1月号
対談/個性を育む私立中学の教育 第5回 滝川中学校
日能研関西 代表 小松原 健裕
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滝川中学校 高等学校 校長 江本 博明
社会で活躍する力を付ける教育のため、挑戦を続ける
名門私立中学校に多くの塾生を合格させている日能研関西代表の小松原健裕さんと関西名門校トップとの
対談シリーズ第2弾。第5回目は、滝川中学校・高等学校校長の江本博明さんにご登場いただきました。
社会に有為な人材育成を目指して開校された滝川中学
小松原 100年の歴史を持つ滝川中学は、マッチ王と呼ばれた神戸の実業家・瀧川辨三さんによって設立されたのですね。
江本 辨三先生は長府藩出身の士族で、戊辰戦争にも参加されたようです。神戸の地に来られて、マッチの事業を立ち上げます。当時のマッチに粗悪品が多く、日本の価値を下げていました。辨三先生は採算を度外視して品質を維持し、信用を得て最終的に「日本のマッチ王」と呼ばれるようになりました。工場で働く人たちを大切にし、それぞれに事情があるのだからと思いやりを持って接していたそうです。「働きたい人に仕事を与えなさい」「女子の教育もしっかりとやりなさい」と言っておられたのですから、当時からグローバルな視点を持っておられたのでしょうね。
小松原 瀧川辨三さんが設立されたことは知っていましたが、こんな逸話は初めてお聞きしました。
江本 経営が立ちいかなくなった私立中学を引き継ぎ、67歳という高齢になってから初代校長を引き受けられました。社会に有為な人材を育て、豊かな社会をつくるという理念を持っておられたと思いますね。今、世界から見れば日本はレベルダウンし、長年の研究の成果でノーベル賞を受賞していますが、今後はどうなるか…。教育を担う者として、どういう人を育てるのかという責任は大きいですね。
小松原 確かに今の社会は目先のことばかりにとらわれています。グローバルな人材を育てる教育が重要と主張している記事のすぐ次のページが、進学や就職に関するランキングだったりする。子どもの可能性を信じてもっと大きな目標設定をしなくてはいけませんね。先生のお話を聞き、子どもたちや保護者にこのような話をすることも私たちの役目だと改めて感じました。
男子にもコツコツと続ける習慣づけを
小松原 私学の中でも滝川中学はいろいろとユニークな教育を取り入れておられますね。朝の読書や振り返りの時間はどういった目的で?
江本 朝の読書は始業前に自分の気持ちを落ち着かせる時間として取り入れています。感想文コンテストでは、びっくりするほど素晴らしい文章に出会います。振り返り授業は、有為な人間になるにはどうすればいいのか、社会で活躍する人間になるのはどうすればいいのかを考えるうちに、まず1週間の授業に付いていけていない子どもをどうしたらいいのかという課題に直面しました。そこで振り返りの時間を設けようと学年の先生全員で協力し試行してみたところ、子どもたちはとても喜びました。そこで45分授業で始めたところ、男子はなかなか長続きしないんですね。女子ならコツコツと勉強するのでしょうが…。男は〝祭り好き〟だと思いましたね(笑)。今はICTの力を借りて続けています。振り返りを習慣づけることは必要だと思います。
小松原 女子に比べ男子にコツコツと勉強させるのはなかなか難しいですね。一方で、最後にグッと力が伸びるのが男子の楽しみではあるのでしょうね。滝川中高は男子校を貫いていますが、これからもずっと?
江本 〝絶滅危惧種〟などと自虐的に言っているんですが(笑)。時代の流れに逆らい、どこまで貫けるのか…。男子校はとても気持ちをおおらかに持っていられて、いいと思うのですがね…。
小松原 私自身も中高を男子校で過ごしましたが、良さの一つは、周りの目を気にせず個性を伸ばせることですね。ちょっと変わっていても許してもらえるので自分の強みを存分に伸ばすことができると思います。絶滅危惧種などと言わず、ぜひ男子校を貫いてほしいです(笑)。滝川ファイルというのも良い取り組みだと思いますが成果が上がっていますか。
江本 「一日の終わりに必ず5分から10分は反省をしなさい、最後は明日を夢見るんですよ」と指導しています。それを補完しているのが滝川ファイルです。あるクラスでは毎日、担任がコメントを書いて生徒に返すようにしています。これもなかなか長続きしないのですが、きちんと続けた子どもはそれなりの成果が上がっています。
小松原 自分で自分を管理できる子どもはほとんどいません、特に男の子は(笑)。滝川中高6年間でその練習ができるのはいいことですし、後になってから何のためにやっていたのかに気付くこともあるでしょう。すごくいい経験だと思います。
江本 私たちは信じて続けているのですが、そう言っていただけて嬉しいです。ありがとうございます。
世界で活躍する将来を見据え、3カ月の海外留学へ
小松原 おおらかで、とてもいい雰囲気の滝川ですが、やはり大学合格実績も求められますね。
江本 医歯薬系への進学はやはり要望は多く、時代の要請に応え、2015年度中学入試から医進グローバルコースを開設しました。今の時代、世界を視野に入れるのは当然の流れです。中学3年生で3カ月間の海外留学プログラムを履修します。3年目の昨年は、1月から37人コース全員がニュージーランドへ行きました。ホームシック、文化の違いによるトラブルなど、毎日のように問題が発生しました。「もう連れて帰るしかないか」と思った生徒もいましたが、最終的に全員が3カ月間頑張って、元気に帰ってきました。親元を離れ、日頃の感謝の気持ちが湧いてくるのでしょうか、空港に着くとみんな親御さんに「ありがとう」と言います。むこうでは中3生でもゼミで必ず発表しなくてはならず、前日勉強しなくてはいけません。発表できないと周りからばかにされますからね。そんな経験をして、中には「日本の教育はニュージーランドの教育には勝てない」などと感想を言う子もいます(笑)。
小松原 本当にいろいろなことに取り組んでおられますね。挑戦的な学校というところに魅力を感じておられる保護者の方も多く、日能研からは毎年30~40人が進学しています。個性や特技を持った子どもさんには向いていると思っています。将棋の谷川浩司さんをはじめ、スポーツ界でも多くの卒業生が活躍していますからね。
江本 個性を持ったお子さんを受け入れ、その個性を伸ばし、また個性を発揮することを決して邪魔しない、そういう教育をしたいと思っています。そしてさまざまな分野で活躍する人に育ってくれたら嬉しいですね。今後ともよろしくお願いします。
小松原 こちらこそ、私たちも期待しています。
江本 博明(えもと ひろあき)
滝川中学校・高等学校 校長
1974年大阪大学理学部物理学科卒業後、三菱電機(株)勤務。1979年県立学校教員に転職。県教委に入り14年間教育行政に携わる。兵庫県立鳴尾高校及び兵庫高校で校長を歴任し、県立高等学校長協会の会長をつとめた後、2011年4月から現職
小松原 健裕(こまつばら たけひろ)
株式会社 日能研関西 代表
甲陽学院高校、慶応義塾大学と中高大を私学で学ぶ。同大学法学部卒業後、日本IBMに入社。主に金融機関システムの提案に携わる。事業承継のため日能研関西に入社。授業担当科目は算数。京都本部長、副代表を経て、代表に就任。日能研関西本部業務全般に加え、日能研グループとの連携、私学教育の振興にも携わる