2020年
11月号
対談ホスト役の三好万記子さん(右)と沼部美由紀さん(左)。自らをブランディングし、取材は白コーデと決めておられるとか

輝く女性Ⅲ Vol.10 株式会社クロシェ ホールディングス 代表取締役 沼部 美由紀さん

カテゴリ:文化人, 神戸

インタビュアー・三好 万記子

人気料理サロン「ターブルドール」代表の三好万記子さんがホスト役となって、
輝いている阪神間在住の女性にお話を伺うシリーズ。
おもてなし上手な三好さんとの対談から、どんなオイシイお話が飛び出すことでしょう。
今回、お話を伺ったのは…

株式会社クロシェ ホールディングス 代表取締役 沼部 美由紀さん

「ここち良さを、あたらしい視点から」をモットーに
自己表現から環境保全、関西の発展まで
全てに積極的に取り組んでいきたい!

セレクトショップ「ジャスミンスピークス」の運営をはじめ、バレエシューズの「ファルファーレ」や神戸・山の手スカートにファンの多い「トレコード」といった人気ブランドを手掛ける沼部さん。乙女心をつかまれている女性経営者のサクセスストーリーから、ビジネスのヒントやコロナ禍を乗り越える知恵を伺いました。

…もともとは欧州の食器類の輸入業を手掛けられていたとのことですが、アパレル業界に参入されたきっかけは?

27歳で起業した輸入食器店で百貨店の催事に出展することとなったのですが、食器ゆえに搬入・搬出にとにかく手間がかかるのです。隣のブースではインポートセーターを販売されていて、段ボールで納品した商品をラックにかけるだけ、5分で準備完了。しかも2万9000円もするセーターが飛ぶように売れているんですね。一方、私の2900円の食器は耐久品なので、なかなか売れない。5時間かけて準備しても搬出入5分のアパレルの売上1/10しかない食器。商売の観点から見たとき「どちらがいいのか?絶対に服!でしょう」って。
アパレルの道を歩み始めるにあたり、売りたい服がありました。前職のバイヤー時代から注目していたフランスの「ワンマイルウェア」です。パリの人たちが着こなしているお洒落な普段着を輸入して売ろうと。とはいえ食器とアパレルは業界も違いますし、コネもないので、体当たりの熱意で仕入先を開拓したんですよ。

…私もフランスに暮らしていたのでよくわかるのですが、バカンスを大切にしているお国柄ゆえ、休日のラフな着こなしもカッコいいですよね。ジーンズスタイルが登山風にならない(笑)。それにしてもスピーディな決断と行動力に驚かされます。成功をおさめた社長さん達には思い切りのよさやスピードが共通していますね。

まず効率を考えるんです。それは今も変わらず商売の原点となっていて、後々バレエシューズや山の手スカートなど、単一アイテムを集中販売するのも私の“効率化好き”が編み出したものです。
「ワンマイルウェア」の次は「ワンパックウェア」という海外出張のスーツケースにも収まりやすい、カジュアルにもパーティにも活用できるタートルカットソー「パドゥリオン」を考案し、年間10万枚のメガヒットアイテムに。売れに売れていたのですが、2008年をピークに売上が激減。倒産を覚悟し、家も手放さないといけないだろうな…と家の代わりとなるキャンピングカーを買ったところ、週末アウトドアにハマってしまって(笑)。そこからヒントを得て売り出した「ティーピーオブザデイ」というアウトドア系ブランドがまたブームとなるんです。人間って頭から煙がでるほど考えたら神様がヒントを与えてくれるんですね。それまでバイイングしていた世界中のどの国の靴よりも履きやすいのが神戸・長田の靴だとわかり、メイドインジャパンに挑戦。2014年に立ち上げた街歩き用バレエシューズの専門ブランド「ファルファーレ」が大ヒットし、倒産の危機からV字回復していきました。「ファルファーレ」は消費者目線で要素を選択・集中し、品質向上・在庫効率化を実現。通気性や伸縮性、汚れにくさなど、革ではできないことを実現できるため、あえて合皮を採用することで、柔らか素材で足になじむ世界一のバレエシューズが完成したと自負しています。

…製造を手掛ける長田区の靴職人の技術の高さや品質の良さを消費者に伝え、地場産業の振興にも貢献されていますね。何より消費者ファーストの作り方、売り方が心に響いて大ヒットにつながっているのでしょうね。

なりたい自分を演じることができるのが服のマジックだし、ファッションの力だと思います。特にコロナでファッションの在り方も大きく変わりました。トレンドよりも多様性を重視し、自分が好きなカラーやデザインを着て、自分をブランディングして発信していくSNS的な方法がより身近になってきた。個性をだして、自分を包み隠さず出せることが生きがいとなり、それが生きている実感につながっていきます。うちも企業理念として「ここち良さを、あたらしい視点から」を掲げ、自分を表現する新しい視線のビジネスモデルを考え、ポテンシャルを見出していきたいと考えています。

それには商品やサービスを提供する側と消費者の信頼関係も大事ですよね。飲食業も同じで、各店がしっかりブランディングすることでお客様もお店を選びやすくなります。9月に当サロンでオープンしたレストラン「78」は完全予約制でメイン料理を選んでいただくスタイルにしています。お一人おひとりにできるだけあわせたものという想いと仕込みがわかるので廃棄がなくなり、その分、いい素材を使って価格を抑えることができるからです。

アパレル産業でも廃棄問題がとりざたされています。当社でも環境破壊を少しでも防ぎたいと、2024年までに生産量の80%を受注生産に切り替える予定です。必要とされる分だけ生産し無駄なものを作らない。注文していただいてから生産するのでお届けまで1~2ヶ月ぐらいかかるものの、皆さん意外と待ってくださいます。環境保全への共感ももちろんですが、三好先生のお店と同じで在庫リスクがない分、利益還元して価格をお安くしていることも大きいですね。お客様も私たちも地球にもいい、三方良しのカタチをアパレル業界全体に広げていきたいと思います。

…コロナをきっかけにして、新しい未来がカタチづくられることに期待したいですね。沼部さんは神戸商工会議所や経済同友会など、社会活動にも積極的に取り組んでおられますよね。

神戸単体ではなく、関西のなかの神戸という考え方が根っこにあります。例えば、観光の京都、商売の大阪、住む神戸という具合に、それぞれの価値を高めることで関西全体の価値も高めていくとか。自然が豊かで、質のいい食事をリーズナブルに堪能できる、神戸ほど住む条件が素晴らしいところはありません。神戸に住んでもらって地元愛を育むことで将来的には神戸でもビジネスという長期計画で確実に神戸を発展させる方法を提案していきたいです。あとは2025年の万博に向けて、神戸の企業はもっと積極的に活動するべきではないでしょうか。世界中に情報発信できる絶好の機会なのですから、神戸に固執せず、関西の一員として万博に便乗しない手はないと思いますね。

…常に時代の先を視野に入れ、豊かな暮らしの提案に積極的な沼部さん。仕事に燃えておられるのにギラギラ感がなく、例えるならヨーロッパのブロンズに輝く太陽のよう。オンもオフもさりげないのに手抜かりなし、皆が憧れる欧米のリッチでスマートなマダム的なイメージで、神戸…否、関西を!ひっぱっていってもらいたいです。

対談ホスト役の三好万記子さん(右)と沼部美由紀さん(左)。自らをブランディングし、取材は白コーデと決めておられるとか

三好さんからの質問コーナー

Q.ハマっているグルメや気になるお店はありますか。

A.「カラダがキレイでないと服も似合わない」が持論。食事がカラダをつくり、カラダが服をキレイに見せる。食とカラダ、服はつながっている…との想いから、無理しない程度に今日は野菜を多めにとか、小麦粉はとらないとか、栄養バランスを気遣っています。


株式会社クロシェ ホールディングス 代表取締役 沼部美由紀

甲南大学経済学部卒。1996年に六甲アイランドに輸入食器販売店を創業。1998年からアパレル業にシフトし、99年にセレクトショップ「ジャスミンスピークス」を開店。「パドゥリオン」や「トレコード」など独自ブランドを立ち上げる。街歩き用バレエシューズ「ファルファーレ」の劇的ヒットなどの功績により2019年に関西財界セミナーの「輝く女性賞」受賞。神戸商工会議所女性会理事、神戸経済同友会役員を務め、関西経済同友会に所属、社会活動にも積極的に取り組む


三好 万記子(みよし まきこ)

株式会社ターブルドール 代表取締役
神戸女学院大学卒。パリに3年間滞在中、フランス料理を学ぶ。ル・コルドン・ブルーにて料理ディプロマ、リッツ・エスコフィエにてお菓子ディプロマを修得。帰国後、西宮市・夙川にて料理サロン「Table d’or」主宰。ケータリングではディスプレイを含むトータルコーディネートに定評あり。2020年9月、芦屋市にレストランカフェ「78Fuzuki Yaoka」をオープン。美味しく身体に優しく創造的なメニューを次々と考案し、開業直後から予約が埋まる。企業へのレシピ提供など、「食」を幅広くプロデュース。

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