7月号
出会いと学びの旅から Vol.07
いのちの声を聴くクライシス・クリニック
1963年に12歳になる少女が突然一人の男にナイフで刺傷される事件が起こったのをきっかけに、電話による緊急相談に対応するクライシス・クリニックが1964年にシアトル市に開設されました。同年「ライフ」誌で紹介されるとパラマウント映画社が開設をモデルにして映画化したのを機にアメリカの各都市に次々と同種類のクリニックが生まれることになりました。このクリニックを訪問すると、二人の相談員が電話の前に座っていました。相談は年中無休で、昼夜を問わず相談を受けていました。夜と週末はワシントン大学の社会福祉専攻の学生が交替で応対に当たるようでした。相談の内容は、自殺未遂、夫婦関係の破綻、麻薬、ギャンブル、暴力、失業、子どもの問題など、絶望、不安、恐怖、孤独などから助けを求めて架かってきますが、いたずら電話は殆ど無いといいます。相談員は2ヶ月間訓練を受け、講義の他に実習では電話での応対の仕方から記録の取り方、地域の社会資源の活用の仕方、具体例のディスカッションなど多面的な学びが求められます。クリニックはあくまで応急処置であり、相談内容によっては他機関や専門家に繋いで解決を図ります。事務所の壁には協力機関の住所、電話番号が一目でわかるように一覧表にして掲げられていました。おもしろいのはいろんな薬の大きさや色がわかるように紙に貼り付けられていることでした。ドラッグによる自殺や中毒が少なからずあるのだと感じました。自殺念慮も多く、サンフランシスコやロスアンゼルスの電話相談は「自殺予防センター」という、より直截な名称をつけています。帰国して調べてみると、その頃はまだ電話による緊急の相談ができる活動は少なく、東京でキリスト教各派が協力し、「いのちの電話センター」が1971年に開設されており、現在では「いのちの電話」が全国50ヵ所で開設されています(2022年現在)。
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