2019年
1月号
1月号
兵庫県のANDO建築探訪 ① ローズ・ガーデン 神戸市中央区 1977年完成
大阪の下町育ちの私にとって、子どもの頃からずっと、神戸は華やかでまぶしい存在でした。実際、海と山にはさまれた地形ならではの風景、明治の開港以来のモダンな生活感覚など、神戸には“ここにしかない”個性、魅力があります。
北野町は、そんな風光明媚なハイカラ都市を象徴する観光スポットです。青い海を望むなだらかな坂道、エキゾチックな異人館。美しく、歩いて楽しい街ですが、実は今から40年余り前、私が建築の仕事を始めた1970年代の頃は、今からは想像がつかないくらい、町は荒んだ状況でした。ときは高度経済成長期、全国的な建設ラッシュで、異人館も次々取り壊しの憂き目にあっていたのです。
それが一気に逆転したきっかけは、1977年、テレビ小説「風見鶏」の放映でした。神戸の老舗ベーカリー、フロインドリーブ創業者の半生記で、これで一躍北野町が脚光を浴び、今日へとつながるまちづくりの機運が高まったのです。街の運命をも左右する、情報の力とはつくづく恐ろしいものですね。
私が北野町に設計した《ローズ・ガーデン》は、ちょうど「風見鶏」の始まった年に完成しました。街の個性を受け止め、その魅力を引き出す建築にしようと、レンガの壁、異人館風の切妻屋根などをデザインに取り入れました。建物の中は、外の坂道がそのまま引き込まれたような、半屋外の通路が巡る構成です。一つ一つの建築を通じて、街づくりに参加していこうと考えていました。
縁あって、以降十年間、北野町との付き合いは続き、合計八件の建物を山本通界隈につくっています。あれらの建築が、少しでも街が元気になる助けになったのであれば、幸いに思います。
■ローズ・ガーデン
神戸市中央区山本通
2-8-15
建築家
安藤 忠雄