2020年
11月号
グリル十字屋にて

⊘ 物語が始まる ⊘ THE STORY BEGINS – vol.3 映画監督 脚本家 安田 真奈さん

カテゴリ:文化・芸術・音楽, 文化人, 神戸

新作の小説や映画に新譜…。これら創作物が、漫然とこの世に生まれることはない。いずれも創作者たちが大切に温め蓄えてきたアイデアや知識を駆使し、紡ぎ出された想像力の結晶だ。「新たな物語が始まる瞬間を見てみたい」。そんな好奇心の赴くままに創作秘話を聞きにゆこう。第3回は映画監督、脚本家の安田真奈さん。

知らない世界の魅力を伝えたい…映画作りの故郷は神戸

仕事の魅力、働く楽しさを伝えたい

知っていそうで知らない仕事の世界。その裏側や奥底までを、映画の中で繊細かつ臨場感豊かに描き続けてきた。
「いつしか〝お仕事映画が得意な監督〟と呼ばれるようになりました。脚本を書くために文献で調べたり、取材したりするうちに私自身がその仕事の世界に魅了されていく…。そこで知った驚きや感動を人間ドラマに織り込むのが好きなんです」
こう説明したうえで、「なかなか映画化されそうにない地味な仕事を描く。そういう監督が一人くらいいても良いかな…」とも。
新作は、世界初のクロマグロの完全養殖に成功した近畿大学の研究をテーマに描いた映画「TUNAガール」だ。
〝近大マグロ〟の愛称で親しまれ、近年は東京、大阪に、この養殖マグロをふるまう近大直営のレストランがオープンするなど話題は尽きない。だが、実際にどうやってマグロが養殖されているかを知っている人はどれほどいるだろうか?
映画化の企画が上がったのは今から約3年前。「クロマグロの完全養殖の成功には、32年もかかっているが苦労話の再現ドラマではなく、今、研究している大学生の視点で、青春ドラマにできないか」と製作陣と検討。
学生が研究合宿をしている和歌山県の水産研究所に赴き、学生・教授に取材し、脚本の構想を膨らませていった。
若手実力派女優、小芝風花演じる大学生、美波の視点から、研究の難しさと同時に、その尊さを浮き彫りにしていく。
「養殖マグロを健康に育てるために、稚魚の〝エサのエサ〟から育てるなど、取材すればするほど養殖は奥深く興味の尽きない世界であることが分かりました。これはきっと面白い世界が描ける…」と確信したという。

原点は、働く〝OL監督〟の視点

自分が知らない世界に魅せられ、その魅力を人間ドラマに織り込むために映画化する―。このスタイルは監督デビューの頃から変わっていない。
奈良県で生まれ育ち、県立奈良高校では映画研究部に所属。映画にのめりこむきっかけは森田芳光監督の映画「家族ゲーム」だった。
「中流家庭に松田優作演じる家庭教師がやって来る。ごく日常的な設定なのに、とても面白い。壮大なテーマでなくても映画は撮れるのか!」と感銘を受け、映画作りに興味を持った。
神戸大学に進学すると映画サークルに入り、自主製作で8ミリ映画を撮り始める。
「複数の部員が入居していた古いアパート『福寿荘』に、サークルの機材部屋もあったので、行けば部員がいる、いつでも編集作業ができる、という有難い環境でした」と振り返る。
大学卒業後は松下電器産業(現パナソニック)に就職。一方で、自主製作映画を撮り続け、全国の映画祭に作品を応募。〝コンテスト荒らしのOL 監督〟の名は映像業界で知れ渡るようになる。
仕事との両立が難しくなり、9年半で退社し、監督・脚本業を始めた。
2006年、沢田研二、上野樹里をキャストに配した「幸福のスイッチ」で、劇場映画監督としてデビューを飾った。
和歌山県の田舎町の小さな電器店が舞台。沢田演じる店主とその娘、上野の親子愛と奮闘を描いた。
「切れた電球を替えたり、重いマッサージ椅子の移動を手伝ったり…。地方の電器店はただ家電を売るだけが仕事ではないのです」
映画で描かれるこれらの描写はいずれも実話だ。メーカー勤務時代、兵庫県加古川市の電器店などに応援に出た経験の中で、「小さな電器店が地域で果たす役割の尊さを目の当たりにしました。就職するまで知らなかった世界でした」
社会人経験の中で培った〝OL監督〟としての視点は一貫し、ぶれない。作品の中でもヒロインたちは失敗を乗り越え、たくましく成長を遂げる。あきらめず頑張り続ける彼女たちに温かくエールを送る。

母としてのメッセージも込めて

「量販店で家電を買ったり、スーパーで鮮魚を買う生活の中では見えない世界がある。人知れず社会を支える地方の電器店主や養殖の研究者…。世の中には多様な仕事があり、それぞれ奥が深い。人間ドラマを描きつつ、働くことの魅力も若い世代に伝わると嬉しい」
中学2年の長男を育てる一児の母としての経験も、映画の中にメッセージとして投影されている。
大阪に拠点を構え、監督、脚本家として関西を舞台にした数多くの映画、ドラマを手掛けてきた。その中には、阪神・淡路大震災をテーマにした「劇場版 神戸在住」(白羽弥仁監督)の脚本、加古川の女子高生のひと夏を描いた「36・8℃ サンジュウロクドハチブ」の監督・脚本など、兵庫ゆかりの作品も多い。
「大学生の頃、8ミリカメラで初めて自分の映画を撮ったのが神戸。私の映画製作の原点、故郷は神戸なんです」
企画は具体化していないが、神戸ロケの構想はいくつかあるとのこと。「メジャーな観光名所以外にも、味わいのある街角、おもしろい行事、興味深い歴史など、神戸には色々ありますからね。撮りたくなる街です」と笑みを浮かべ、神戸ゆかりの映画の製作に意欲を見せた。

(戸津井康之)

グリル十字屋にて

「TUNAガール」より。小芝風花さん、藤田富さん

©吉本興業/NTTぷらら
「TUNAガール」
作品紹介サイト
https://yasudamana.com/jp/tunagirl/
ひかりTV、大阪チャンネル、ネットフリックスにて配信中

製作 東北新社・東京テアトル・関西テレビ放送
2020.12.15より
U-NEXT配信

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