12月号
「神戸で落語を楽しむ」シリーズ|番外編|見える黒子 お茶子さんの世界
お話しくださったお茶子さん
中島 泰子 さん
楯川 美穂子 さん
黒沼 祝 さん
噺家さんが演目を終えて舞台を去ると、着物姿の女性が入ってきて、次の演目の準備を、手早く静かに進めます。F1でいうところのピットのような緊張感。そのキリッとした仕事ぶりと着物姿での美しい所作。お茶子さんってどんな人?
─お茶子とは?
中島 寄席で座布団や見台(小型の机)などの道具を運んだり、噺家さんの名ビラをめくったり、舞台を整える女性のこと。上方落語だけの文化です。喜楽館には4名います。
黒沼 江戸落語では前座が担当するので主に男性が受け持っているんですよ。
─お茶子になるためには?
黒沼 まずは着付けができること。自前で着物を用意できること。高座では演者さんが華なので、目立たない色柄を選んでいます。着物が好きな人じゃないと難しいですよね。
中島 それと落語も好きじゃないとね。
楯川 私はこの仕事に就いてから、どんどん好きになっていった感じかな。3人とも喜楽館の近くに住んでいて、人伝てに「やってみませんか」とお声掛け頂いたご縁です。
─座布団はカラフルですね。誰が選ぶの?
楯川 6色あるんですが、噺家さんの着物の色に合わせてお茶子が選びます。噺家さんが、より輝くことを一番に考えています。
中島 それから一週間の出演期間、同じ色ばかりが続かないよう記録しておいて、情報を共有しています。
楯川 青い座布団は近くのお寺からご寄付頂いた物なので出来るだけ使うようにしています。
黒沼 占いを見てラッキーカラーをリクエストされる方やご自分の好きな色をあらかじめ教えてくださる方もいます。桂文福師匠は赤色、とかね。
─目立たないように、とおっしゃいますが、会場全体の視線が一斉に向いてますよね。
中島 そうですよね、緊張感を壊さないように、と常に思っています。
黒沼 長い時間をかけて、研鑽を積んだ噺家さんの大切な御高座ですからね。
─とはいえ、失敗は?
楯川 小さな失敗は時々。この前は、座布団が以前使った時よりふくらんでいて、二つ折りにできない!とか。あせりました(笑)。まだ暖房を入れているわけじゃないのに。どうしてふくらんでいたのか、謎なんですよね。
─落語の好きなところは?
中島 日本の情緒。お酒のシーンはお酒の、田んぼを歩くシーンでは湿った草の、それぞれ匂いがしてくるんです。噺家さんの技です。
楯川 想像力をかきたてられる、日本の文化。同じ演目でも、噺家さんによって印象が違う。その比較もおもしろいところです。
黒沼 短編映画集みたいなところ。それぞれの作家によるショートフィルムが集まって、2時間半の作品になっているような。
楯川 おもしろい例え。でもぴったりな表現だと思う。
─落語初心者へオススメの演目は?
中島 『時うどん』と『動物園』かな。
楯川 『まめだ』は毎回泣いてしまう。『三十石』は演出がおもしろいです。
黒沼 私は、はめものが入るのが好きです。お囃子のことなんですが、これって上方落語だけの楽しみなんですよね。
楯川 江戸との違い、もけっこうあるから、知れば知るほどおもしろいです。
中島 落語を近くで聴くことができ、お手伝いをさせていただける。
喜楽館で働けることをとてもありがたく思っています。
ちょうどお時間でございます。女性の話は尽きることなく…。続きはまた今度。
神戸新開地・喜楽館
TEL.078-576-1218
新開地駅下車徒歩約2分
(新開地商店街本通りアーケード)