2019年
1月号

「神戸で落語を楽しむ」シリーズ 落語は温泉みたいなもの

カテゴリ:文化・芸術・音楽, 文化人

落語家 桂 文之助 さん

上方の爆笑王に弟子入り

─ご出身は神戸だそうですが。
文之助 長田です。もちろん新開地にも近くて、僕は覚えていないんですけれど、子どもの頃に親に連れられて全盛期の松竹座に行ったそうなんです。

─兵庫高校のご卒業だそうですが、どんな学校でしたか。
文之助 割と自由な校風でしたね。私服もOKでしたから。みんな進学するのが当たり前なので、噺家を目指した僕なんて変わり者で(笑)。

─ということは、高校時代には入門の決心を。
文之助 高校時代に桂枝雀師匠へ弟子入り志願に行き、卒業してから内弟子になりました。もともと小さい頃からお笑いが好きだったようで、親の話では物心つく前からラジオの演芸番組を聴いて面白がっていたみたいです。子どもの頃はテレビの黎明期で、演芸番組が多かったんですよ。それを観て興味を持つようになり、中学生の頃には笑福亭仁鶴師匠とか月亭可朝師匠、いまの桂文枝師匠とかが活躍して落語ブームになって、それに影響されてでしょうかね。

─なぜ枝雀師匠に弟子入りを。
文之助 単に面白いと思ったからです。はじめ米朝師匠が好きでよく聴いていたんですけれど、枝雀師匠は米朝師匠の弟子ですから間に出てきて、斬新なマクラとか特異なやり方とかが面白くて。枝雀師匠に弟子入りすれば米朝師匠の孫弟子にもなれますしね。

─でも枝雀師匠はなかなか弟子を取らなかったそうですが。
文之助 すぐに弟子にするのではなく、様子をみる期間がありました。僕が弟子入りした直後からいっぱい志願者が来たんですが、もうこれ以上はちょっとと増やせないと断った方もいたようです。師弟関係もタイミングとご縁が大切なのですね。

─枝雀師匠はどんなところがすごいと思いますか。
文之助 まず、圧倒的に笑いが多い。ただそれだけじゃなく、演じているときの人間の喜怒哀楽に対する感情が突出している気がします。ただ突出し過ぎていると噺が壊れるので、そのあたりのバランス感覚も絶妙でしたね。

偉大な名跡を継いで

─「文之助」という高座名は由緒あるものですが、どのような経緯で襲名したのですか。
文之助 明治の頃に活躍した二代目文之助は噺家としても大きな存在でしたが、その傍ら京都で「文の助茶屋」を立ち上げたんですよ。いまも続いていて、わらび餅が人気なんですが、そこの顧問税理士がうちの師匠の甥で、入門した頃からよく知っているんですけれど、彼が「文之助」を継いだらどうやと言うんです。でも商売をされているから迂闊に誰彼に継がせないだろうし、系統も違うし、僕は「無理や」と。ところが彼が話をしてみたところ、文の助茶屋と米朝師匠が昔から懇意だったこともあったからでしょうか、OKが出まして。噺家で襲名できる人は一握りですし、謹んで承りました。年齢的にも最後のチャンスでしたしね。「文」という字が入っているので文枝一門にも話を通して。

─初代は二代目曾呂利新左衛門でしたし、プレッシャーがあるのではないでしょうか。
文之助 初代も二代も上方落語の歴史には必ず出てくるような偉大な噺家ですからね。ただ、80年以上誰も継いでいなかったので、そのへんは気楽です。映像が残っているとこれからずっと比較されますが、それがないですしね。

─いま米朝一門には期待の若手が多いように感じますが。
文之助 そのへんはちょっとよくわかりませんが、米朝師匠の薫陶を受けて育った者が育てるので、基本に忠実に、細かいところまで神経を配るようにということを大切に指導しているのでしょう。米朝師匠も枝雀師匠もしっかり筋道を立てて教えてくれたので、それが継承されているのかもしれませんね。

空模様も読める噺家

─気象予報士の資格を取得したのはなぜですか。
文之助 昔、朝早い情報番組を担当していて天気予報があったのですが、その頃高校生が気象予報士の資格を取ったというニュースがありまして、ならば僕もいけるかなと安易な気持ちで。ところが合格率が6~7%と難関で、そこそこ勉強しました。4年かかりましたね。

─神戸でも定期的に落語会を開催していますが。
文之助 2000年くらいから九雀と吉弥とKAVCホールで落語会「神戸らくごビレッジ」をほぼ隔月で開催しています。喜楽館ができてからはこっちへ移って、この12月に100回目を迎えたんです。次回は2月25日(月)の夜席です。

─神戸では一般の方向けの落語教室を開催されていますよね。
文之助 落語をやってみたい方に落語を教える教室です。最初は小咄からはじまって、「つる」や「子ほめ」などの前座噺を教えて、その後はお好きな噺を覚えてもらって「ここはこうしましょ」という感じです。落語なんて喋るだけですから、器用な人は割とすぐできますよ。

地道に、質を落とさずに

─喜楽館設立に関して、担当委員長を務められましたが。
文之助 開館直前の昨年6月に、新しく就任した笑福亭仁智会長から打診を受けたんですが、それまでは桂きん枝兄さんを中心に頑張っていて、僕は特に関わっていなかったんですよ。いまは昼席のメンバーを決める委員長をさせていただいています。

─オープンの時の感想は。
文之助 委員長としてもそうですが、やはり生まれ育った神戸に定席寄席ができるというのは、本当に嬉しかったですね。僕がこの世界に入った頃は若手が喋るところが少なくて、小さな公民館を借りたりお寺にお邪魔したりしていたのに、常設の高座ができるとは、こんなことが実現するとは夢にも思わなかったです。隔世の感があります。

─神戸のお客様はいかがですか。
文之助 なかなか良いお客さんですね。反応も良いし。けれどもう少し入っていただければ…。たくさんお客さんがいた方が雰囲気も出てきやすいので。

─これから喜楽館にどのようなことを期待しますか。
文之助 喜楽館でも若手のコンクールをやりたいという仁智会長の意向がありますし、いろいろ企画を考えていきたいですね。ただ、繁昌亭と同じことではなく、独自のものができたらいいのですが、落語なのでそんなに目先を変えられない。企画も大切ですが、地道に、質を落とさずにやっていくしかない。うちの師匠がよく言っていましたけれど、落語は温泉みたいなものです。ちょっと行きづらいけれど、行くとゆったりする。ですからお客さんが「楽しかったなぁ」「誰かと一緒にまた来よう」と思っていただけるよう、僕ら噺家が毎日クオリティを保って、しっかりやらないとはじまらないと思います。落語は敷居が低く気楽に楽しめるものなので、ぜひ一度喜楽館へお越しください!


神戸新開地・喜楽館

(新開地まちづくりNPO)
TEL.078-576-1218
新開地駅下車徒歩約2分
(新開地商店街本通りアーケード)

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