2月号
兵庫県医師会の「みんなの医療社会学」 第128回
第14回尼崎市民医療フォーラム
「100歳時代の生き方、死に方 part3」
~地域みんなの力で新型コロナに立ち向かえ~について
─恒例の尼崎市民医療フォーラムですが、昨年は開催されたようですね。
山本 オンライン配信という形で開催しました。2019年まで毎年開催し、多くの市民のみなさまにご来場いただいていましたが、2020年はコロナウイルス感染症拡大防止のためやむなく中止したので2年ぶりですね。
─毎回、医療政策や社会保障制度に関する話題が採り上げられていますが、今回はどのようなテーマでしたか。
山本 「100歳時代の生き方、死に方」シリーズのpart3として、コロナへの立ち向かい方に焦点を当てて、サブタイトルを~地域みんなの力で新型コロナに立ち向かえ~としました。配信は昨年10月16日(土)2時から、尼崎市の中小企業センターからライブでお届けしました。
─どのようなプログラムでしたか。
山本 尼崎市医師会理事の横田芳郎先生の進行のもと、まずは八田昌樹尼崎医師会会長、稲村和美尼崎市長があいさつし、社会人落語家の浪漫亭不良雲さんのユニークなお話からテーマに入っていきました。第一部では基調講演、第二部ではそれを受けたシンポジウムをおこないました。
─基調講演はどんなお話でしたか。
山本 今回は元「おはよう朝日」コメンテーターで、日本医師会総合政策研究機構主任研究員の森井大一先生をお招きし、感染症専門医の視点から「我々はコロナにどう立ち向かってきたか」というテーマでお話しいただきました。まずはこれまでの経過を再確認して、 第1波の死亡率は5.4%で80歳以上の方が多く亡くなられたのに対し、第5波は感染者数こそ多かったが死亡率は0.3%と低下したというデータを紹介し、その理由として若い人が感染するようになってきたことを挙げるとともに、これからもどんどんと死亡率は下がっていくという見立てでした。一方でコロナの感染様式は飛沫感染、接触感染、空気感染が考えられ、飛沫は最長2m飛びますが数秒で落ち、空気感染はそれほど心配する必要はないそうです。そのことを踏まえた上で、対策としてはハザード・ベースド・アプローチとリスク・ベースド・アプローチを分けて考えることが大切で、後者は社会的な副作用も大きいので社会全体で検討しなければならず、コロナがもたらす“非日常性”を誰が引き受けるのかも課題とのことです。また、緊急事態宣言は政治的に決定すべきで感染症の専門家がおこなうものではない、感染症の専門家は措置法第5条(基本的人権の尊重)にある「必要最小限」を「必要十分」と勘違いしているなどの問題点を挙げて、今回のコロナ対応の答合わせは次の新たな感染症が発生した時に出ると指摘されました。感染対策は結局、一人ひとりの対応にかかっているというお話も印象的でしたね。
─第二部はどのようなメンバーでおこなわれましたか。
山本 第二部のシンポジウムは基調講演の森井先生のほか、衆議院議員の中野洋昌さん、尼崎市医務監の郷司純子先生をお迎えし、尼崎市医師会からは、病院の立場から松森良信先生、診療所の立場から矢野雄飛先生がパネリストに加わり、内藤彰彦先生と中川純一先生の司会で議論が交わされました。
─政治の立場からはどのような意見がありましたか。
山本 中野さんは国民皆保険、フリーアクセスの現在の医療は大変素晴らしいが、日本は民間医療中心で高齢化に対応していたところ、今回のような有事に対応する力が弱かったと思うと指摘した上で、今後は限られた医療資源をどのように守るのかが課題であり、そのためにも地域の中での信頼関係が大切だと話されました。
─森井先生はシンポジウムで改めて今後の見通しをお話しされたそうですね。
山本 新型コロナウイルス感染症はグローバル時代の初めてのパンデミックであると指摘しつつ、スペイン風邪のウイルスはいまだに消えていないことからも、効率的な医療を行うことで新型コロナも日常に取り組まれていくのではないかという見方を示されました。また、一部の立場の違う人が負担を背負うことのないような、新しい社会を作っていかなければならないという提言もありました。
─コロナ対応は、行政と医療の連携が鍵になったと思いますが。
山本 その点については郷司先生が、尼崎には市民病院がないが、医師会と行政の繋がりは強く、今回のコロナ対応でそれを改めて実感できたとおっしゃっていました。
─医療の立場からは、どのような意見が出ましたか。
山本 松森先生は、みんなそれぞれの立場で精いっぱい頑張って医療崩壊を防ぐことはできたと、今回の対応を振り返りました。また、矢野先生は、今回の新型コロナ感染拡大では安心安全な医療を提供するという本質を揺るがしかねない状況にまでなったと感じられたと率直な実感を述べられるとともに、世界に誇るべき我が国の医療制度をこれからも地域ぐるみで、みんなで守っていかなければならないという決意を新たにされていました。
─オンラインでの開催はいかがでしたか。
山本 何せはじめての生配信でしたのでうまくいくのか心配でしたが、概ね順調に進んだと思います。一方で市民のみなさまにご来場頂いて、 その上に配信するハイブリッド方式を目指していたのですが、感染状況から断念せざるを得なかったことは残念です。次回はコロナが落ち着いて、市民のみなさまにご来場いただけるようになるといいですね。