2016年
4月号
4月号
神戸のカクシボタン 第二十八回「気軽にフレンチ、陽気にデザート」
写真/文 岡 力
知人と甲子園口ディナーへ。駅を降り土地勘のない夜道を談笑しながら歩く。やがて暗闇の中から現れた一軒のレストラン。重厚感あるレンガ造りの家屋、異国情緒あふれる幻想的な風景に心が躍る。「アラメゾン ジャンポール」は、本場ブルターニュ地方の郷土料理を提供しているお店である。店奥の厨房で寡黙に調理を行うのは、フランス人オーナーシェフのジャンポール・ヴァレーさん。今から36年前、デリカテッセンを扱う会社に食肉加工製品の職人として招かれ来日。
6年前に店舗を開業し、妻の優美子さんと仲睦まじく切り盛りしている。
ワイングラスを傾け近況を語らいながら待つこと数分。テーブルにお店自慢のガレットが運ばれる。そば粉の配合にこだわった生地の上には、野菜をじっくり煮込んだラタトゥイユ、手作りソーセージ、卵、グリュイエールチーズが絵画のようにレイアウトされている。ナイフとフォークでパクパクサイズ(私の造語)に切り取り口へと運ぶ。
食べた瞬間、ブルターニュ地方とは無縁の「うまい!」というベタな日本語がこぼれる。ワインと美味しい料理を一通り堪能したところで食後のクレープを注文。ブルーベリー・ブラックベリー・ラズベリーから成る三種の自家製ジャムが生地の上でアイスと調和し品のある味わいを奏でる。暖かい雰囲気に包まれる店内、心なしかお皿のクレープが笑っているように見えた。
岡力(おか りき)コラムニスト
ふるさとが神戸市垂水区。著書「アホと呼ばれた’80S」「噂の内股シェフ」「関西トラウマ図鑑」連載「大阪ロマン紀行」(大阪日日新聞)出演「おちゃのこSaiSai」(J:COMチャンネル)「Oh!二度漬けラジオ」(YES-fm)