなると労力はいるし、なかなか均等に授粉するのは難しい。上手く受粉しないと歪な形のイチゴができるそうだ。その点、ミツバチによる受粉は均一に行われるため、きれいな形のイチゴが出来るという。神戸市北区の二郎では生産者が県道沿いにブースを出して、美味しい二郎イチゴを販売している。ブースの傍にあるイチゴハウスを覗かせてもらうと、ハウス毎にミツバチの巣箱が置かれている。イチゴだけではない。いろいろな作物の受粉にミツバチは貢献しているのである。皆さんもミツバチどうですか。
藤井 芳夫
藤井内科クリニック