5月号
プロスポーツチームが横につながり 地域に貢献し健全なアスリート育成をサポート
右:楽天ヴィッセル神戸株式会社 取締役副会長
三木谷 研一さん
左:株式会社アシックス 取締役会長
尾山 基さん
昨年の東京五輪に続き、今年は冬の北京五輪で日本中が盛り上がった。神戸では「神戸アリーナ」の2024年オープンを前に期待が高まっている。一方、アスリートの低年齢化の弊害も言われている。これからのスポーツのあるべき姿について、尾山基さんと三木谷研一さんに話し合っていただいた。
五輪で印象に残った日本選手の活躍
尾山 冬の北京五輪では、フィギュアスケートの坂本花織選手の銅メダルが印象に残りました。兵庫県にはスケートの長い歴史があります。平松純子さんは子どものころ、六甲山の凍った池で滑っていたそうです。ところが今、神戸には常設のスケートリンクがない。三木谷さんのところで作ってもらえないかなあ…。
三木谷 いや、それは(笑)。冬の五輪では女子アイスホッケーやカーリングもよく頑張っていましたね。
尾山 スピードスケートでは高木菜那・美帆姉妹をはじめ、日本チームのオランダ人コーチのヨハン・デビッド氏の指導の成果が出ましたね。実は2013年に橋本聖子さんから相談を受け、オランダ人コーチの採用を強く推薦しました。結果につながって良かったと思っています。
三木谷 夏の東京五輪では柔道の大野翔平選手ですね。〝日本の柔道〟を見せてくれました。
尾山 柔道男子はロンドン五輪では金メダルを取れなかったこともありましたが、東京五輪では多くの柔道選手のメダル獲得で、日本チームが波にのりましたね。
三木谷 阿部一二三・詩兄妹も強かった。水泳の池江璃花子選手は病気を克服して這い上がってきた。すごいなあと思いました。
低年齢から一つの競技に集中する必要はない
尾山 概ね25歳から40歳のミレニアル世代と、それ以下のZ世代ではスポーツに対する思考に違いがあると思います。例えば、30代後半を超えてくるとランニングもフルに走ろうとしますが、ミレニアル以下の若い世代は楽しんで走ろうとします。スケートボードやスノーボード、サッカーではもっと若い選手が活躍しています。大きな影響力を持っていてスポーツ促進という意味でもとてもいいことです。一方、身体に対する影響は考える必要はあります。1980年代後半、私がアメリカにいた当時、18歳以下でバスケットのような激しい運動はさせないという規制があり、私自身がバスケをやっていたので印象に残っています。最新のデータではありませんが、日本人女性の場合、身体の発育形態は16~17歳ぐらい、男性はその1年後ぐらいに出来上がるといわれ、それ以前に体操やフィギュアスケートなどに集中していいのか?という疑問を私は持っています。
三木谷 そう思いますね。サッカーの場合は足を使いますから若くないと神経が発達しないといわれ、今は幼稚園児から始めます。例えばアメリカではシーズンによって所属するクラブを変え、バスケやサッカーをやっていても、冬になるとスキーやアイスホッケーをやるというように、一つの競技に集中はしません。
尾山 私もアメリカのやり方は大賛成です。「この道一筋」だと、どこか鍛えられない部分があるはず。なぜ、日本では取り入れないのかな?
三木谷 日本はやはり一つの道を追求する国民性なのでしょうね。
成長期に大切なことは適切な食事とコーチング
尾山 スポーツでは体力、精神力、反発力、反射力、企画力、チーム力が培われますから、子どものころからチームに参加して運動をするのはとても良いことです。
三木谷 人間は誰でも闘争本能を持っています。平和的に戦うのがスポーツ。ルールを守ることは大切です。食事も重要ですね。人の3倍は食べなくては足りなくて、それが普通になってしまう(笑)。
尾山 一般的に運動をしている中高生は家庭で親御さんなどが作るご飯を食べていますからね。私も肉が一番いいと思っていたので、専門家から「野菜も大切です!」と言われて驚いたことがあります。
三木谷 成長期には運動後30分以内に食事を摂るのが良いといわれています。部活が終わって家に帰ってからではちょっと遅いですね。
尾山 30分以内ですか!食事と運動に関する知見が私たちには不足していますね。そして、子どもたちには良いコーチが実際に〝生〟で教えてあげることが必要じゃないかな。10年以上前ですが、東京でジャイアンツアカデミーを開設した際に子どもたちは来るけれどコーチが足りない。そこで、コーチングスクールを併設したという話をお聞きしました。学校体育も含めてコーチングする人材が足りず、ミスマッチで才能をいかせなかった子どもが多いのではないでしょうか。適切な食事と同じように、適切なコーチングができる人材は大切です。ヴィッセル神戸アカデミーを創設するとお聞きしたとき、すばらしいと思いました。神戸という大都会で子どもたちがハイレベルなクラブに入り、一流のコーチから指導を受けられる。裾野を広げて高いレベルを目指し、同時にコーチングのレベルもぜひ高めていってください。
三木谷 アカデミーでのコーチングは、低学年でチームワークを大切にしてサッカーを楽しみ、中学生ごろから技術指導を取り入れ、高校生になると個性を伸ばす方向へともっていきます。優秀なコーチにも恵まれ、サッカースクールの林佳祐さんのように、元プロサッカー選手でオーストラリアの大学でスポーツビジネス系の勉強をしてから日本に戻りコーチに就いてくれている人材もいます。
尾山 それは時代の最先端ですね。ある年齢に達してからでも大学や大学院で学び直すための門戸が広く開かれています。勉強をし直してからコーチングに戻って来てくれるというのはすばらしい。そういったケースがもっと増えてくれたらいいと思います。
三木谷 選手たちも優秀なのですが、時代の変化でしょうか?最近はおとなしい優等生が多く平均化されているようです。いいことなのですが…。
尾山 スポーツでもそう感じますか。私も新入社員を見て思います。もっとやんちゃなところがあってもいいのに…。学校教育で、ディベートや自分の意見とは違う立場で意見を述べるロジカルな教育があまり行われていないような気がします。ちょっと危惧するところです。
神戸アリーナオープン県内チームが横につながろう
尾山 神戸は大阪から見ても、岡山や広島など西から見ても非常に良いポジションにあり、魅力ある街なのですが、建物やインフラではやはり95年の震災で全国から後れを取ってしまいました。そしてやっと2024年、神戸の街にも大規模なアリーナ「神戸アリーナ」がオープンします。立地は神戸を象徴するウォーターフロントです。スポーツ、大規模コンサート、コンベンション会場としてマイス利用など、さまざまな活用に期待がかかるのはもちろん、最新の設計計画を見てみると、テラスで食事ができて、先端部分が公園になっていて回遊性があり、夜はライティングされて美しい景観をつくります。近隣に水族館「アトア」があり、東遊園地には「こども本の森 神戸」もできました。人の流れが大きく変わるでしょうね。
「神戸を含む広域で横の連携を取れないか」という提案を西宮ストークスの親会社であるスマートバリューの渋谷社長から頂きました。ヴィッセル神戸さんにお話ししたところ快諾を頂きました。コロナ禍でまだ面談はできていませんが、これから西宮のJTマーヴェラス、阪神タイガース、久光スプリングス、ヴィクトリーナ姫路などに声をかけさせていただき、まず地域貢献、チケットの相互乗り入れ、子ども教室実施など、できることを話し合っていけたらいいのではないか?コロナで観客収入、鉄道収入が激減している中、ばらばらに動いている県内のスポーツ界がまとまれば増益にも貢献できるのではないか?今、私が勝手にですが構想を描いています。
三木谷 私たちもできる限りの協力をさせていただき、横のつながりを作っていきたいと思っています。