1月号
甲南大学同窓会 REBORN 61 ! 「オール甲南の集い」
能楽の楽しみをたくさんの人に
能楽小鼓方大倉流の十六世宗家であり、一昨年、重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定された大倉源次郎さん。子ども向けの能楽体験教室のほか、海外公演等にも多数参加し、日本の伝統文化である能楽の楽しみを世界に伝えています。甲南中学、高校、大学文学部を卒業した大倉さんが、2018年10月21日に甲南学園同窓会で講演会を行いました。終始笑いに包まれた楽しい講演会より内容を抜粋してお話をご紹介します。
小鼓をすぐに楽しむ子どもたち
私は中学から甲南に入学させていただきました。私たちの学年は皆仲の良い、楽しい学年でした。それと上からたくさんの素敵な先輩方が降りてきてくださいました(会場笑)。本当に有意義な学生生活を送らせていただき、今の私があると思っております。中学1年から2年の終わりまで、馬術部に入りました。鼓の革は馬皮でできていますから。なにかご縁があったのでしょうね。
僕は今、子ども向けの能楽体験教室を積極的に行っています。1957年生まれで、学生時分は、日本は欧米化まっしぐら。テニスやサッカー、ロックなどが盛んで、能楽なんて、なんだそれ?という感じでした。大学在学中に、甲南学園の学生会館で大学生向けに能楽の催しをやったんです。そうしたらお客さんは2人か3人! さすがにこれはまずい、と危機感を持ちました。
卒業してからは、体験教室をやらせていただきたいと、いろいろな小、中学校の先生方に申し上げたところ、「能なんか大人でも難しいのに、子どもには無理です!」と言われたことがありました。そんな先生には「能なんか症」と病名をつけました(会場笑)。根っからの関西人ですからこういう笑いをすぐに取り入れたくなりまして(会場笑)。関西で受けるとホッとします。
それで、「能なんか症」みたいな大人にならないように、子どものうちから能楽を楽しんでいただこうと思いました。子どもさんたちは、ピアノは見慣れていますが、小鼓を見せると、これは何ですか、どうやって鳴るんですか、と、びっくりされるんです。そこで、ポンと音を出してみると、すぐに自分たちでも真似をして鳴らそうと、すぐに楽しんでくださいます。子どもさんたちが楽しんでいる姿を見て、先生方は「大人が難しいと思う色眼鏡を子どもに押し付けてはいけないんだ」と、子どもたちにとっては、ミュージカルも能も一緒なんだと、そういうふうに見てくださいまして、道が開けてきました。2002年から学習指導要綱の音楽の時間に、日本の伝統音楽を授業に盛り込む内容が設けられたりしました。教える先生が少ないなど問題はありますが能が教育の現場にも登場しましたので体験を重視した活動をさせていただいています。
甲南がつないだ素敵なご縁
(大倉さん風呂敷に包まれた小鼓を手にする)。皆さんこれは何ですか?小包(こづつ)みといいまして小鼓(こつづみ)とは違います(会場笑)。今日のために私は甲南で勉強してきました(会場笑)。今日は囃子方(はやしかた)と話し方(はなしかた)両方をやっていますが(会場笑)というようにね、少しでも印象付けられるようなことを話しています。能ってあまり難しく考える必要はないんだと、もっと身近に楽しめばいい、と皆さんに感じていただければ良いなと思いまして活動しています。
現在は、東京オリンピックを控えて、インバウンド(訪日外国人)向けの公演をする機会が増えました。先日も東京日本橋にある劇場型レストラン「水戯庵(スイギアン)」で公演を行いました。なんとレストランの中に能舞台があります。「ブルーノート」の日本版ですよ(会場笑)。手がけたのは木村英智様というアートアクアリウムをつくられた方です。
以前から日本人が能楽を知らないことを何とかしようと能楽の支援団体である衆我(しゅうわ)財団の井植由佳子様と以前から活動をさせて頂いているのですが、井植様が木村英智様にお話しくださいました。そのことがきっかけで「水戯庵」ができました。井植様のお父様は、甲南学園創立100周年記念事業募金の募金委員長をされています小林豊様です。このような素敵なご縁に恵まれました。まだまだ能楽が存在する可能性は現代でもあると思っています。
体験することを大切に
催し等において、私が実践しているのが、見て、聞いて、それで安心するのではなく、必ず体験していただくということです。今日はみなさんにさきほど能楽をご覧いただき囃子方も見ていただきました。みなさんは見たり聞いたりして、なんとなく分かったと、勉強できた、と思われているでしょうが、ここでひとつ質問させていただきます。みなさんその場で鼓の持ち方をやってみてください、僕はどっちの手で鼓を持って、どっちの手で打っていましたか? …ね、いざとなったらわからないでしょう。次はぜひみなさんにも体験していただきたいです。
打楽器は、人類が初めて手にした楽器だと言われています。2月はインドで、3月はニューヨークで能楽の講座を開きました。参加者全員に実際の鼓を持って頂くのは無理でしたので打つ真似をする、エアー鼓を体験していただきました。インドの方もノリノリでしたよ(笑)。世界的に見て、鼓のように音色が変化する打楽器は珍しいといわれています。
人間国宝のタイトルをいただき、責任が重くなって逃げ出したい気分というのが本音です。せめて「となりの人間国宝」ぐらいにしていただけたら(会場笑)。というのは、私の子どもの頃の人間国宝の方々は、桁違いに素晴らしかった。やはり僕は半分欧米化した中で育った、中途半端な日本人ですし、ふだんも洋服を着て生活していますしね。僕たちの世代は日本のことをあまり知らないで育ってしまいました。
これからはもっと、日本の良さを学べるような場所をこの甲南学園にも創っていただいて、リアルな日本文化を世界に伝えられる日本人がここから育っていけるような道すじを創っていただけたら嬉しいです。また皆さんも是非それを応援していただけたら幸いと思います。