2019年
1月号

兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第九十一回

カテゴリ:医療関係

県民の健康と安心のために
次代の医療を考える

2018年は幾多の自然災害に見舞われた。阪神・淡路大震災を経験した兵庫県医師会では、災害時の医療支援チームを派遣するなどその教訓を生かした。また、超高齢化、偏在化、人材不足、インバウンドへの対応など次代の医療について、兵庫県医師会・空地顕一会長にお話をお伺いした。

災害への備えは幅広く

─昨年は地震、豪雨、猛暑、台風など災害が多い年でしたが、災害へ日頃どう備えていますか。

空地 兵庫県医師会は阪神・淡路大震災を体験し、その教訓を生かして、あるいは阪神・淡路大震災の恩返しという思いもあり、各地で災害が起きたときにすぐ支援にいけるような体制づくりを進めてきました。東日本大震災の時には日本医師会災害医療チーム(JMAT)という災害時の医療支援チームの枠組みができ、兵庫県医師会でもJMAT兵庫を石巻市に派遣しましたが、それもひとつの成果です。また、支援チームづくりとそのメンバーとなるドクターのリスト整備、その後研修や看護協会や薬剤師会などとのタイアップも、東日本大震災以前から川島龍一前会長がご尽力され進めてきました。そのため熊本地震の時にすぐ対応でき、コーディネート機能を発揮したことで各地から高い評価を得ています。引き続きドクターの研修のみならず、ロジスティックなど事務局の研修、看護師や薬剤師との合同の研修、コーディネートの研修などを続け、さまざまな状況に対応できるように準備をおこなっています。

─豪雨災害で岡山へ支援に行きましたが、どのような役割を果たしましたか。

空地 主に全国各地から来られたJMATのコーディネートを担当し、JMATの配置場所や期間の調整のみならず、ボランティアや行政の公衆衛生の担当チーム、リハビリのチームなど、熱中症などがおこらないように配慮しつつ現地入りしたさまざまなチームが機能的に動けるようなシステムづくりに関わりました。また、被災地が落ち着いた後には、JMATによる支援から地元の医療機関への引き継ぎも順調におこなうことができました。兵庫県医師会では以前から災害時の乳幼児への対応についてのパンフレットを制作していたのですが、これを緊急で配らせていただき、好評でした。

─兵庫県でも南海・東南海地震や山崎断層地震の可能性がありますよね。

空地 支援のみならず、自分たちが災害に遭った時の受援時の準備も大切です。そのあたりも研修やマニュアルづくりを進めています。インフラが被害を受けたときの体制づくりも課題です。例えば停電すると電子カルテは使用できません。断水でも医療機関の機能は停止してしまいます。そういう場合にどうするかマニュアル作成などの対策を考えています。もちろん、県の防災関係の部署と緊密に連携し、災害時の医療を守る対策も考えています。関西広域連合において兵庫県は徳島県と相互支援をすることになっており、南海・東南海地震の際は徳島県へ支援のため出動する可能性があります。それにもしっかり対応していきたいですね。

超高齢化に立ち向かう

─兵庫県保健医療計画が昨年改定されました。

空地 全県の大枠が決まり、これから二次医療圏ごとの保健医療計画が策定されていきます。しかも並行して地域医療構想の調整会議や地域包括ケアシステムの整備も進んでいきます。今回の保健医療計画の大きな変更点は、阪神南と阪神北、西播磨と中播磨がそれぞれ統合されたことです。もともと旧医療圏を越えて患者さんが治療のために移動していたこともあって、実態に即しているというのが県の考え方なのですが、医師会としては二次医療圏が広がるということは、病床や医師、医療関係者が統合された医療圏の中で移動してしまう可能性があると考えています。ただでさえ拡大した医療圏の中に医師や医療機能の偏在があるのに、それがさらに悪化するようであれば何のための統合かわかりません。そのために、偏在しないように準保健医療圏域を設定し、その中での医療体制整備を県にお願いしているところです。これからも大きな基幹病院については統合があると思いますが、それは医療機能を充実させて地域の医療を守り、地域と連携していくことが基本になります。医療機関の再編による地域の医療への影響をチェックしていきます。

─団塊の世代が後期高齢者になる2025年問題が危惧されますが。

空地 人口の減少や疾病構造の変化等によって医療機関の病床数は減少すると思われますが、長期療養が必要な慢性期の要介護者を対象とする医療提供可能な介護医療院ができるので、それを合わせたトータルの収容数は大きな変化はないでしょう。ですから医療や介護が必要となった方がどこで過ごすかが問題になります。それには地域づくりも課題になりますし、いま増えている老人ホームやサービス付き高齢者住宅なども必要になってくるのだろうと思います。そうなれば医師の訪問診療が増えてくるでしょう。いま将来の需給調査をしていますが、訪問診療が可能な医師を増やしていくという啓発事業や研修事業もしっかりやっていきたいと思っています。いま高齢の先生が無理してでも往診しているケースが多い一方で、若い先生は訪問診療の研修を受けていないので一歩踏み出せないんです。だからそこを研修や情報提供等を通して、県医師会がサポートしていきたいですね。かかりつけ医として診ていたお年寄りが診療に来られなくなったら、こんどは医師の方から出向いていくやり方がスムーズで、お互い理解しあえるし、幸せだと思いますので。

女性の力を医療の現場に

─医療・介護の人材不足も深刻ですが。

空地 2040年に向けて全体の就業者人数が大幅に減っていく状況ですから、いまより人材が減っていくでしょう。ですからモチベーションを上げることも重要です。特に看護師は資格を持っていながらほかの仕事に就いている人も少なくないですから、そういう方をリクルートするためには、周りが評価してやる気や誇りを持てるような環境づくりが大切だと思います。特に介護は重労働で低賃金というイメージですから、そこを変えないといけないと思います。医師の偏在に関しては、市民の側からの働きかけも大事です。外国人の就労については、困ったときだけ外国頼みで良いのかと思いますし、東南アジアも人手不足になるでしょうし、移民政策にも関わってきますので、十分慎重な議論が必要ではないかと思います。

─そんな中、女性の働き手は大きな力になると思いますが。

空地 その通りで、そのためには女性が働きやすい労働環境の整備が大事です。病児・病後児を含めた保育施設の充実などですね。そして何より、男性の理解が大切です。県医師会も地道に女性が働きやすい環境づくりに取り組んでおり、一昨年はじめて女性が働きやすい環境を整備した病院の管理職の先生に「兵庫県医師会イクボス大賞」を授与しました。この輪が広がって、取り組みの情報共有ができて、それにならってみんなが実行するようになればいいですね。女性が働きやすい環境は、男性も働きやすいですし、医師の偏在の問題解決の一助になるでしょう。ただ、兵庫県だけ良ければという訳ではなく、近隣の府県が手薄になるのも問題ですから、全国に広がるといいですね。

─インバウンドが増える中、外国人の医療ニーズにどう対応していきますか。

空地 県の行政とのタイアップが必要ですが、行政もそこまで対応が進んでいないのが実状です。県医師会としては担当の理事を任命して、今後病院協会・民間病院協会などと対応を協議していきます。今年はラグビーワールドカップの試合や大きなコンベンションが県内でありますし、来年は東京オリンピックから多くの観光客が兵庫県に流れてくることでしょう。大阪万国博覧会の開催も決まりました。まず、言葉の問題がありますが、ITやAIの技術や、ボランティアなどの助けも必要です。その体制づくりを県と一緒にやっていきたいです。
 また、短期的に来日し、日本の健康保険の受給資格だけを得て、高額の医療を割安の費用で受けて帰国してしまうケースもあると聞いています。逆に言えばそれだけ日本の医療制度が素晴らしいということなのでしょうけれど、それをやられると日本国民が公正に医療を受けられなくなってしまいます。そういうことにも対応しないといけません。

医師も心と人間性が大切

─昨年は神戸でも活躍している本庶佑先生がノーベル生理学・医学賞を受賞しましたね。

空地 今回の受賞で評価されたがんに対する免疫療法は全く新しい挑戦ですが、これまで幅広いテーマで第一線の研究をされ続けてこられたことは、すごいのひと言で言い表せない宝物のような先生です。本庶先生は免疫学の権威で、私自身の専門も自己免疫疾患なので、大学院時代に先生とお話しする機会もあったんですよ。最近、日本医師会の組織のあり方委員会で本庶先生が委員長、私が委員となり、30数年ぶりにお目にかかりましてご挨拶したんですが、さすがに私のことは覚えていらっしゃいませんでした(笑)。

─学生時代、本庶先生はどんな先生でしたか。

空地 とにかく研究には厳しい先生でしたよ。自分が納得しないと絶対に本物と認めません。
 また、本庶先生がおっしゃっていたのは、アメリカの医師や研究者は幅広い分野、医療だけではなく経済や芸術まで幅広く議論ができるのに、日本はその道しか話ができないということです。もっと幅広い知識や関心を持つような人間じゃないといけないと。県医師会は多彩な才能を持つ人材の宝庫だと思いますが、本庶先生の求められる幅広さはレベルが高いです(笑)。

─最後に、これからの医療を担う若い人たちにメッセージを。

空地 新しい臨床研修制度や専門医制度ができてきましたが、やはり一番は、患者さんやその家族の心の痛みがわかるような人間であってほしいと思います。それはなかなか目に見えるものではありませんが、心を感じ取れる医師になってほしいですね。また、医師は、治療のためではありますが、人を傷つけることを国に許されている唯一の職業です。手術もそうですし、薬も適量じゃなければ毒ですし、そういうものを扱って人を良くする仕事なんです。そういうところをしっかりわきまえて、倫理の指針がぶれないようにと願います。医師は患者さんからすれば神に近い存在です。それがわかった上で、患者さんと同じ目線に立って医療に取り組んでほしいですね。医療も時代とともに変わってきて、昔は病気を治すのが仕事、患者さんが亡くなられたら負けという価値観でしたが、いまは治せる人には治すのは当然ですが、患者さんが人生の最期をどう迎えるかという命題に向き合うことも、医師の重要な役割になっています。ですから独りよがりではなく、他職種の人と上手に連携し、患者さんの家族の意向を尊重して、患者さんの尊厳を守っていくことも大切ではないかと考えています。

兵庫県医師会が兵庫県と制作した『災害時における乳幼児への対応マニュアル』は、災害時に大きな効果を発揮した



現在、有事の際には「JMAT兵庫」として看護師や薬剤師、事務局などとチームを組んで災害医療にあたる体制が整えられている


「兵庫県医師会イクボス大賞」を設け、女性が働きやすい環境の向上に努めている


今年はラグビーワールドカップが神戸で開催され、インバウンドの医療ニーズの対応が課題となる

一般社団法人兵庫県医師会会長 空地 顕一 先生

1956年、兵庫県姫路市生まれ。1984年、京都大学医学部卒業。1997年、姫路市で祖父、父と続く空地内科院を継承。2012年、姫路市医師会長に就任。2016年、兵庫県医師会長に就任。専門はリウマチ・膠原病。医学博士。日本内科学会総合内科専門医。日本リウマチ学会認定専門医。日本プライマリ・ケア連合学会認定医

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