2013年
3月号
寿志城助 中山 城助さん × 歯学博士 横手 優介さん

シリーズ神戸の匠 第1回 勝負あり!鮨界の三四郎

カテゴリ:グルメ,

「美味しい寿司屋がある」と紹介され、初めて「寿志 城助」を訪れた横手先生。第一印象は「無愛想やなあ…」。ところが一口食べて、すっかり城助の寿司の虜に! 今では、お互いに気を遣うこともない良い関係に。2月19日、城助さんが思いの全てをかけた新店舗がオープン。お披露目を兼ねて話し合っていただいた。

共通点は「職人」「美味しいもの」

横手 2人の共通点は?と考えてみると、まず〝職人〟であること。お客さまは職人の技に大きな期待を持って来られますから、普通にいいものを出すだけでは「こんなもんか」と思われてしまいます。ですから私たち職人は、期待以上のものを出さなくてはならないんです。「城助のお寿司が食べたい」「先生の治療を受けたい」とたくさんの人に思ってもらい、やっと予約が取れて初めて来られた時の感動は相当なものです。それに応えるのはとても難しい。期待を裏切ってしまったら職人はおしまいです。
もう一つは、彼は淡路島出身、私は小豆島出身。美味しいものを知っていることです。
城助 確かに子供のころに食べた美味しいものは、舌が味を覚えています。だからこそ、子供の時から美味しいものを食べることが一番大切。一定レベル以上のものを毎日食べていれば、本当に美味しいものが分かります。

想像とは全く違う城助の寿司

横手 城助の寿司は一口食べたら分かります。普通のお寿司屋さんを想像していたら、ちょっと違う、いや全然違う?
城助 寿司は温かい食べ物です。なので温度が一度重要です。米酢と赤酢を2種類ブレンドし、砂糖は一切使わず塩だけを混ぜます。米は、その年の出来具合によってブレンドを変えたオリジナルのものを使う分だけ精米してもらいます。温度、湿度に応じて春夏秋冬シャリの味も変えています。ほんのり温かいシャリと、お客さまにお出しするタイミングで一番美味しい温度にしたネタでにぎり、それぞれに合ったタレをつけてお出ししますから、お客さまが手に取って醤油をつけるということはありません。
横手 それをすぐに口に運んだ瞬間、感動しますよ。
城助 にぎって出した時が一番美味しい瞬間です。お客さまが話に夢中になって、お出しした寿司のシャリは冷めネタは乾き…、そんな時は悲しいですね。寿司を食べにうちに来ていただいているお客さまはたとえ喋っていても寿司が出てきたらすぐに食べます。本当に寿司が好きなお客さまに対してはいい仕事をしようという気持ちになります。横手先生の場合は、食べ方を見ているだけでだいたい分かりますから、タイミングを見計らってお出ししています。
横手 そのタイミングは絶妙です。私は日本酒を飲みますが、それもおまかせ。いい気持ちになって帰らせてもらいます。ネタはひと手間かかっているものが多いですね。
城助 握るネタは生の魚よりも、昆布で〆たり、酢で〆たり、締・煮・炙・燻という仕事を施したものが多いです。魚を仕入れているのが、これまた職人のような魚屋で、明石の魚にこだわり、それ以外には目もくれず、100点満点の魚があれば、何が何でもセリ落とし、まずはうちに納品してくれます。その魚が新鮮なうちに食べるのが良いかといえば、そうでもなく、食べ頃が次の日なのか、3日後なのか…それは魚次第です。100点満点のものが仕入れられなかったら出さないし、仕入れても納得できなければ出さないものもたくさんあります。
横手 2人のもう一つの共通点は頑固! 頑固でなくてはあんなにいい寿司は作れませんからね。私も歯科技工士さんが一晩かけて作ってきたものでも、納得できるいいものでなければ捨ててしまうこともあるほど頑固ですから。一つ違いがあるのは、寿司はお腹の中に入ってしまえば形が残らない。私の場合は、形に残るものを作っているから凄いプレッシャー。私のほうがちょっとだけ偉いな(笑)。
城助 はいはい、年もずっと上で大先輩ですから(笑)。確かに食べものは形としては残りませんね。
横手 いえいえ、冗談ですよ。「美味しいもの食べて良かったなあ」という幸せな気持ちが残ります。

〝城助イズム〟満載の新店舗

横手 城助らしいお店ができましたね。どんどん自慢して下さい!
城助 ありがとうございます。自慢はいくつもありますが、一つは、樹齢350年の檜で造ったカウンターです。節がなく真っ直ぐ11メートルの一枚板を8メートルにカットし、残りはまな板などに使っています。壁は金閣寺の茶室も手掛けた名人、淡路の左官職人の仕事です。庭やつくばい、足元はこちらも名人庭師の仕事です。カウンターに椅子が8客のみで、お客さま一人分の幅を1メートル取っています。飲食店の標準がだいたい60センチと言われていますから、かなりゆったりと余裕を持っていただけます。
横手 場所もいいですね。
城助 お客さまが坂道を上って来るワクワク感から「寿志 城助」が始まっています。理想を言えば、米がとれる丹波や篠山などの山の中でやりたかったんですが…。
横手 〝城助イズム〟は既に神戸の皆に大きな期待をさせてしまっていますから、これからが勝負。私も開業して16年たちましたが、患者さんと私とスタッフ、この3者の良い関係が大切なことがようやく分かってきました。従業員を育てることが次の課題ですね。
城助 ぼくは基本的に人を募集する気はなく、向こうからやって来るのを待っています。募集に応じて来る人には教える気にはならないでしょうね。求人誌に掲載することもしませんし、ホームページを作ることもしていません。〝安っぽく〟なってしまいます。
横手 私もホームページは10年ほど前にやめました。理由は同じく〝安っぽく〟なってしまうから。アナログに向かって時代と逆行しています。これも共通点ですね。人材は育てていますが、私の元からどんどん巣立て行ってくれればそれでいいと思っています。
私たちの仕事は職人技であると同時にサービス業ですから、お互い感謝の気持ちを一番大切にしたいですね。
城助 はい。横手先生をはじめ、美味しい寿司を食べたいと思って来ていただくお客さまに恵まれていることはありがたいことです。

寿志城助 中山 城助さん × 歯学博士 横手 優介さん


100点満点の旬の魚しか握らない


カウンター、まな板には樹齢350年の檜を使用。節目が一つもない奇跡のような無垢材


玄関口に設けられた手水鉢


横手さんのゴルフ仲間・小岸秀行さん(ツアーキャディー/左端)、リチャード・テイトさん(プロゴルファー/左から2人目)と共に


金閣寺の壁面を手がけた日本を代表する左官職人による



寿志 城助

神戸市中央区北野町
2-1-10
電話078-272-1001

月刊 神戸っ子は当サイト内またはAmazonでお求めいただけます。

  • 電気で駆けぬける、クーペ・スタイルのSUW|Kobe BMW
  • フランク・ロイド・ライトの建築思想を現代の住まいに|ORGANIC HOUSE