2023年
10月号
10月号
竹中大工道具館 邂逅―時空を超えて|第一回|
祈りのかたち ―建築儀式とその道具
建築工事では、節目ごとに儀式が行われます。工事はじめに行う地鎮祭、柱を立てるときに行う立柱式、棟木を上げたときに行う上棟式、完成したときに行う竣工式など。社寺や住宅のみならず、最先端のハイテクビルディングでも、工事の安全を祈願して儀式は行われています。
このような建築儀式は、現代では神職が行うことが多くなっていますが、本来は大工棟梁が行うものでした。
棟梁自身が式典の準備や進行を把握し、儀式が始まれば正式な装束を身に着け、専用の道具を用いて所作を振る舞い、神々に祈りを捧げます。またものづくりを自身で行えるため、上棟式に用いる棟札(写真)や幣串なども製作していました。
それゆえに古くから続く大工棟梁家には蒔絵や錺金具に彩られた綺羅びやかな儀式道具が残されています。有名なのは幕府大棟梁甲良家が日光東照宮に奉納した儀式道具で本殿の付属品として国宝になっています。
竹中工務店にも儀式道具が伝えられています(写真)。竹中家はもともと名古屋で宮大工を家業にしており、自らの儀式作法を、屋号を冠して大隅流祭式と称していました。通常は墨壺と墨さし、曲尺、釿で構成される儀式道具ですが、この揃えではさらに鋸とヤリガンナが追加されており、独特なスタイルになっています。
儀式道具は各棟梁家によってデザインが異なるので、それぞれを見比べて「祈りのかたち」を愉しむのもまた一興かもしれません。
(主任学芸員・坂本忠規)
竹中大工道具館
TAKENAKA CARPENTRY TOOLS MUSEUM
神戸市中央区熊内町7-5-1
Tel.078-242-0216
休館日:月曜日(祝日の場合は翌日)
開館時間:9:30~16:30(入館は16:00まで)
https://www.dougukan.jp/