10月号
何かに集中する、何かを選択することをした方がいい|神戸をもっと面白く!
金指 光司 さん
株式会社 ポトマック 代表取締役
1995年に神戸を襲った阪神・淡路大震災。当時、株式会社 ポトマックが運営する「トゥーストゥース」は1店舗から再スタートした。震災から20数年をへて、現在では全国に86店舗を展開するまでに成長した。8月には〝スヌーピー〟の世界観を楽しめるデザインホテル「ピーナッツ ホテル」をオープンし、大きな注目をあびた。常にそのアイディアと動向が注目される金指光司さんにお話を伺った。
“モノ”だけでなく“コト”を売る
―8月に北野に、「ピーナッツ ホテル」をオープンされましたが、これはなぜ首都圏でなく神戸だったのでしょう?
それは、神戸を愛しているからです(笑)、神戸でなくてどこでやるんでしょう。縁やタイミングもありますが、東京でやるとたくさんの情報に埋もれてしまい、すると一番になりにくいんです。神戸はその点競争が少ないですから。
あとは、先日オープンされたファミリア本店の例もそうですが、ファミリアという神戸の老舗ブランドが、今の時代にブラッシュアップされたもので、“モノ”だけでなく“コト”を売るというソフトの方向にシフトされています。今の時代、子ども中心のライフスタイルの提案をするっていうのは勇気のいることだと思いますが、そういうビジネスの場が神戸の旧居留地にできるということは神戸にとってもバリューになる。岡崎社長は自身のお膝元で、自分たちが一番したかったことを表現したのでしょうけれども、僕も同じです。
―8月にオープンした「ピーナッツ ホテル」も人気のようですね。
「ピーナッツ ホテル」に関しては世界中から熱心なファンの方が来られますから、原作者のチャールズ・M・シュルツの世界をどれだけ我々が消化して、現代風にフィードバックできるかが勝負だと思いました。スタッフ一同、一部屋一部屋それぞれに愛情をもって創りましたので、すごく時間もかかりましたね。
フロアには「HAPPY」「LOVE」といったテーマがあって、各部屋のタイトルはそこから決めました。そのタイトルにシュルツさんのコミックが描かれていて、部屋の方向性を決めていくんですが、コミックのもっている意味合いなどをみんなでディスカッションしながら創っていきましたから。
―キャラクターありきの空間づくりではなかったそうですね。
スヌーピーなどのキャラクターを前面に押し出すのではなく、お料理や空間もしっかり創り上げてから、そこにキャラクターがいるという、大人が入って楽しい場所ということを心がけました。ホテルやカフェを創る際にはピーナッツの権利元にプレゼンを行いますが、そういったことが評価されてオープンできたのかなと思います。
重要なのは「集中と選択」
―今回「神戸を面白く」ということで、いろいろな方にお話を伺っているのですが。
神戸市など行政は、いろいろ多方面に手を打っていらっしゃいますよね。ウォーターフロント、駅前、あと長田、湊川など…、私ごときが何も言うことはないですが、ただ、多角的にするのも必要ですが、施策の「集中と選択」も必要かなと思います。極端な例で言うと、ハワイは自分たちが観光都市であるということを分かっているから地元の人たちは必然的にやることが分かってくる。自分の町はこういう町ですよ、というのを分かっている町と、分かっていない町では全然違います。一つの企業体としても、そのアイデンティティを社員が分かっているのと分かっていないのとでは、そのパワーが違う。
一時期、神戸市は「デザイン都市」と言っていましたが、一般の方にはちょっと分かりづらかった気がします。一つ分かりやすく、市民を巻き込む何かが必要なんじゃないですかね。
例えば「ケーキの街」というなら世界最強のケーキ都市にすべきだと思います。世界から神戸にパティシエが集まってくるように目的がはっきりしているような。今は何でもある時代ですから、ずば抜けてぶっ飛んだモノも必要かもしれません。だから「集中と選択」が重要です。何かに集中する、何かを選択することをした方がいい。世界に一つだけ、というものを。
これからの飲食店の役割
―ポトマックは、カフェやレストランを中心に、全国で86店舗を展開していますが、今後の挑戦としては何がありますか。
いろいろなプロジェクトが進んでいて、お話しできないものがたくさんありますね。ただ我々は飲食を中心にしたビジネスですが、例えば映画や音楽とコラボレーションしたカフェなどのように、飲食業というのはいろいろなこととの互換性が良いのです。そういったことから、飲食店はいろいろなビジネスのハブになり、コミュニケーションスペースになり、人々の交流の核にもなる。ただそこで飲食をエンジョイするだけでなく、第3のサムシングの誕生を考えた飲食店、そういったものにチャレンジしたいなと考えています。
飲食店は時代によって人々の働き方やライフスタイルを変えてきましたが、次のバージョンとしては、グーグルのオフィスの例のように、オフィス革命というものが起こっています。人々は仕事を家にもって帰ってできるようになった。とすると次は、好きな場所、気持ちの良い場所で仕事をしたいと人々は考えます。そういうところと、飲食店が融合できないか。シェアオフィスがあれば、人と人とのコミュニケーションが生まれてビジネスが広がりますが、ここに飲食が関われば面白いんじゃないか、など。労働生産性が低いといわれている飲食店での働き方も、今まで違う働き方を考えることが必要だとも思います。
―子どもへの教育に興味がおありのようですが、ポトマックさんが保育園を創るならどんなものを考えられますか?
食育でしょうかね、やはり我々は飲食に関わっていますから。僕たち人間を構成しているのは、まず“食”です。神戸市は学校給食を再スタートしてもいいんじゃないですかね。お母さんも働きやすくなるでしょうし、そうしたら我々もぜひ食の部分で関わりたいです。週に一回はケーキの日を作ったり(笑)。
また、人が働く場所として、飲食店は社会性や感性を育む場所としても必要です。飲食と教育との互換性は高いと思いますよ。
金指 光司(かなさし こうじ)
1963年、神戸市生まれ。1986年、神戸・元町のトアウエストに「トゥーストゥース」を創業。人々の欲求と好奇心をくすぐる感覚で、時代の半歩先を見据え、一つのブランドに固執せず、多彩なカフェ・レストランブランドを誕生させた。神戸・大阪・首都圏に86店舗を構える。今年8月にはスヌーピーの世界観をテーマにした「ピーナッツ ホテル」をオープンさせた