10月号
⊘ 物語が始まる ⊘THE STORY BEGINS – vol.71
■小説家■ 浜口 倫太郎さん
新作の小説や映画に新譜…。これら創作物が、漫然とこの世に生まれることはない。いずれも創作者たちが大切に温め蓄えてきたアイデアや知識を駆使し、紡ぎ出された想像力の結晶だ。「新たな物語が始まる瞬間を見てみたい」。そんな好奇心の赴くままに創作秘話を聞きにゆこう。
第71回は、ポプラ社小説大賞特別賞を受賞し2011年、小説家デビュー。今年、作家となって15周年を迎えた浜口倫太郎さんの登場です。新作は〝亡くなった大切な人と一時間だけ再会できる遊園地〟を舞台にした小説『天空遊園地まほろば 時を結ぶ花々』(ポプラ社)。人気シリーズが生まれる背景などを聞いた。
文・戸津井 康之
漫才、放送の世界で培った実体験を武器に…
小説の魅力を広げ、伝える覚悟
渾身作のシリーズ化
「死者に会える話を書けないだろうか…。舞台は幼いころから大好きな遊園地で…」
こうやって温めてきた構想を小説として昇華させた作品が、昨年2025年7月に刊行された『天空遊園地まほろば』(ポプラ社)だった。
刊行されるや、読者から「涙が止まりませんでした」や「今、目の前にいる人を大切にしたい」などの声が相次ぎ、重版が決まり、続編となる新刊の刊行が決まった。
「一冊目を書き終えたとき、まだまだ書き足りないと考えていたのでうれしかったです。
原稿ですか?一気に書き上げましたよ」
そして今年8月、新作が発行された。
わずか1年余りの書きおろしでシリーズ2刊を刊行するのは、近年、「本が売れない」といわれる出版界のなかにあり、異例のことでもある。
物語はフィクションだが、舞台となる遊園地のモデルは奈良県生駒市に実在する地元で人気の生駒山上遊園地だ。
「幼いころから家族とよく訪れていたお気に入りの遊園地です。今でも家族と一緒によく行っていますよ」と話す。
奈良市内で生まれ、「中学2年のころに生駒へ引っ越して以来、今も生駒市民です」と語る。生駒山上遊園地は自宅近くにあり、〝自分の庭〟のような愛着ある遊園地なのだ。
各章がオムニバス形式で綴られる構成。各章ごとに、様々な境遇を生きる登場人物たちの人生が描かれる。
ただ、シリーズを通じて共通する登場人物が2人いる。まほろばの案内人、シチカと従業員のすみれ。そして、もう〝一人〟、忘れてはいけないのが、来場者をケーブルカーに乗せ、山上へと誘う黒猫だ。
原稿は雑誌連載などではなく、「2冊とも書きおろしです」と言い、「もちろん1冊目の刊行時は続編の話はまだなかったです。1冊目が売れなかったら、続編の話は出てこないですからね」と続けた。
こう語るのを聞き、正直驚いた。
なぜなら、各章がオムニバス形式で描かれながらも、読み進めるうちに、シリーズを通じ、物語が巧みに絡み合ってつながっていることに気づかされるからだ。
詳しくは、実際に読んで、作品の根底で一貫する洗練された構成を味わってみてほしい。
少しだけヒントを明かせるとすれば、1冊目で重要な登場人物の一人、〝シチカの正体〟の謎に迫っていくこと。
そして続編の2冊目では…。
本が売れない。そう言われて久しい。
だが、そんな風潮に抗うように、「読書は人生にとって欠かせないもの」と、その魅力を一人でも多くの人に伝えたいがために作家となって15年間、書き続けてきた。
「小説を読む人が年々減り続け、本が売れなくなり、全国で書店が次々と潰れていく」現状を憂い、「どう書けば、もっと多くの人に小説に魅力を感じ、読書好きになってもらえるか」と考え、日々葛藤しながら物語を紡ぎ出してきた。
郷愁の〝まほろば〟
生駒山上遊園地で取材し、従業員たちから話を聞き、その歴史などを調べてきた。
先頭車両がネコやブルドッグの顔をしたケーブルカー。「これは日本で最初に開業したケーブルカーです。遊園地のシンボルである飛行塔は日本最古の大型アトラクションなんですよ」
故郷の歴史ある遊園地への思い入れは人一倍強い。小説の端々から、そんな思いがあふれ出てくる。
〝まほろば〟には「素晴らしい場所」、「理想の地」という意味がある。
第1章「記念日のスケートリンク」の主人公、佐伯陸は、若くして妻を亡くし、一人娘の育児のために、勤務する放送局の花形部署から退いたテレビマン。
かつて陸は現場の〝エース〟としてバラエティー番組の企画・構成に奔走していた。局内のライバルたちとの軋轢や他局との熾烈な競争社会が詳細に描かれる。
物語はフィクションだが〝生き馬の眼を抜く〟テレビ局の実態がリアルに浮き彫りにされる。
「これは〝ほぼ浜口さんの実話〟では?」と向けると、苦笑した。
年間の漫才チャンピオンを決める「M-1グランプリ」(ABCテレビ)、〝ピン芸人〟(一人芸)のナンバーワンを決める「R-1グランプリ」(関西テレビ)の草創期のころに裏方の漫才作家として活動。
さらに、「ビーバップ!ハイヒール」(ABCテレビ)や「たかじん胸いっぱい」(関西テレビ)、「なるトモ!」(読売テレビ)など数々の人気バラエティー番組の放送作家を務めてきた経験が、小説のなかに随所に散りばめられている。
また、陸の一人娘の子育ての悪戦苦闘ぶりも臨場感あふれる。
現実には二女の父親で、今も小説執筆の合間に、「娘の塾の送り迎えなどをしています」と話す姿に、つい陸の姿を重ねてしまう。
ただ、陸と違うのは、夫婦共働きで仲良く力を合わせ、二女を育てている。
30歳からの書く覚悟
幼いころから読書好き。小説の世界に魅了されてきた。
最初にのめり込んだのはSF小説だった。小学3年生のときに星新一を読んで以来、筒井康隆をはじめ国内外のSF作家たちの小説を貪るように読んできた。
だが、大好きな小説の執筆は封印してきた。
なぜか?
「30歳まで小説を書かないと決めていた」からだ。
これは、敬愛する星、筒井の経歴などから学んだという〝教え〟なのだが、本当に、この教え通り、それまで小説は書かず、ポプラ社小説大賞特別賞を受賞し、翌年、32歳で作家となった。
すでに20代のころに、小説を創作する力を備えていたが、「放送作家としてのコネクションなどは絶対に使いたくなかったんです。純粋に公募の小説コンテストで小説家としてデビューしたかったから」と振り返るが、もし、「文学賞を受賞できないでいたら…」。そう周囲が心配してしまうほどに、正直過ぎる生き方だと思えるが、創作に懸ける、この〝嘘のない正直な情熱〟こそが、小説家として作品を書き続けることができる最大の武器に違いない。
2011年にデビューし、今年15年という節目を迎えた。その間、数多の物語を小説にして世に送り出してきた。
このなかに、発行部数20万部超えのベストセラーとなった『22年目の告白―私が殺人犯です―』(講談社文庫)がある。同タイトルの映画のノベライズだ。同じく入江悠監督が映画化した『AI崩壊』の同名のノベライズも手掛けている。
映画『AI崩壊』の公開前に取材した際、「小説家にとってノベライズとはどういうものか?」と問うと、「映画は最上級のトンカツ。このトンカツを最高のカツ丼に仕上げることが小説家にとってのノベライズと考えてください」と、見事に分かりやすい例えで説明してくれた。
尽きることなき創作のアイデア
「天空遊園地まほろば」の園内では、こんな厳格なルールが定められている。
《1 当園は一生で一度しかご利用になれません。
2 再会できる死者は一名のみです。
3 当園のご利用時間は一時間のみです。
4 当園の遊具のご利用は一台のみです。
5 当園では泣くことが禁止されています。泣くと、お客様の大切なものが失われます。》
もう、この世にいない大切な人との〝最後の再会の場〟。そこで、泣くことが許されない。「このルールは厳し過ぎないですか?」と問うと、「だからこそいいんですよ」と毅然とした答えが返ってきた。
「泣いてしまったら、物語はそこでピークを迎え、終わってしまう。そこで物語を終わらせたくはない。死者に再会した後。そこから、この物語はようやく始まるのです」
つまり〝死者との再会〟がスタート。
主人公たちの新たな人生はここから始まるのだ。
2冊目を刊行したばかりだが、「シリーズ化して3冊目も出したい。まだまだ書きたい話がありますから」と、すでに新たな構想を膨らませていた。
愛する故郷、生駒の〝まほろば〟から湧き出てくる創作のアイデアは尽きない。

1分で読める超短編『1分小説』を考案し、「毎朝、新作を一作、書き続けています」と語る


「次作ですか?時代劇とSFを融合させた作品を書いてみたい」。小説の構想はとめどなく広がる

浜口 倫太郎(はまぐち・りんたろう)
小説家。1979年、奈良県生まれ。漫才作家、放送作家を経て、2010年、『アゲイン』(後に『もういっぺん。』に改題して文庫化)で、第五回ポプラ社小説大賞特別賞を受賞し、翌2011年、小説家としてデビュー。
『廃校先生』(2016年、講談社文庫)、『22年目の告白―私が殺人犯です―』(2017年、講談社文庫)、『1分小説』(2026年、ポプラ社)など著書多数。
新刊『天空遊園地まほろば 時を結ぶ花々』(ポプラ社)は、全国の書店などで発売中。












