8月号
縁の下の力持ち 第2回 神戸大学医学部附属病院 放射線部
神戸大学医学部附属病院 放射線部 部長
医学研究科放射線診断学分野 教授
村上 卓道さん
体の状態を検査するところから治療が始まる
日頃お目にかかる機会はないけれど、病院内には激務をこなしているスタッフがたくさんおられます。
そんな「縁の下の力持ち」をご紹介するシリーズ。第2回は放射線部です。
―放射線部とは。その役割は。
村上 整形外科や外科、内科などの各診療科にそれぞれに画像検査装置を一台ずつ設置するとランニングコストがかかり、たくさんの放射線技師も必要です。そこで検査を集約した部門が放射線部で、放射線を使わない検査も一部含まれています。各科からの依頼を受けて、レントゲン、超音波検査、CT、磁石を使うMRI、核医学検査などを行い、画像診断医がそれぞれの画像を読影して所見を書き、担当医が病気の診断や治療法を決定する事を支援します。また、画像診断装置で病変を認識しながら、病変をピンポイントに切らずに直すIVR(画像下治療)治療も行なっています。これは、手術や投薬治療に並ぶ治療法の一つです。
―あまり聞き慣れない「核医学検査」とは。
野上 自ら放射線を発する元素である放射線同位元素に特定の薬品をくっつけて投与し、そこから出る放射線を画像でとらえると、どこに分布して多くが消費されているかが分かります。くっつけるものを変えることによって、体のいろいろな部位の病変や臓器の機能を画像で評価することができます。近年では、CTやMRIなど、ものの形を評価する画像と組み合わせて診断することが一般的です。
―核医学検査ではどんな病気が診断できるのですか。
野上 最も一般的な病気はがんです。がんは多くの砂糖(グルコース)を消費します。これに放射性同位元素に付けて行うPET検査では、全身でがんの検索が可能です。その他に、認知症や心筋梗塞の評価にも広く使われています。
―認知症の治療も可能になるのですか。
野上 画像診断の進歩は著しく、核医学検査を用いて早期に診断することは可能になりつつありますが、画像下治療も含め、治療法の確立にはまだ時間がかかると思います。
―画像下治療とは。
村上 体の中を観察できる画像診断装置を利用して、カテーテルと呼ばれる細い管や針を安全に精度良く、病変部やその血管内に誘導して、病変をピンポイントに低侵襲に治療するのがIVRです。出血を止めたり、血管内の血液の通りを良くしたり、病変への栄養血管を遮断したり、ラジオ波で病変を直接焼き切ったりします。従来は開頭・開胸・開腹など外科手術が必要だった患者さんにとって、体に負担が少ない低侵襲治療の一種です。
―放射線治療の一種ですか。
村上 放射線治療も、放射線部が担う分野の一つですが、IVRとは全く違う治療です。手術で切ることなく、集中的にがん細胞などに放射線を照射することによってがんを死滅させる局所治療法です。
―縁の下の力持ちとして、最もやりがいを感じるときは。
村上 私の場合、高校の担任の先生の勧めで医学部に入り、大した志も持たずに医師になり、放射線診断医の道に進みました。画像診断が適切な治療につながり、患者さんが元気になって帰って行かれる様子を見るとき、こんな人の為になり、やりがいのある仕事ができるのは、担任の先生のお陰といつも感謝しています。
野上 正しい診断が行われない状態は患者さんにとって精神的にも非常に大きな苦痛だと思います。画像診断で確定診断に導き、患者さんのホッとした顔を見るときは嬉しいですね。また、よくある病気だと診断され長い間有効な治療を受けられなかった患者さんが、画像診断でかなり稀な病気だと判明されることも多々あり、正しい治療法の選択で患者さんのQOLの改善の一助になれるときは、とてもやりがいを感じるときです。
村上 実は、縁の下の中では患者さんと接する機会は比較的多い分野です。IVRをはじめ、CTやMRIで造影剤を注射するのも、核医学検査で放射線医薬品の説明をして投与するのも放射線科医です。見慣れない人がマスクをかけて傍にいても、「何をする人だろう?」と不安に思わないでください(笑)。
―はい(笑)。検査から診断、治療に至るまでいろいろなところで関わっておられることがよく分かりました。ありがとうございました。