4月号
フランク・ロイド・ライトの理念を今に受け継ぐ「自然と調和する」邸宅 ー 平尾工務店
明らかに違う、その存在感
神戸市東灘区の住宅展示場。たくさんの「住宅」が並ぶ中で一軒、目を惹く「建築」がある。
水平のラインのフォルム。重厚なレンガ積みの壁。幾何学的な装飾のドア。その存在感に、はたと一人の建築家の名が頭をよぎる人も多いかもしれない。
「フランク・ロイド・ライト」
言わずと知れた近代建築の巨匠。旧帝国ホテル本館、旧山邑邸、自由学園明日館など国内にも作品を残している彼は、浮世絵のコレクターとしても有名で、日本にもたびたび訪れている。
彼が提唱した建築思想、「有機的建築」。ライトの愛弟子、ジョン・ラッタンバリーをはじめとした建築家によりその正統的な系譜を受け継ぐこの家は、ライトのこんな言葉をそのまま体現していると言っても過言ではない。「有機的建築とは、外からあてがわれた形態に合わせて造られるようなものではない。その建築が必要とするすべての要素が調和し、内から外へと発展していく建築である」。
内から外へ、広がる空間
外から見ると中の様子を窺いにくく、プライバシーはしっかり保たれているが、不思議なことに一歩中に入れば開放感が素晴らしい。LDKのレンガの壁は、そのまま外壁へと続いている。大きな窓の上下には余白のような壁がなく、しかも床面と同じレベルのウッドデッキが外へ向けて広がっている。内外の境目を意識しなくなるから、庭の樹に咲く花も、梢にとまる小鳥も、まるでインテリアのようだ。
部屋と部屋の明確な壁がなく、日本の古民家のように仕切りを開ければひとつの空間に、さらに外の空間と一体になる。しかし、決して平面的に感じないのは、上下空間の抑揚のためだ。廊下はやや天井が低く、各スペースに入ると空間の上下の広がりを感じられるよう、キッチンも含めすべて優雅な織り上げ天井になっている。
ひとつの大空間という構成は動線面でも機能的なだけでなく、家族の自然なコミュニケーションを育くむだろう。
デザインと哲学を支える品質
備え付けのベンチソファやステンドグラスの窓、階段の手すりなど、機能性の面からも生活に寄り添う何気ない意匠にもライトのテイストや哲学が。光もまたデザインされていて、昼はあふれる光を取り込み、夜は落ち着いた間接照明で、人間の生体リズムにフィットする。
上質は、見えるところばかりではない。デザインを支える建物そのものは、ライトも羨むようなクオリティだ。構造材は、木を大切にしてきた平尾工務店こだわりの国産材木。紀州材木の老舗、山長商店の無垢材は年輪幅が細やかで強く、独自の乾燥技術で狂いが少ない。しかも計画的な植林によって環境保全にも役立っている。味わいのある壁はドイツ漆喰を使用、職人が丁寧に仕上げている。煉瓦ももとは土や石。自然に還る素材は健康的で、まさに「有機的(オーガニック)」そのものだ。
時を超える邸宅は、住むほどに愛着が湧くだろう。ぜひその品質を体感してほしい。
人と自然に寄り添う住まいづくり
建物は「人に仕えることが最大の使命である」と、フランク・ロイド・ライトは述べています。床・壁・天井の素材や寸法、家族のコミュニケーションを最重要に考えた間取りや配置は、まさしくその“人に仕える”という考えを表しています。
また、ライトは自分の建築を「有機的」という言葉で表現しています。「時間」「場所」「人」に適切な建築と定義されるのが「有機的建築」。人と自然の関わりだけでなく、人と住まい・人と人・人と社会、といった「繋がり=有機的(オーガニック)」こそ、人の繋がりを感じられる住まいづくりの根本だと考えています。
人間の体にいい素材、自然に寄り添うというライトの思想を受け継いだ “オーガニックハウス”は、時代を超えて愛され続ける家となると思います。
平尾 博之さん
平尾工務店 代表取締役
神戸大学 工学部建築学科卒