4月号
伝説のパブ・レストラン 「ダニーボーイ」|神戸っ子アーカイブ Vol.1
東門筋をのぼり切り、山手幹線を越えたところに、にしむら珈琲中山手本店が見えてくる。このすぐ北側には、かつてドイツ菓子「フロインドリーブ」があった。そして、にしむら珈琲中山手本店とハンター坂をへだてて西にあったのが、アイリッシュ・パブレストラン「ダニーボーイ」だ。
この「ダニーボーイ」は、国籍や年齢を超えてありとあらゆる人々に愛されていた。外国人はもちろん、カップル、ご夫婦、子供連れ、女性同士、サラリーマンやOLが仕事帰りに一杯、そしてわけあり気なカップルなど連日多くのお客さんで賑わった。例えば、夜9時過ぎに、まだ小さな孫を連れた老人がコーヒーだけを飲みに来たり、ほっと一息つける“第2の我が家”といった感覚で利用した常連客も多かった。
神戸の特徴は、寛容性と多様性にあるが、「誰に対してもオープンで、誰もが気軽に利用できる」、そんな神戸そのもののようなお店であった。
料理のメニューも豊富で、ステーキやハンバーグ、パスタ、ピザ、ローストビーフオニオンなど、どの料理をたのんでも美味しかった。店内は異国情緒にあふれていながら、家のリビングでくつろいでいるかのような心地良さがあり、お酒もより美味しく感じられた。
中でも、アイリッシュ・コーヒーは格別だった。アイリッシュ・ウィスキーのジェームソンにコーヒーを注ぎ、上部に生クリームを浮かべる。時間とともに、これらが三位一体に調和し合い、とてもまろやかで口当たりのよいお酒に変化していくのだ。
この心地よい空間でお酒を飲むと、時間が過ぎるのも忘れてしまい、気が付くと閉店の時間というお客さんも多かった。閉店の合図には、アイルランドの民謡「ダニーボーイ」が店内に流れるが、このひと時が最高に心地よかった。
残念ながら阪神・淡路大震災でダニーボーイは全壊し、その姿を消してしまったが、今もなお多くの人たちの記憶の中で生き続けている。