2012年
2月号

「京」から始まる 新しい科学

カテゴリ:, 神戸

計算科学研究機構 副機構長
米澤 明憲さん

―昨年6月と11月に世界最速を認定された「京」ですが、今年6月の完成を前に既に利用ははじまっているのでしょうか。
米澤 試験的な利用は昨年から始まっています。今年の秋の「京」の共用開始後は、基本的にはどなたでも使っていただけるのですが、限られた計算資源ですので、課題を選定する必要があります。どういう方に使っていただくか、どのように使っていくか、ある意味公正でなければなりません。いまはそのしくみや体制を整えている最中です。

―理研の計算科学研究機構の役割をわかりやすく言えば?
米澤 大きく言えば4つあります。一つ目は、スパコン「京」は大きな設備ですからうまく運用していかなければなりません。共用法という文科省の法律に則って運用していくのですが、我々の役割は、まずはスパコンを円滑に効率よく「運用」することにあります。
 二つ目は、スパコンという超強力な計算機を使って様々な物理現象や社会現象をシミュレーションし、分析・予測をするという「計算科学」を大きく発展させるための研究拠点となることです。
 三つ目は、京は10ペタという単位の計算速度をもったスパコンなのですが、次は100ペタ、1000ペタ規模のスパコンを作ろうという世界的な流れがあります。その「次世代、次々世代」、あるいはペタの1000倍の単位である「エクサ」級のスパコンを我が国で作っていくための道筋をつけることも我々の重要な役割です。
 四つ目として、「京」についてできるだけ多くの方々に知っていただくための活動をすることがあります。「京」やシミュレーションの意義について一般のみなさまに理解していただくことはもちろん、「京」を活用する研究者の方々に「京」のしくみを理解していただく必要があります。技術的な話ですが、「京」は超並列マシーンです。60万個以上のコンピュータが並列に同時に動きます。それを研究者がうまく使いこなすのは、それほど易しいことではありません。「京」の上で効率良く動くプログラムをつくることを学習していただくためのカリキュラムを作り、教育普及活動もしてかなければなりません。

―各地で講演会もなさっていますが、専門家に向けての話が多いのでしょうか。
米澤 私自身は、スパコンについてや、それを使って行う研究の話などをすることが多いのですが、時には中学生にもわかりやすく噛みくだいて話はします。将来の研究者を育てることも大切です。日本の各地で開催している「『京』を知る集い」などの講演会は一般の方向けですし、昨年の八月の終わりには「世界一のスパコン『京』を見に行こう!」という 夏休みイベントを開催しました。たくさんの人が参加してくれました。小・中学の時に見て、触発されたり、感動したものが、その後の生き方に大きな影響を与えることは多いですよね。スパコン「京」を見て何か心に残っている子どもは必ずいるはずです。

―理研は大学を持っていない研究機関ですが、人材育成や大学などとの横のつながりなど、ご苦労はありますか。
米澤 世の中に研究所はたくさんあります。そこにいらっしゃる方は、大学で博士学位を取ってからそこに就職されます。理研はそういう方を受け入れ、研究を進めていく機関ですが、ここで研究するこを希望される優秀な方は多数いらっしゃるので、特に苦労はありませんね。ご質問の趣旨が不明ですけど…。また、大学の研究室との共同研究は山のようにあり、大学院生と一緒にやることもあります。共同関係で高いレベルの人材を育成していると思います。実際に手ぢかな例をとれば、神戸大学のいくつかの研究室と共同研究のプランが現在進んでいます。

―現在、ポートアイランドには様々な研究者や機関、優秀な頭脳が集まってきていますが、ここに計算研究機構がある利点は何でしょうか。
米澤 まず人が集まりやすい場所であること。研究都市として新しいことをやる雰囲気があります。空港、新幹線とアクセスもよく、海外の知名度も高いですね。何よりも明るく文化的な場所ですから、魅力的な人材が集まって来るのだと思います。

―「京」が共用開始されて計算科学の未来やシミュレーション科学の可能性は広がりますか。
米澤 それは非常に大きいですね。科学と技術を進めるための方法論として、スパコンは新しい手段を提供していきます。すでに、「京」を使って今まで不可能であった超低消費電力に電子デバイスの基本設計に成功しゴードン・ベル賞をいただきました。これから2〜3年でさらに大きな成果が出るでしょう。実際にはできない危険な実験や仮想実験などで、非常に強力な手段を持つことになるでしょう。大規模社会現象のシミュレーションも可能になるでしょう。

―民間が京を利用できるようになると我々にとってはわかりやすいですね。
米澤 例えば自動車の設計、エンジンの設計、あるいは衝突テストなどは、自動車メーカーが大なり小なりスパコンを使ってシミュレーションによって仮想的にやっています。「京」に関してはまだ試験運用の段階ですので、実際の産業利用には至っていませんが、共用開始後は、産業利用も促進していく予定です。その成果をわかりやすく発信していくことも大切だと思っています。

―ぜひとも、われわれの生活に役立てていただけたらと思います。本日はどうもありがとうございました。

米澤 明憲(よねざわ あきのり)

1978年、マサチューセッツ工科大学計算機科学博士課程修了(Ph.D. in Computer Science)。1988年から2011年3月まで東京大学大学院コンピュータ科学専攻にて教授を務める。2008年日本学術会議会。2009年紫綬褒章を受章、現在、理研計算科学研究機構副機構長、東京大学名誉教授。

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〈2012年2月号〉
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