1月号
新春インタビュー 本物のハンドメイドによるフルオーダー 「ビスポーク・スタイル」を守り続けて150年 ㊎柴田音吉洋服店
三代 柴田 音吉さん(5代目店主)
甲南大学経営学部卒業。神戸ロータリークラブ会員。
昨秋、起業150年を迎えた㈱柴田音吉商店。奇しくもそれは神戸開港、兵庫県政、それぞれ150年の時期と同じく、日本の近代化の一翼を担った〝日本初のテーラー〟として注目を集めている。
神戸洋服の健在ぶりを全国に向けて発信
―柴田音吉洋服店の歴史は、神戸港150年の歴史と重なりましたね。
開港と同時に神戸には多くの外国人がやって来ました。その半数以上が英国からで、居留地に住み商売を始めたそうです。初代・音吉は大庄屋の息子ということもあったのでしょうか、居留地に自由に出入りできる鑑札を持っていたようです。そこで明治元年、英国人のテーラー・カペル氏と出会いパートナーとなり、元町で起業することになりました。
―兵庫県政150周年と歩みを共にして、メディアからも注目を集めましたね。
ありがたいことに一昨年来、30件以上の取材依頼をいただきました。NHKテレビでは、「もうすぐ『べっぴんさん』洋服の町神戸」をはじめ3回にわたり取り上げていただき、関西テレビ報道ランナー「兵動大樹の今昔散歩」、毎日放送ちちんぷいぷい「こつこつのコツ」ほか、読売テレビ、関西テレビ、サンテレビ、BS/TBSでも紹介いただきました。昨年8月21日付の神戸新聞「兵庫県政150周年・兵庫を拓いた偉人創業者たち」では「英国人から手ほどきを受けた初代音吉が神戸洋服のパイオニアとしてまいた種が枝分かれしながら大きく葉を茂らせている」と、光栄にも阪急電鉄・小林氏、鈴木商店・金子氏、ソニー・井深氏など著名な創業者の一人としてご紹介いただきました。朝日新聞「健在『伝説のテーラー』」をはじめ全国五大紙に、雑誌では神戸っ子さんを筆頭に、ミセス「神戸物語天才テーラーの血脈」、てんとう虫PRESS、ビームズ・アイ・オンコウベ、機内誌『スカイマーク』等々に掲載いただきました。
―反響は大きかったのですか。
はい、全国に当店の健在ぶりを発信することができたと感謝しています。東京、千葉、長野、愛知など遠方からの新しいお客様に来ていただき、150年間続けてきた神戸洋服とハンドメイドの注文洋服への関心が高まったと実感しています。私自身も、経産省後援の「ファッション大賞」にテーラーとしては初ノミネートという光栄を頂きました。150年に渡る機能性と美しいシルエットを両立したスーツづくりが評価されたものと喜んでおります。
最後の一針まで一人の職人が丹念に縫い上げる
―最近、「オーダーメイドスーツ」という言葉をよく耳にしますが。
「オーダーメイド」という言葉だけが氾濫し、消費者も混乱していますが、本来、洋服の本場ヨーロッパでは、紳士スーツのオーダーメイドは3種類しかありません。一つ目は、日本で「フルオーダー」と呼ばれるハンドメイドによる『ビスポーク』スーツです。テーラーが、お客様とお話しして要望を聞き、アドバイスをしながら、独自の型紙を作成し、一人の職人が最後の一針まで縫い上げます。二つ目は、日本では「イージーオーダー」と呼ばれる『メジャー・トゥ・メジャー』スーツです。お客様の体の形状をチェックする目的で同型同色のゲージ服と呼ばれる型見本を試着し、工場ですでに作成している型紙を修正し、流れ作業で縫製します。職人さんのレベルにばらつきがあるとバランスに欠ける服が出来る場合があります。三つ目は、既製服『レディ・トゥ・ウエア』スーツの別注を日本では「パターンオーダー」と呼んでいます。イージーオーダーよりスタイリッシュでシルエットが優先されますが、修正できるのは袖丈、ウエスト、ズボン丈、裾幅程度に限定され、体形によってはリフォームできない場合があります。紳士服店で「オーダーメイド」と広告や店頭に表示されている場合は、オーダーメイドの種類を確認されることをお勧めします。
【オーダーメイドの種類】
① フルオーダー
② イージーオーダー
③ パターンオーダー
―御店では、ハンドメイドによる「ビスポーク・スタイル」を150年間守り続けているのですね。
そうです。本物のフルオーダーを続けてきた歴史が認められ、多くの取材に来ていただいたと確信しています。
―ビスポークを守りながら、独創性も大事にしてこられたのですね。
着やすくて美しいシルエットを基本に、オリジナルティーを生み出してきました。その一つが2009年に販売開始した「LITE‐FIT®」テーラリングです。実はヨーロッパから夏の軽いスーツが入ってくる以前の1960年代から当店では、ウルトラ軽量で涼しい夏のスーツ「クール・スーツ」を作っていました。お客様から「冬物も作ってほしい」と要望があり、「LITE‐FIT®」スーツ&ジャケットを開発しました。軽くても、胸にボリュームがあり型崩れしない超軽量の合冬物のスーツです。その秘密は芯地の素材と縫製法にあり、登録商標と実用新案特許を取っています。2018年、リニューアルし、より軽量化に成功し大好評です。
本物を守り、次の時代へと伝えていく
―起業200年に向けて、今後の抱負をお聞かせください。
フルオーダーでスタートした全国主要都市の地域一番店のテーラーが集まり、50年以上にわたり勉強会や情報交換などの活動をしてきた「インターナショナル・テーラーズ・クラブ」が残念ながら今は休止状態です。その中から100年以上続くテーラーと近々100年を迎えるテーラーが集まり「センチュリー・テーラーズ・クラブ(仮称)」を作り、本物のオーダーメイドを広く知ってもらうためのキャンペーンを行おうと構想を練っています。当社では後継者育成が進行しています。幸い当社の工場長が「神戸ものづくり職人大学」で第一期生から指導していましたので、その中から後継者を育て「神戸マイスター」の称号を得る技術を次の世代に伝えていこうとしています。