10月号
真面目で笑いも分かる。そんな六甲生にお勧め「投票法」|六甲学院OB会75周年
五百旗頭 薫 さん 東京大学大学院法学政治学研究科教授
「文化祭の準備で帰りが遅くなり、坂道を下りながら見た神戸港の夜景がとてもきれいだった」と六甲時代の思い出を話してくれたのは、49期生(昭和48︲49年生まれ)で東大教授の五百旗頭さん。神戸のまちが好きでその歴史を勉強したことも、今の研究に役立っていることの一つだといいます。この日の「六甲式『投票法』の勧め」と題した五百旗頭先生の講義には、先輩や同期生、在校生、政治家を目指す小学生まで、多くの受講生が集まり、活発な質疑応答も交わされました。
日本の憲法はハイブリッド型
六甲生は基本的に真面目、だけど笑いも分かる。そこで今日は、複雑で多くの弊害も出てきている日本の選挙制度について、そんな六甲生ならどう解決できるかということをお話ししたいと思います。
明治維新から150年、日本の歴史を長い目で見ると、イギリス型の議院内閣制に近づいているといえます。衆院(下院)の多数党が与党内閣をつくり、失敗があれば選挙で負けて政権交代するという、強い統治能力と緊張感を併せてもっています。その間に作られた二つの日本の憲法は異なる性質のものを組み合わせるハイブリッド型といえます。
1889年にドイツモデルでできた大日本帝国憲法には大隈重信の主張でイギリス的な運用も付け加えられています。70条ほどしかない短い憲法で、解釈と運用の余地があります。1920年代には政党内閣制の時代がありイギリス型の議院内閣制に近づいてきますが、これがうまくいかなくなり戦争の時代に入っていきます。
戦後、1946年に慌ててつくった(翌年施行)のが、これも短い日本国憲法です。基本的にはイギリスモデルですが、占領下ですからアメリカの国会の仕組みが取り入れられ、やはりハイブリッド型です。
支持するものは、とことん支持しよう
ハイブリッド型の短い憲法にいろいろな運用のスペックを付けたり外したりして、それなりに時代の要請に応えながら、日本の政治はそれなりにうまくいってきたと思います。ところが、選挙制度に関してだけは日本の政治の良さが出ていないのではないかと…ここは六甲生が解決しなくてはいけない(笑)。
日本は戦前、四つの選挙制度を経験しています。戦後になると柔軟に選挙の仕組みを変えることがあまりなく、終戦直後混乱の中での大選挙区制を経て、その後約50年にわたり中選挙区制が続き、その惰性が強くなかなか変えられない中、1994年、細川護煕内閣の下、ようやく日本国憲法が想定していた政権交代が可能なイギリス型の議院内閣制に近づけようと新しい仕組みを導入しました。一人区と呼ばれる小選挙区制を基本とし、現在まで引き継がれています。
問題は、8党連立の下で行われた結果、小さな政党の声も取り入れなくてはならず、比例代表も加味して複雑な仕組みになっていること。比例代表で多数の政党が生き残るため、小選挙区で野党への票が割れる傾向があります。野党が弱すぎ、与党が緊張感をもてなくなっています。
この状況を打破するために、自分が支持するものはとことん支持しよう。小選挙区で自民党が好きなら比例代表でも自民党、小選挙区で国民民主党が好きなら比例代表でも。枝野さんの福耳が幸せをもたらしてくれると思うなら小選挙区も比例代表も立憲民主党に投票する。そうすれば、今の制度での問題がある程度緩和されます。これが、真面目な六甲生にお勧めしたい投票法です。