2019年
12月号

音楽のあるまち♬23 扉を開けたら、そこはジャズに 囲まれる非日常の空間

カテゴリ:文化・芸術・音楽, 神戸

扉を開けたら、そこはジャズに囲まれる非日常の空間

ジャズ喫茶 jam jam オーナー 池之上 義人 さん

街角に〝音楽があるまち〟神戸でオープン

―ジャズとの出会いは。
音楽を聴くのは好きだったので、学生時代ブームだったジャズ喫茶へもよく行っていました。ジョン・コルトレーンの『至上の愛』を聴いて「いいなあ」と思い、ラジオのジャズ特集でビル・エバンス・トリオの『エクスプロレイションズ』を聴き、「これは、すごい!」とすぐレコードを買いました。擦り切れるほど聴き、そこからジャズにのめり込みました。

―なぜ、神戸で?
大阪ではある企業の飲食部門を任せられていたのですが、自分の店を持とうと栄町に1987年7月、jam jamをオープンしました。神戸はいい雰囲気でデートに来る街、どこかから音楽が流れてくる街。夕方になるとお店の前でウッドベースやバイオリンを弾いている人がいたり、カントリーミュージックが聞こえてきたり、中でもジャズの印象が強いですね。横浜と並んで海外から音楽がいち早く入ってきたから〝音楽のまち〟と言われていますが、私にとって神戸は街角のあちこちに〝音楽があるまち〟。「ここしかない」と思っていました。

―どんなコンセプトでオープンされたのですか。
窓から外の光が入り、ちょうど今の木馬さんと同じような雰囲気でした。周りには何もなくて夜になると真っ暗な中にjam jamの灯だけが見える。全く外へ音が漏れない造りで、扉を開けて入って来たとたんに非日常が待っている。カウンター周り以外、会話厳禁。お客さんはほぼ全員がスピーカーに向かって集中して音楽を聴く。そういう空間でした。

集中して聴くと〝聞こえない音〟が聞こえてくる

―そして震災、移転に至ったのですね。
ビル自体が酷い状況で退去せざるを得なくなりました。4年間のブランクの後、現在の場所を見つけました。残念ながら外の光は入りませんが、深い階段を下りて行き、扉を開けるとそこは非日常の空間。それは変わりません。近隣からも歓迎していただき、お隣さんからは「壁伝いに聞こえるBGMのようだ」と言っていただきました。いい方たちとの出会いに恵まれ、移転再オープンできました。

―再オープン後も同じ空間づくりを?
基本は同じですが広さが2倍近くあり、会話も楽しみたいお客さんもおられるだろうと、半分を会話OKのスペースにしました。半分は以前と同じく会話厳禁です。

―会話厳禁を貫く理由は。
音楽を単にヘッドフォンで聴いたり、BGMとして聴いたりするのとは違って、レコードから流れる音楽に集中していると〝聞こえない音〟が聞こえてきます。例えば、ベースの弦が擦れる音、ちょっとした話し声、ピアノがミスった音…演奏の現場にいるような、全く違う聴き方ができる。この感覚を体感してほしいという思いです。

―ジャズのどこにお客さんは魅せられるのでしょう。
ジャズにはすごい力があって、背中を押してくれたり、引き留めてくれたり、慰めてくれたり…。アフリカから連れて来られた黒人たちが苦しみの中で細やかな憩いを求め、洗面器を叩いたり、モップを鳴らしたり、土を踏み鳴らしたりするところから始まったのがジャズです。ジャズも生きているのだから年代によって変わってきます。でも一人の人間がルーツを感じながら生きているように、ジャズマンはルーツを求め続けてきた。それがジャズの魅力の一つではないかと思います。

―ルーツは若い人のジャズにも伝わっているのでしょうか。
モードな演奏を聴いても、ルーツから何かを引っ張り出していると強く感じます。たとえ表現の仕方は違っても、今の若いジャズプレーヤーにも伝わっていると思います。

無機質になりがちなまちづくりをジャズが救う

―選曲はどんなふうに?
リアルタイムでお客さんの様子を見てアプローチしながら「こんな曲はどうだ?!」とバトルを挑んでいます。疲れているようならイキイキできる曲、眠そうなら目が覚める曲、お天気が悪くて気が滅入っているときはカラッとできそうな曲などなど。ただし週に1回のマスターズナイトは私が選びたい放題…のはずが客さんの様子が気になってしまって、スタッフに「お客さんの顔色を気にしたらダメです。好きにやってください!」と怒られています。

―選曲を失敗することも?
苦い思い出が1回だけ…満席のお客さんが音楽に集中していて、私も2時間近くにわたって「次は何をかけようか?」と考え続けていたのに遂にその緊張の糸が切れて失敗。針を「置いてしまった」と後悔した時にはもう顔を上げることもできず、お客さんは一人、二人と席を立って行ってしまいました。選曲を間違って流れをプツリと切り、空気感をいきなり変えてしまったんです。

―選曲は大変ですね。流れを変えないように同じような曲を選ぶのですか。
そうとも限らず、時にはクラシックを挟んでみたりします。一回バラバラにして流れを再編成すると、お客さんは「ジャズのアドリブかな」くらいに受け取って、何の違和感もなく流れていきます。これが選曲の醍醐味。試行錯誤して自分で選び自分も楽しむ、いい仕事だと思っています。

―日本人のジャズはどうですか。
正直、昔は「日本人のジャズなんて大したことない」と思っていました。ところが10年ほど前から毎年1回、日本のジャズマンの演奏を集めて「BLOW UP!」を始め、そのすごさを知って驚きました。〝味噌ブルース〟とでもいうのか、聴く人に訴えかけるというのか、インパクトがすごい!すっかり虜になり今さらレコードを集めています。昔は100円ぐらいで売っていたものも高価になっていて…。後悔しています(笑)。

―今の神戸とジャズについて。
神戸ジャズストリートは素晴らしいと思います。全国で同じようなイベントが始まる火付け役になったのではないかな。どこの地域にもジャズが好きな人はいるということでしょうね。昔のように街角からジャズが流れるというのは難しいようですが、楽しみ方はいろいろ。無機質になりがちなまちづくりを、音楽や演奏する人の姿、聴く人の笑顔、幾分のごちゃごちゃ感、そういった有機質なものが救ってくれます。その一つがジャズであってほしいと願っています。



ジャズ喫茶★jamjam

神戸市中央区元町1-7-2 ニューもとビル地下1F
TEL.078-331-0876
12:00〜23:00定休日なし

月刊 神戸っ子は当サイト内またはAmazonでお求めいただけます。

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