10月号
風に吹かれた手紙のように|松本 隆|Vol.11
喫茶店で話すラジオ番組みたいな2人のおしゃべり。
ラジオを聴くように読んでほしい。
meme 先日番組で、映画や洋楽のタイトルの邦題を特集したんです。例えば、ビリー・ジョエル『You May Be Right』は『ガラスのニューヨーク』。ガラスはどこにもないですけど、イントロでガラスの割れる音がするからそうなったらしいです。笑ったのは、フランク・ザッパ『No Not Now』の『今は納豆はいらない』(笑)
松 本 「納豆」はどこにもなかったはずだよね(笑)
ビリー・ジョエルの詩はいいよね。僕と同い年じゃないかな。
※両氏1949年生まれ
『オートバイ』って小説が映画になったとき、邦題が『あの胸にもう一度』になってて。僕は小説を読んでたから、違和感があった。原題は『The Girl On A Motorcycle』。まだオートバイは残ってるのに、邦題ではどっか行っちゃった(笑)。でもストーリーは小説に忠実で、アラン・ドロンとマリアンヌ・フェイスフルがよかった。
meme タイトルもそうですけど、映画ならポスター、レコードならジャケットも記憶に残りますね。
松 本 『ゆでめん』『風街ろまん』とか、飾ってるって話はよく聞くね。
絵とかレコードジャケットも、景色と同じで記憶に染み込む。だから、部屋はいつもキレイにして、目に触れるところには好きなものを飾るといいと思う。僕はそうしてる。好きな絵を見てたら気分がいいから。
ジャケ買い、たくさんしたよ。昔は銀座と渋谷のヤマハしか輸入版のレコードが買える店はなかった。60年代はまだオタクっぽいレコード屋はなくて、細野さんとか僕が通ったパイド・パイパー・ハウス(1975︲1989)が青山にできたのは、ずっと後のこと。
あるとき銀座のヤマハに行ったら、「松本くん、いいレコードがあるよ」って呼ばれて。「キミに売ってあげる」って。今思えば、ずいぶん上から目線だよね(笑)。「昨日入荷したばかり。うちが1番早いから、日本で1番にキミが手にすることになる」って。それは価値あるなと思って買ったんだけど。それがレッド・ツェッペリン。聴いたらすごくかっこいい。
ちょうどその頃、バンドでテレビ出演が決まって、誰もまだ演ってないツェッペリンをやろうってことになった。「松本、これコピーしろ」って細野さんに言われたのが『Good Times Bad Times』。「いいよ」って言ってから、よぉく聴いてみたら、めちゃくちゃ難しいの、バスドラが(笑)。できるか!と思ったけど、必死にやりました。ボンゾ(ジョン・ボーナム)のドラムは難しい。でもかっこいいんだよ。「できない」なんて言わない(笑)
アルバムを手にしたおかげで、ツェッペリンのコピーをテレビで演奏したのも、僕たちが日本で1番だと思う。
meme 「この子に聴かせたい」と思わせる松本さんもすごいし、ヤマハの方も優秀ですよね。
デイヴィット・ホックニー展(東京都現代美術館)に行かれてましたね。お好きなんですか。
松 本 40年くらい前、仲のいい画廊の人が「珍しい絵が入ってきたよ」と見せてくれたのがホックニーだったの。なんか懐かしくなって行ってみた。すごくよかったよ。観に行った方がいい。86歳のおじいさんなんだけど、常に新しいことに挑戦してる。
絵を見るのは好きなんだと思う。北青山にある画廊には、時々遊びに行ってた。今はワタリウムっていう美術館になってるよ。南青山に住んでたから、あのあたりに行きたくなっちゃうのもあるだろうけど。すごく忙しい時期だったけど、あの時間は僕にとって必要な時間だったんだろうね。
……ちょっと、外、歩こうか。