06.12

WEB版 エンタメ情報|
喜怒哀楽が味わえる。
人のおもしろさは落語のおもしろさ
落語家 柳家三三さん
江戸の落語家でありながら、東西問わずファンが多い柳家三三さん。今年も全国7都市を巡る独演会 『~笑いあり、涙あり 三三の落語玉手箱~』がスタートした。ナレッジシアター(グランフロント大阪)での公演を前に話を聞いた。
Q.師匠は人間国宝の十代目柳家小三治さん。
似ていると感じるところはありますか?
夢中になって寄席に通い始めたのは中学1年。中学2年で初めて就活して、師匠に断られました。小三治の噺が好きでこの世界に入りたかったので、ずいぶん長い期間、師匠を見てはいますね。
師匠と同じように噺をしたかったのですが、すぐに「柳家小三治にはなれない」とわかった。噺は似ていないですが、近くにいたので、物事の価値観、判断基準なんかは、影響を受けていると思います。知らずに、師匠ならどうするだろうかと考えてることはあります。小三治も自分の師匠である五代目小さんについてそんな話をしたことがありましたよ。
Q.三三さんをこの世界に引き込んだ演目とは?
『文違い』です。これは廓話と言われる女郎屋の話で、小学生だった僕には知らない世界の話です。女があちこちで男を騙して金を貢がせて、女は好きな男に貢ぐんだけど、実は女も騙されていて…。廓がどんな場所で、女郎買いって何をするのかなんてことはわからないけど、見ていて「人の気持ちのおもしろさ」はよくわかったんですね。
Q.その時に感じたおもしろさが落語への道に?
落語は笑えます。でもそれだけではない。喜怒哀楽、それぞれの感情を味わうことができます。人のおもしろさって、そういうところにあると思うんです。小学生にも伝わったんですね。
Q.昼公演の演目は、吉原遊廓を舞台とした『お直し』ですね。
女郎屋の中でも最底辺の話です。
貧乏のどん底にいる夫婦。客をとり客に媚びる妻、仕事上それを聞いていなくちゃいけない夫は嫉妬する。2人は悲惨なんだけど、それでも深刻な顔ばかりもしていない。笑っちゃう部分もあって、僕はそこがおもしろくてしょうがない。
見どころ、聞きどころっていうことではないですよ。お客さんがどう感じるかまでは僕は考えていないし、意識はしていません。聴く人によって想像しているものも感じるものも違いますから。
僕が「楽しませよう」なんて意識をしなくても、無理に笑えるよう演じなくても聴いていたらおもしろいんです、落語って。
Q.廓話って多いんですね。
そうですね。廓ばなしは好きです。『明烏』『三枚起請』『錦の袈裟』『幾代餅』。持ちネタも多い。
特殊な状況です。閉じられた空間に大勢の大人が集まっている。吉原という狭い場所での出来事を凝縮している。吉原はもう存在しない世界だけど、現代の人も変わらず持ち得る感情ではあります。
Q.夜の部は『髪結新三』。
歌舞伎でお馴染みですが元々は落語。江戸時代に実際に起こった事件を題材にしています。忠臣蔵もそうですけど、実際にあったことが芝居になる、落語になるなんてことはよくあることです。
この噺は、珍しく本物の悪党が出てくる。落語って悪いことをする人はいても、知らないうちにやっちゃうとか、この状況なら仕方がないか、っていう悪さだったりします。泥棒もよく出ますけど、不思議ですね、泥棒自身に「悪いこと」をしている意識がない。
泥棒が家を出るときに「鍵閉めてけよ」「なんでだい?」「泥棒が入るだろ」なんて言っちゃうんですから。
Q.大阪では珍しい演目では?
東京でもあまり演らないですね。珍しいですよ。僕も何年振りかな。決してラクな演目ではないんですけれど、今年は「やりたいな」って思ったんです。
Q.タイトルどおり『玉手箱』ですね。
そうです、色々「おもしろいもの」を詰め込んでいます。
落語は再現する芸能なので、落語好きは演る前から話の先を知ってるんですよね。でも登場人物は、僕が演じることで、そこで初めて生きるんです。場所もお客さんも違えば、僕の噺も違ってきます。まったく同じ「間」、同じ声色、なんてありえない。
だからぜひ生の落語を聴きにきてください。
僕も一緒に楽しみたいと思っています。
text. 田中奈都子
【公演情報】
柳家三三 独演会
『~笑いあり、涙あり 三三の落語玉手箱~』
日時:6月14日(土)12:00 /16:00
会場: ナレッジシアター(グランフロント大阪 北館4F)
詳しくはこちら https://kyodo-osaka.co.jp/search/detail/10036