2019年
7月号
(実寸タテ19㎝ × ヨコ8㎝)

連載エッセイ/喫茶店の書斎から㊳  『北山冬一郎その後のその後』

カテゴリ:文化人

今村 欣史
書 ・ 六車明峰

興味深い資料の提供を受けた。茨木市の読書人、松岡高氏からである。いつもありがとうございます。
今回は昭和30年代後半から40年代にかけて発行された「太宰治研究」という雑誌のコピー。これに幻の詩人、北山冬一郎の名前が見える。
北山については本誌2010年10月号から5回にわたり書き、さらに2016年10月号にも「北山冬一郎その後」と題して書いた。ところがこのほど新たに資料が出てきて、なんとも気になる詩人である。
北山のことをもう一度簡単に説明しておこう。
わが宮崎翁も戦後の一時期、面倒を見ておられた詩人。終戦直後に出た詩集『祝婚歌』で一時有名になる。いくつかの詩に團伊玖磨が作曲し、歌曲として今も各地のコンサートで歌われている。詐欺まがいや、たかりなど周囲に迷惑をかけ、悪評ばかりが高いのだが、友人だった詩人の別所直樹は、迷惑をかけられながらも「不思議な魅力を持った男なのだ」などと書いている。しかし後には放浪の末、消息不明となり晩年のことはわかっていない。
別所は、その著書『太宰治 失意の遺書』の中で北山とは昭和24年三月に会ったのが最後だったと書いている。その本の発行は昭和49年である。だからわたしは、その後、別所は北山と会うことはなかったと思っていた。もしその後、再会するようなことがあったのなら、そのことはこの本に書かれていて然るべきであろう。
ところが今回提供いただいた資料、「太宰治研究」第二号(昭和37年発行)に書かれている別所直樹による「太宰治ノート2」を読むと、そうではないことが分かった。
《昨年の桜桃忌にぼくは加藤美希雄、北山冬一郎と共に出席した。十年ぶりでぼくの眼前に現れた北山が、どうしても桜桃忌に出たいというので、一緒に行ったのだ。》
驚きました。別所と北山との腐れ縁はまだ切れてはいなかったのだ。そして、この「太宰治研究」には北山も寄稿している。その第一号(昭和37年10月発行)に掲載された詩。北山を研究している人のために全文上げておこう。

  桜桃歌
    〈北山よ、もうかへれ。〉
北山冬一郎

人喰川の水ながれ/音なし川の水ながれ

「北山よ、もうかへれ。」

還るところをもたない私は/ぼんやり水を眺めている/青葉若葉の影の流れるその水を

そのあなたが/水のなかへ還っていった/ひとりの名もない女とともに

サッちゃん/なぜ先生を連れて行ったのだ

お前だけの先生ではなかったのに/サッちゃんあまりにひどすぎやしないか

それにしても/あれから十五年/スタコラ・サッちゃんとともにのんだカストリのやうに、サッちゃんの顔と 舌を焼く味も とほくなった

とほくならないのは/あなたのおもかげだけ

けふふたたび/人喰川の流れに佇てば/降りしきったあの日の雨が/まだありありと耳をつく/私たちの涙のやうなあの日の雨が/私を流し/別所直樹を流し

太宰への哀惜の情がひしひしと伝わる詩である。少なくとも昭和37年には北山はまだ健在だったのだ。
ところで、もうひとつ「あれっ?」と思ったのが、「太宰治研究」第7号に掲載の、北山による「小山清と美少女」と題された文章。いい随想になっていると思うのだが、名前が「北山冬一郎」ではなく「北山棟一郎」となっている。内容から見て、冬一郎の文章に違いない。彼はカストリ雑誌に色んなペンネームで小説を書いていたというが、ここでこの名を使う意味が不明だ。
それと、わたしは「冬一郎」は「ふゆいちろう」と読むものだと思っていた。宮崎翁も「ふゆいちろう」とおっしゃっていた。しかしこの「棟一郎」を見ると「とういちろう」だったのかと思ってしまう。
この幻の詩人は、まだまだわたしを悩ましてくれそうだ。

(実寸タテ19㎝ × ヨコ8㎝)

■六車明峰(むぐるま・めいほう)

一九五五年香川県生まれ。名筆研究会・編集人。「半どんの会」会計。こうべ芸文会員。神戸新聞明石文化教室講師。

■今村欣史(いまむら・きんじ)

一九四三年兵庫県生まれ。兵庫県現代詩協会会員。「半どんの会」会員。著書に『触媒のうた』―宮崎修二朗翁の文学史秘話―(神戸新聞総合出版センター)、『コーヒーカップの耳』(編集工房ノア)ほか。

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