4月号
連載 輝く女性 ② 子供達の時代につけを残さないエコな住宅、「草屋根」の普及に尽力
第二回は、一級建築士事務所「YURI DESIGN」代表の前田由利さん。阪神・淡路大震災を体験し、全ての建物はいずれ廃棄物になるという事実を実感。以降、「壊れたあと土に戻る家づくり」を実践、「人と環境に負荷の少ない空間づくり」を身上に設計業務を行っておられます。
─建築に興味をもったきっかけを教えてください。
小さい頃からモノをつくるのが好きだったんです。母の影響もあるのかな。おやつも洋服も毛糸のパンツも(笑)全て手作り。手作りが一番! 世界でたったひとつ、手作りの温もりや長く使うことへの愛着、価値を感じながら育ったので、モノ作りで社会と関わりをもつ仕事を選びました。
─オーダーメイドは気持ちも贅沢になりますよね。大学で建築を学び、中堅デベロッパーに入社。独立は最初から考えておられたのですか。
バブル前に入社し、不動産ビジネスを目のあたりにした後の阪神・淡路大震災。多くの建物が一挙に瓦礫になったんですね。地球の有限なものを、建築を介して人間が使えないものにしてしまっている。未来の子供達に大きなツケを残す危機感を感じました。石油から作る建材を極力排除し、壊れてもまた自然に還る木や土でつくる家を提案したいと。そんな家はシックハウスにもなりにくいのです。震災で祖母を亡くしたこともあり、人生一度きり、いつかやりたいではなく、今やるべきだと独立を決心しました。
─震災で私達の住宅の耐震化に関する意識も変わりましたね。木や石よりもコンクリートの方が強度はあるように思いますが。
世界最古の木造建築「法隆寺」は、1300年間、この地震大国日本で現存しています。木材は、正しい使い方、きちんとしたメンテナンスによって、コンクリートにも勝るとも劣らない建材です。また、実は自然乾燥された伐採後300年くらいまでの「古材」は「新材」より丈夫なんですよ。
―古材は強く、味わいもあるし、再利用で資源循環型社会にも貢献すると。屋根を緑化する「草屋根」にも力を入れておられます。
まず夏涼しく、その断熱効果は夏場の屋根からの熱の侵入をアスファルトシングル葺きの22分の1にする解析結果がでています。屋根が植物で覆われるため、冬は建物の熱を逃がしにくくしてくれ、暖かいんですよ。町のヒートアイランド現象の緩和につながります。
―クーラーが要らないですね。節電、省エネにも地球温暖化防止にもなります。草屋根はホッとできて、癒し効果も抜群ですね。
草屋根に住まうオーナー同士の意見交換の場の提供と、草屋根を設計・施工したい技術者の勉強の場を兼ねて、2010年に「草屋根の会」発足しました。屋根の上でピクニックや花を楽しんだり、野菜を収穫したりという楽しいこと、逆に雨漏りはしないのかなど不安なことも直接見て、質問していただけます。今後目指すのは、草屋根はもちろん有機栽培の自給自足など、「自然と共存し、環境や人に負荷をかけない」エコビレッジ。古い建物を改装して、エコな賃貸住宅も増やしたいと考えています。
―地球温暖化が問題になっている現在、私達一人ひとりが未来への強い思いをもって、行動しなければなりませんね。
前田 由利(まえだ ゆり)
一級建築士事務所YURI DESIGN 代表
中堅デベロッパーにて集合住宅の企画・商品開発に携わった後、1997年同社退社、「人と環境に負荷の少ない家作り」の実験住宅に着手。 1998年一級建築士事務所「YURI DESIGN」設立。草屋根住宅を中心に、医療施設、店舗の新築、改装の設計等に携わる。芦屋市景観アドバイザー、兵庫県ヘリテージマネージャー、神戸市すまいの耐震診断員など多方面で活躍
一級建築士事務所YURI DESIGN
神戸市東灘区御影3-8-4
078-846-5125 http://www.yuri-d.com/
伊藤 紀美子(いとう きみこ)
田嶋株式会社 代表取締役社長
神戸生まれ。95年より同社社長に就任。02~06年神商議女性会会長、07年から国際ビジネス委員長。16年、女性初で神戸商工会議所の副会頭に就任。
田嶋株式会社/1899年、繊維を主体とした貿易商社としてスタート。会社創業110周年の2009年に美容&健康分野を新設。オリジナルブランドのスキンケア「PLUSUI(プラスイ)」を開発販売。同ブランドでナチュラルミネラルウオーターも販売