11月号

ベトナム元気X躍動するアジア 第35回|トランプ関税後のベトナム輸出動向――「北極海航路」の可能性――
米国トランプ政権はベトナムに対して46%という関税を昨年4月に発表しましたが、ベトナム政府の外交交渉で同年10月に20%、現在は原則12・5%の税率になりました。しかし以前よりも税率は高くなり、米国に対する「貿易摩擦」が解消したわけではありません。そこでベトナムでは欧州向けの輸出拡大が次の課題となるでしょう。その場合、すでに中国や韓国の海運会社が運航を始めた「北極海航路」が注目されます。
文・ 上田義朗
米国に偏重した物品輸出
ベトナムは米国に対する貿易黒字国であり、それがトランプ関税発動の契機となりました。またベトナムからの中国製品の「迂回輸出」を米国は警戒しています。私はこれまで、政治的安定をベトナムの投資上の強みとして指摘してきました。一方、米国の通商政策は予測しにくくなっています。
図表1によれば、輸出総額の32・2%を占める米国の存在が大きい。不確実性の高い米国からの「リスク分散」のために先進国ではオランダ・ドイツ・英国に輸出拡大の余地がありそうです。
図表1 ベトナムの物品輸出上位国(地域):2025年

【出所】ベトナム税関統計資料
欧米に対する堅調な輸出拡大
図表2における2020年から2025年にかけて、米国向け輸出は約99%、英国向けは約69%、EU向けは約60%増加しました。日本向けは約39%増にとどまっています。2026年上半期の米国向け輸出は864・8億ドルに達し、単純年率換算では前年を上回ります。もちろん輸出額だけで関税の影響がないとは判断できませんが、対米輸出は好調です。
なお、2023年の米国向け輸出総額の大幅な減少の理由は米国の需要低迷が主要な原因とベトナム当局から指摘されています。
図表2 欧米日向けのベトナム輸出総額の推移(単位:10億米ドル)

【出所】ベトナム各種関係資料から収集。【注】サービス輸出は含まない。
欧州向け輸出に北極海航路
これまで述べたように、米国への依存が高いベトナムにとって、通商政策の不確実性に備え、欧州向け輸出を拡大することが重要です。そこで注目されるのが、アジア諸国から欧州に向けた「北極海航路」(図表3を参照)です。
南回り航路ではマラッカ海峡とスエズ運河が海賊多発地域であり、また再発が懸念される「中東紛争」の影響を受けます。そこで北極海航路が新たな航路として期待されます。事実、すでに中国貨物船が北極海を経て欧州に何度か寄港しています。そして本年には、韓国のパンスター社のコンテナ船が8月22日に釜山を出港。10月11日に帰港し、日本に寄港する初の運航を成功させました。
図表3 日本から欧州の航路比較

【引用】讀賣新聞オンライン(2026年6月21日)
北極海航路の優位性
北極海航路は、従来よりも航海日数を約3分の1に短縮できる可能性があると韓国当局は指摘しています。それはサプライチェーンにおける「コスト削減」「納期短縮」になり、また燃料消費量の削減にもなります。
「韓国の黄鐘宇海洋水産相によると、2027年にコンテナ船や自動車運搬船による試験航海を追加で行い、30年に定期運航を開始する計画。黄氏は、この航路で採算が取れるようになるのは40年ごろになると予想し」ました(【引用】『Reuters』10月13日)。

韓国のパンスター社が運航するコンテナ船 【引用】PANSTAR社の北極海航路資料
ベトナムからの欧州輸出の拡大と北極海航路の利用は相乗効果発揮の可能性があります。引き続き注目したいと思います。
上田義朗(うえだ よしあき)
流通科学大学名誉教授
岡山学院大学・岡山短期大学理事
日本ベトナム経済交流センター日本代表
外国人材雇用適性化推進協会(ASEO)代表理事
合同会社TET代表社員・CEO












