12月号
輝く女性Ⅲ Vol.5 クムフラ マリコ・レイイリマラニさん
インタビュアー・三好 万記子
人気料理サロン「ターブルドール」代表の三好万記子さんがホスト役となって、輝いている阪神間在住の女性にお話を伺うシリーズ。
おもてなし上手な三好さんとの対談から、どんなオイシイお話が飛び出すことでしょう。
今回、お話を伺ったのは…
Kūhai Hālau Ō Lei’ilimalani Pā ’Ōlapa Kahiko
クムフラ マリコ・レイイリマラニさん
美しき、祈りのフラを通して、フラの文化を守り、存続させたい
「フラの神様」と世界中の人々に敬愛される“フランク・ヒューエット”のもとハワイで修行し、師の教えを継承するフラダンス教室を主宰されるマリコさん。今回の取材は8月4日、マリコさんとお弟子さん約50名がフラを奉納された生田神社で行いました。当日と同じ、正式なフラの衣装に着替えていただき撮影がスタート。壮麗な朱塗りの本殿の前に佇まれるマリコ先生は息をのむほどの美しさでした。
…「フラ」といえば、鮮やかな色彩の衣装を身につけて舞台で踊るイメージがあり、日本の神社との結びつきがピンとこなかったのですが。
ハワイには自然崇拝の伝統があり、全ての物には神が宿る(八百万の神)という価値観のもと、信仰や祈りの表現としてフラが踊られていました。フラには「カヒコ(古典フラ)」と「アウアナ(モダン・フラ)」の2種類があり、古代ハワイから脈々と受け継がれてきた神聖な踊りは「カヒコ」と呼ばれる古典フラ。一方、三好先生がイメージされているのは一般の方にも馴染みがある「アウアナ」と呼ばれるモダン・フラになります。モダン・フラは19世紀以降、ハワイの観光産業の発展に伴い、ウクレレやギターなど欧米の音楽や楽器を取り入れ、ショーの踊りとして新たに創作されたフラなんですよ。
…2種類あることは知りませんでした!神社ではどのように奉納されるのですか?
神々に捧げる古典フラを踊る時には、古代ハワイから受け継がれてきた伝統的な形式に従って踊る必要があります。拝殿で拝礼を終えたのち、ハワイ語でオリを詠みあげ、歌(チャント)と打楽器のリズムに合わせて踊ります。オリは日本語では詠唱と言われていて、日本の祝詞のようなもの。降りてきていただいた神々のスピリットと一体になって舞い、最後にホイという歌をうたって神々に帰っていただきます。どの踊りにも物語があり、すべての動きに意味がありますので、神社ではお慶びや災いを静めるなど、祈りにあわせた歌と踊りを奉納します。
…神道の祭祀で神に唱える祝詞など、古典フラと神道には深い共通性があるんですね。
日本とハワイの文化は違うとはいえ、カヒコを神社で踊るのは神への奉納舞ということでは同じです。だからカヒコは誰でもすぐ踊れるわけではなく、ハワイアンのものの考え方や文化を学び、理解することが必要です。奉納約1ヶ月前から生徒たちと準備を始めるのですが、まずは魂が良いレベルで保たれるためのルールを決めます。お酒やお肉を断つなどといった、願かけのようなものですね。断つということで自分の魂をクリアにする作業とカラダを清める作業を行い、神域に入ることと向き合っていくんです。奉納当日は禊をするため、海へお清めに行くなどの作業をしてから踊るんですよ。
…フラはとても宗教的で神聖な踊りなんですね。神社仏閣でのフラの奉納活動はいつぐらいから始められているのですか。
2012年からです。伊勢神宮 内宮、出雲大神宮、伊弉諾神宮、住吉大社、松尾大社、高千穂神社、金比羅宮、上賀茂神社、下鴨神社、伏見稲荷大社などでも奉納させて頂きました。
…格式の高い神社ばかりですね。
2000年前後の歴史がある神社の拝殿や祈祷殿でフラを捧げています。私が主宰するフラスクールの本校は、ハワイで8代続く、ハワイの本場でも有数のフラのお教室です。伝統的な形式を代々のクムフラ(フラマスター)より継承していますので、その日本校である私のフラスクールでも、自然の神々に捧げる伝統的なフラを、自然の神々が祀られている日本の神社で体現することで、ご神事としてのフラダンスを継承する活動をレッスンの一環として行っています。
ご縁があってハワイのフラを学んだことで、日本の文化を見直すきっかけになったように思います。残念なことに今、日本では素晴らしい伝統文化が継承されず、失われつつあります。例えば、定期的に古典フラ教室も開催している出雲大神宮はご神水・真名井の水が湧出することで知られていますが、それは出雲内神宮ができた1300年前から地元の方が結界を張って守ってこられたからこそ。いいお水や土地があるから食物が育ち、私たち人間も生きていけるのですから、神社が守ってきた生命の原点となる大事なものも大切にしなければいけないと思います。その場所に意識を向け、さらには守るためのお金も必要となるでしょう。私たちの活動が土地を守って、水を守って、そこで栽培する野菜やお米なども守っていくような流れになっていければと願っています。
…確かに時代の変化とともに、お節句のお祝いなど、家庭や地域社会において日本の伝統や文化について理解したり経験したりする機会が減っています。国際化が進展する今の時代だからこそ、日本の文化理解を基盤に異文化を理解し、大切にしようとする心が育つことで、世の中ももっと平和になるのではないかと思います。
日本で教室を始めて8年、生徒たちにも今までのように単にフラが楽しくて、踊るだけではなく、さらに1歩踏み込み、大地を守るための踊りに対する理解が深まってきています。さらにうちのフラダンサーから話を聴いたり、神社へのフラ奉納をご覧になったりすることで、伝統文化を人生のなかに取り入れる、きっかけになってほしいなと思います。ありがたいことにフラ奉納の活動は全国の多くの宮司さんたちが賛同してくださり、生田神社さんは今年初めての奉納だったのですが、また来年も、とお声かけいただいています。
…今まで唄って踊られるマリコさんの華やかな一面しか知りませんでしたが、お話を伺って伝承者としてのゆるぎない信念をもっていらっしゃることがわかりました。来年はぜひ、生田神社の美しいフラと厳かな時を拝見しに、足を運んでみたいと思います。
三好さんからの質問コーナー
Q.ハマっているグルメや気になるお店はありますか。
A.ハワイの伝統的な家庭料理、ルアウシチューです。タロ芋の葉とチキンや豚肉や野菜をペースト状になるまで煮込んだもので、ハワイに行ったときは必ず食べますね。緑色のシチューという個性的な見た目ですが、一度食べたら癖になるおいしさです。「ハワイアンはタロ芋と兄弟」とハワイの神話に出てくるほど、古代ハワイアンにとってタロ芋はソウルフードなんです。
クムフラ マリコ・レイイリマラニ
世界的に有名なハワイのフラマスター、クムフラ フランク・カヴァイカプオカラニ・ヒューエットに師事し、2011年にクムフラ(師範)の資格を取得、ハワイアンネームのマリコ・レイイリマラニを授かる。オアフ島のカネオヘとハワイ島のヒロに拠点をもつフラのトップアカデミーの日本分校となる自身のフラダンス教室「Kūhai Hālau Ō Lei’ilimalani Pā ’Ōlapa Kahiko」を2012年春、京都にオープン。京都本校では90人を超える弟子たちにフラを伝授、本校在籍のトップダンサーの弟子が指導する生徒を含めるとその傘下は150人以上にも。現在、ハワイと日本を往復しながら、ハワイの伝統的な『神に捧げるカヒコ(古典フラ)』を日本に伝承する活動も精力的に行っている。
三好 万記子(みよし まきこ)
株式会社ターブルドール 代表取締役
神戸女学院大学卒。パリに3年間滞在中、フランス料理を学ぶ。ル・コルドン・ブルーにて料理ディプロマ、リッツ・エスコフィエにてお菓子ディプロマを修得。帰国後、西宮市・夙川にて料理サロン「Table d’or」主宰。また出張料理人としてケータリングも展開、料理はもちろんディスプレイを含むトータルコーディネートに定評あり。企業へのメニュー開発、レシピ提供など、「食」を幅広くプロデュース。二児の母。