2013年
3月号
兵庫区に本社を置く兵神装備㈱。全国の下水道処理場のポンプのシェアはほぼ100パーセントを占める

モーノポンプで 開花

カテゴリ:経済人

兵神装備株式会社
代表取締役社長 小野純夫さん

フランスのR.モーノ博士の発明に基づいて作られている「モーノポンプ」は、私たちには見えないところで大活躍している優れもの。半世紀近くにわたり研究・開発、製造を続けているのが神戸に本社を置く「兵神装備」だ。時代のニーズに応じてどんどん進化し、活躍の場を広げている。

―モーノポンプに特化して業績を伸ばしていますが、そもそもの経緯とは。
小野 船で重油を清浄機に通す際に除去されるドロドロとした状態のスラッジを送るポンプとして船会社に納入したのが始まりです。父が会社を立ち上げて間もない昭和46年頃から売れ始め、海洋汚染防止法の追い風もあって好調な売り上げで会社の基盤を築きました。現在では、特に高粘度・高濃度な液体や、固形含有物のある液体、中間体、粉体を移送するだけでなく、計量・比例注入、塗布・充填など様々な場面で使われています。
―どういった業界で使われていますか。
小野 約2割が食品業界です。例えば、海産物のメカブやもずくをはじめ、ヨーグルト、チーズ、バターなどを一定計量して充填するような場合に使われています。同じく約2割が自動車業界で主に接着剤塗布のために使われています。
―一定量の接着剤を絞り出せるのですか。
小野 塗布する場合、一定に接着剤を絞り出したのでは、塗布機械の動き始めとその後のスピード差、また塗布する物の形状などの影響で一定には塗れません。ゆっくり動き出した時には控えめに絞り出し、一定のスピードになったらそれなりに、直角に曲がる時にはまた量を減らすなど、微妙なコントロールができます。
―粉体の移送も可能にしましたね。
小野 あらゆるものづくりの過程で粉体は材料としてよく使われます。モーノポンプは小麦粉から、消石灰や炭酸カルシウムまで、飛び散らないように移送や注入をするために使われています。
―下水処理場のポンプのシェアは国内100%ですか。
小野 創業当初は、「スクリューポンプ」と呼ばれたこのタイプのポンプを扱う大手メーカーが国内に数社存在しましたが、次々に供給を中止し、今では弊社だけになりました。ただし海外から入っているものや違うタイプのポンプもあるかもしれませんから、100%とは言い切れません。
―上水道のポンプにも使われてますか。
小野 そうですね。上水道といっても、日本の水道水は飲み水として高品質を維持しているので浄水場は巨大な食品工場といっていいものだと思います。弊社のポンプはここに薬液を注入しています。
―小さな電子部品にも対応しているそうですね。
小野 パソコン、スマホ、テレビ、電子レンジなどの電子製品の製造でも使われています。例えばスマホに接着剤を塗布する場合、自動車で使うものの10分の1くらいの量ですから、従来のディスペンサーより大幅に小型化した「マイクロディスペンサー」を使います。
また世界に誇る薄型フラットパネルの場合は、薄膜を幾層にも塗工する機械とそこに塗工液を定量移送するヘイシンモーノポンプを使って、電機メーカーが製造しています。
―そういった技術開発が、グッドデザイン賞を受賞した滋賀工場で行われているのですね。
小野 そうです。機械工場の組み立てルームがグッドデザイン賞を受賞するのは他には例を見ないことだと思います。
―ご自慢の滋賀工場をご紹介下さい。
小野 滋賀県長浜市にあり冬はとても寒いのですが、工場は大きな空間なので十分な空調ができていませんでした。そこで従業員が「整理・整頓・清掃・清潔・しつけ」という5S活動に取り組み、作業スペースの縮小を達成しました。その成果としてコンパクトなガラス張りの組み立てスペースを工場内に造り空調を可能にしました。ここ十年来、太陽光発電をはじめ省エネにも取り組んでいますので、空調も井戸水を使うことでエアコンの約半分のエネルギーでまかなえるようになりました。それを含めた結果がグッドデザイン賞受賞です。従業員の努力の賜物です。
―製品もグッドデザイン賞を受賞していますね。
小野 「ヘイシンロボディスペンサーND型」で2004年に受賞しました。年間約1000件が選ばれますが、その中から更に選ばれて中小企業庁長官特別賞を受賞しました。授賞式では、予め選ばれた候補7社の担当者がプレゼンし、出席した約1000社が投票して大賞を選びます。密室では決めないこのシステム自体が「グッドデザインだ!」と感心しました。
―ほかにも色々と受賞されていますね。
小野 ポンプの運転試験条件を一定に保つため、一年中15~25度を保ち温度変化に影響されないスペースを造るにあたって、「ゼロエネルギーで達成する」という野望を持ちました。東北でゼロエネルギーの家を実現している東大名誉教授の話を聞き、早速訪ねました。コンクリートで蓄熱しているんです。その理論を勉強して、デザイン性をプラスして目標をほぼ達成しました。外側の二重ガラスには和紙を挟み込みました。内部の照明を灯すと、建物が行燈のように浮かび上がり、審査員から「それがいい!」と評価され予想外に照明賞を受賞してしまい…、これは偶然、いや従業員の残業の副産物ですね(笑)。
―何故、そこまで色々と挑戦するのですか。
小野 会社は生産活動が第一ですが、常に「社会や環境に優しく」を目指しています。この理念が従業員にも伝わって同じような行動を取り、それが誇りにもつながり、心の健康にもつながると思っています。
―これから力を入れていく分野は。
小野 液体を液体で包む技術です。アンコをくずで包んだくず饅頭のようなものを想像していただくと分かりやすいと思います。胃の中に入ってから周りが溶けていく薬も同じ構造です。今のところ食品業界での需要が多いですね。
また、微少液を塗布・充填できるマイクロディスペンサーをさらにコンパクトにしてナノサイズに適応できるものを国の補助を受けて東北大学と共同で開発中です。
―モーノポンプは先端医療の分野でも役立ちそうな技術ですね。
小野 京都大学名誉教授と共同で人工心臓の研究を進めていますが、液体の中でも血液はすぐに固まってしまうので移送がとても難しく、まだまだ時間がかかりそうです。
―今後、経営面で目指すところは。
小野 業界にはそれぞれ特色があります。食品業界では新製品が出たら新しい設備が必要になりますが、売れなければ増設やメンテナンスも必要なくなります。自動車業界は減産になれば一気に売り上げは落ち、メジャーチェンジがあれば設備も増設されます。造れば必ず常時使われる上下水道施設は安定しています…等々。どこかに頼ることなく万遍なく商売をすることです。そして社会の変化に応じ、新たに生まれる需要を掴むことです。
―これからも本社は神戸に。
小野 研究・開発、製造は長浜が中心ですが、創業の地神戸には愛着があります。従業員も神戸本社に誇りを持っていますから、移転するつもりはありません。

はちみつ、いくら、化粧クリーム、薬剤液など、あらゆる 液体の移送にヘイシンモーノポンプの技術が生かされている


兵庫区に本社を置く兵神装備㈱。全国の下水道処理場のポンプのシェアはほぼ100パーセントを占める


イラストのようにステーターの中にあるローターが回転すると、その隙間「キャビティ」と呼ばれる密閉空間が形成される。ローターがステーター内を回転することにより、キャビティ内に充満した液体は、密閉された空間のまま連続移送されていく。
これがモーノポンプの構造になる。フランスのモーノ博士が発明した。


毎年約1000件が、グッドデザイン賞を受賞するが、平成16年、その中から、数社だけに贈られる中小企業庁長官特別賞を受賞


電力などのエネルギー効率に配慮した製品組立工場内作業ルームがグッドデザイン賞を受賞した。製品そのものではなく、工場が受賞することは希である


小野 純夫(おの すみお)

1950年生まれ。1975年に青山学院大学経営学部を卒業し、同年兵神装備に入社。1994年代表取締役社長に就任。現在、(社)日本舶用工業会 評議員、神戸舶用工業会 副会長、(社)兵庫納税協会副会長。

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