5月号
神大病院の魅力はココだ!Vol.31
神戸大学医学部附属病院 循環器内科 川森 裕之先生に聞きました。
循環器内科では体のどの部分のどんな病気に対して診療が行われているのでしょうか。神大病院ならではの先進的な治療法やチーム医療のことなど、川森裕之先生にお聞きしました。
―「循環器」とは体の中のどの部分を指すのですか。
「循環」とは血液やリンパ液の流れを指し、それに関わる器官を意味するのが「循環器」です。一般的には血管と、それに関わる器官として主に心臓を指します。
―循環器内科の役割はどの範囲ですか。
心臓や足の血管の病気を治療するのが循環器内科の主な役割です。心臓を取り囲むように走る血管「冠動脈」に関わる病気で「虚血性心疾患」と総称され、血管が細くなったり詰まったりして必要な酸素や栄養が心臓まで届かなくなる狭心症や心筋梗塞などを指します。足の血管の病気としては、足の血管が詰まり血液がその先へと流れなくなり、歩けなくなったりする「下肢閉塞性動脈硬化症」が挙げられます。
循環器内科には「診断」という役割もあります。例えば、心臓から全身に血液を送り出す大きな血管「大動脈」の治療は心臓血管外科の先生方が得意とする領域です。その疾患の診断には循環器内科の役割も大きく、心エコー検査や造影CT検査を行い診断し、内科的に可能な範囲での治療をします。外科的治療が必要な場合が多く、心臓血管外科の先生方に引き継ぎます。
―内科的な治療とは?
主に薬による治療で、皆さんに馴染みがあるものには血圧の薬がありますね。それらの中には心臓を保護する作用を備えている薬もあり、心不全の治療薬としても使われています。また、狭心症や弁膜症、不整脈に対して経皮的に(大きく切開せずに、皮膚を通す)カテーテルを用いて行う治療「血管内治療」は循環器内科で行っています。
―血管内治療とは?
心臓を養うための血管である冠動脈に問題が起きる狭心症では、手首の動脈から細い管を通し血管が狭くなっている部分までバルーンやステントを運び、膨らませて血管を押し広げ血液の流れを改善させます(経皮的冠動脈インターベンション)。心臓の中にある4つの部屋を仕切る弁に不具合が起きる心臓弁膜症では、内科的に心臓の負担を減らす薬を使い、それでも対応できなくなった場合には、外科的な弁置換術や弁形成術を心臓血管外科の先生方にお願いします。ここ数年、この領域で、循環器内科医が経皮的にカテーテルで治療を行うことも増えてきています。大動脈弁狭窄症に対しての治療である経皮的大動脈弁留置術(TAVI)は、その一つです。これは、主に、足の付け根の動脈である大腿動脈などの太い血管から、カテーテルを通して新しい弁を傷んだ弁の位置まで運び、拡げて置き換える治療です。局所麻酔で可能で、小さな傷ですみ、人工心肺を用いない治療のため、高齢の患者さんや外科手術が難しい患者さんに適しています。
―循環器内科の領域なのですね。
心臓血管外科の先生方は、大動脈の病気の一つである大動脈瘤の血管内治療を放射線科の先生方と協力して行っています。また、頭や頸の血管内治療に関しては、脳外科の先生方が担当されます。血管内治療の全てが循環器内科の領域というわけではありません。
虚血性心疾患や弁膜症は、循環器内科・心臓血管外科が共に治療可能な領域で、両診療科が協力して、どの治療が患者さんにとって最善か、患者さんの気持はどうかを、しっかり議論し診療に当たっています。
―チーム医療ですね。
治療には、チーム医療はかかせません。他科の先生方(心臓以外の病気を複数持っていることもある)、心臓リハビリの資格を持つ先生方や理学療法士さん、患者さんの日頃の様子を把握している看護師さんにも意見を聞き、多職種で治療方針について議論を行っています。
―神大病院へは緊急搬送される患者さんが多いのですか。
急を要するケースとして、急性心筋梗塞が挙げられます。心筋梗塞は突然発症するケースが多く、市民病院や県立病院などの地域の基幹病院での受け入れ体制が整っているため、速やかに治療が行われています。これは日本の医療の優れているところです。神大病院では、心筋梗塞のような緊急を要する心疾患の受け入れは、基幹病院と同様に行っていますし、これらの病院では手に負えない重症症例や、高度な医療技術を必要とする症例の受け入れも行っています。
―神大病院が得意とする心臓・血管に対する診療や先進的な治療法は?
心臓移植以外の全ての循環器診療が可能です。虚血性心疾患・閉塞性下肢動脈硬化症・心臓弁膜症に対する経皮的カテーテル治療、慢性血栓塞栓性肺高血圧症に対する肺動脈バルーン拡張術などに力を入れています。不整脈疾患に対するカテーテルアブレーション治療や埋め込み型ペースメーカーなどのデバイス感染に対しての経皮的ペースメーカリード抜去術は兵庫県下で有数の症例数です。
経皮的補助循環装置(ECMOやIMPELLA)や埋め込み型補助人工心臓(VAD)を必要とする重症心不全患者さんの診療、幼少期に心臓病を指摘され、成人期に達した成人先天性心疾患(ACHD)診療の実績が増えてきています。
―心臓や血管の疾患を予防するために大切なことは?
生活習慣病が原因になることが多く、予防には体に良いものを食べるのが一番だと分かっていても、塩分が多いものやコレステロールが高いものはやはり美味しいですね。忙しいのでついファストフードで済ませてしまったり、夜遅くまで仕事をして睡眠不足になったり、運動不足になったり…することも多いのではないでしょうか。生活習慣病で、代表的な高血圧は、心臓にも脳血管にも影響を与えます。そのため、生活習慣が改善されない場合は、薬で加療することになります。内科の先生方は、将来的な心疾患や脳血管疾患を予防することを目的として、血圧管理をされるので、ぜひ指示通りに服薬していただきたいと思います。生活習慣の中でも喫煙は明らかに良くありません。下肢動脈閉塞症の大きな原因にもなっています。禁煙は努力でなんとかできる予防法です。ぜひ挑戦していただきたいと思います。
川森先生にしつもん
Q.川森先生はなぜ医学の道を志されたのですか。中でも循環器内科を専門にされた理由は?
A.父も同じ医師でしたので、その影響があったと思います。父が専門としていたのも循環器でした。循環器内科病棟が他の診療科と違うのは、モニター心電図の音が常にピピッ、ピピッと鳴っていることです。緊迫感があって、学生の頃はちょっと怖くてその場にいることもしんどいと思っていました。医師免許を取得し、日々診療している中で覚悟が出来たのか、結果的には「頑張ろう」と思って、父と同じ道を選ぶことになりました。
Q.大学で学生さんを指導するにあたって心掛けておられることは?
A.試験に通って入学してきた学生たちですから、勉強は大丈夫なはずです。実際の診療に大事なのは、患者さんとしっかりコミュニケーションをとることです。これはどんな仕事に就いても同じですね。現場で経験を積んで、患者さんに信頼されるような医師になってほしいと話をしています。
Q.患者さんに接するにあたって心掛けておられることは?
A.病気や治療について患者さんには分からないことがたくさんあると思います。中でも循環器内科の治療は高齢の患者さんに対することが多く、また病気や治療の内容が複雑化してきているので、理解していただくのはとても難しくなっています。どこまで納得して治療を受けていただいているのか?不安になることもあります。そこで、患者さんご本人、また可能な限りそのご家族にも同席する機会をつくっていただき、時間をかけて丁寧に説明することを心掛けています。
Q.川森先生ご自身の趣味やリフレッシュ法は?
A.私は古いタイプの人間で、父もそうだったように、仕事を優先した生活になっていると思います。心臓の病気は時間や曜日を選んでやってきませんし、急を要する場合もあるため、忙しいことも多いです。自分や家族のための時間は、必然的に少なくなります。このような考え方を、理解してくれている家族に感謝しかありません。実は、高校生の娘の試合を見に行くのが非常に楽しみで、応援しているのに気づかれると、「緊張する」と言われるので、家内とこっそりと応援しています(笑)。娘の勉強にクラブ活動に頑張っている姿を見ると、「自分も頑張らないと」と思って、私と家内の日々の原動力になっています。