9月号
Power of music(音楽の力)
第9回
第9回
プロの演奏家への道
『演奏家のジレンマ』
上松 明代
神戸三宮にある【チキンジョージ】というライブハウスに私はよく足を運ぶ。広過ぎない空間で、アーティストとの距離を密接に感じられる。クラシック以外の音楽も好んで聴き、ライブにも訪れる。クラシック音楽家とて、「クラシック音楽しか演奏しません、出来ません」ではなんだか寂しい。だって研鑽を積んだ演奏のエキスパートですよ、クラシック音楽奏者は。
将来プロの演奏家を目指す音大生は、膨大な時間を練習に費やす。それは休むことなく365日。毎日練習を積み重ねることで、少しずつではあるが確実に上達していくことを体感し、それを喜びとする。
しかし練習を怠れば、みるみるうちに衰退。芸術は勝ち負けではないが、大学の実技試験に評価が下る点では、優劣が気になる。遊びたい。でも遊んでいる場合ではないというジレンマに苦しむ。ただただ上手くなりたい。一途な想いが怠慢な心に喝を入れる。そんな厳しい環境下でプロの演奏家は生まれる。プロになっても精進は一生続く。飽くなき練習。変わらぬ音楽への情熱。
演奏家はその一音に魂を込める。私の専攻楽器であるフルートのように、呼吸から音を作る管楽器奏者はフィジカル面もハード。体幹を鍛えないと安定した美しい音色は出せない。正確な音程、豊かなヴィブラートと表現力。秀美な演奏であることへの必須条件を獲得するのに凄まじい努力を要する。
プロのソリストになると直面する悩みは、「自分の演奏したい曲とウケる曲」とのジレンマ。聴衆を喜ばせたい想いと、大衆向きではないが、素晴らしい楽曲を紹介したい想いとの狭間で揺れる。しかし、究極はやはり、目の前にいるお客さんに音楽を楽しんで貰いたいということ。だからそれを第一に考えプログラムを組む。決して聴衆に媚びているわけではない。喜んで頂けてこそプロの演奏家ではないだろうか。
何はともあれ、芸の道は険しい。悩みも尽きない。しかし喜びも一入。それが救いだ。
上松明代(フルート奏者・作曲家)
武蔵野音楽大学卒業。在学中にハンガリーの「音楽」と「民族」に魅了され、卒業後ハンガリー国立リスト音楽院へ留学。31歳で知的好奇心から兵庫教育大学大学院で作曲を学ぶ。演奏活動と同時にバイタリティー溢れる作曲活動も展開中。六甲在住。You Tubeにてオリジナル曲公開中。
オフィシャルサイト http://akiyouematsu.com