2月号
神戸市室内管弦楽団 鈴木秀美監督に聞く
古典派?ロマン派?シューベルトってどんな作曲家?
神戸文化ホールと共に神戸の音楽文化を支える神戸市室内管弦楽団。2021年4月より音楽監督を務めておられる鈴木秀美さんに、第153回定期演奏会プログラム「シューベルトへの道」について、お話を伺いました。
鈴木監督が考える「フランツ・シューベルト」
―突然ですが、シューベルトってどんな作曲家ですか。
学校では歌曲王と習いましたね。歌曲を多く作ったのでそう呼ばれています。教科書に載っている『魔王』も歌曲です。シューベルトの代表作の一つで、ダヴィンチで言うとモナ・リザみたいなものです。でもね、本人は実はオペラを書きたかったそうです。交響曲も室内楽曲も素晴らしい作品を多く残しているけれど、オペラは上演されていません。31歳で亡くなっているから時間が足りなかったのかもしれませんね。
シューベルトは、ベートーヴェンに傾倒していて、自分がベートーヴェンの後継者たらんと考えていたのです。だからシューベルトの初期の作品にはベートーヴェンを感じる部分がありますね。
―ベートーヴェンを感じる⁉
バロック、古典派、ロマン派…。習いましたよね。そこに壁があるわけではありませんが、作風に境目はあります。私は、そういう境目辺りにある音楽に惹かれるのです。古典派の終わりからロマン派の初めにいるベートーヴェンとシューベルト。「ベートーヴェンを感じる」というのはその人の影響が見えるという意味です。
加古川のアナゴみたいなものかな(笑)。アナゴは汽水に住むのですよね。淡水と海水が混じる汽水には美味しい魚がいるそうです。混沌としていて他と違う何かが生まれる感じ。
―では、ベートーヴェンにはどんな作曲家を感じるのですか。
初期の作品では、ハイドン、エマヌエル・バッハですね。上流から流れてきたものと自分の中にあるもの両方が見えるところがあります。また、ある部分が後になって、みんなが知っているメロディになることもありますね。萌芽っていうのかな、ある音楽的アイデアの始まりが見えるのが初期の作品の面白さですね。
―シューベルト以降の作曲家にはシューベルトを感じたりするのですね。
しいて言えば、シューマンにはシューベルトとのつながりを感じますね。ブラームス、ワーグナー、ドビュッシーなど。どんな作曲家も先人から学び、時間をかけて自分の音楽を作っていくわけです。
―今回のプログラムは『道』に大きな意味があるのですね。
バッハ、ハイドン、そしてシューベルトの交響曲です。第7番「未完成」や第8番「ザ・グレート」。晩年の2曲は演奏される機会が多いですね。今回は、今、お話した初期の第1番を味わっていただくプログラムです。歴史が見える構成になっています。
美術館って順路があるでしょ?学芸員が、時代の流れや作家の人生を追体験できるように並べてあります。コンサートもそんなふうにしたいのです。点ではなく線で、作曲家、作品を通して、文化とか歴史を広く感じてもらいたい。
コース料理みたいなものでしょうか。多くのヨーロッパ語では、音楽も料理も「taste」と表現します。音楽も味わいたいですよね。
鈴木監督が考える「海外で学ぶことの意味」
―ところで。海外での生活が長かったのですね。
ヨーロッパの音楽をするのですから、住んでその気候風土や彼らの生活を知るのは重要です。能や歌舞伎を学ぶなら日本に来るべき、というようなものですね。街を歩いているだけで漢字が見えて、日本語が聞こえます。
ヨーロッパは街を歩いているだけで得るものがあります。石畳の道。石造りの建物。聞こえてくる街の音も違う。留学する学生には、「できるだけ2年は行っておいで」と話します。1年は長めの旅行ですが、その場所に来た時の季節を繰り返すと、「ここにいる」と「ここに住んでいる」という感覚が、ぐっと深まりますから。
―チェロ奏者でもいらっしゃいますね。
父がピアノ、母が声楽をしていたので、家の中には常に音楽がありました。親から聞いた話では、ベビーベッドはピアノの隣にあって、赤ちゃんの私は必ずピアノの方向を向いたそうです。ピアノは4歳から始めました。その後、なぜか弦楽器の音が好きだったらしく、チェロを選びました。9歳の時でした。
―海外に行ったことで音って変わりましたか?
同じ楽器でも演奏する場所がヨーロッパの建物か日本の建物か、それだけでも音は変わりますし、気候でも変わります。ヨーロッパの建物は天井が高いことが多いせいもありますが、響きの中で、或いは響きを使って音を作るという感覚は住んでいて段々学ぶことの一つです。また例えば絵や景気を見るなど、色々な物からイマジネーションの幅を拡げることも大切です。
―それは指揮者としての言葉ですね。
音楽はみんなで作るものですから、共通項は多いのがいいと思います。同じ楽譜を見ていても民族の違いによって感じ取ることは様々です。例えば同じ「赤」と言われてもスペイン人がエル・グレコの赤を想像している時に日本人は柿右衛門の赤を想っているかもしれません。そういう複雑さは音色の深みにも繋がりますが、バラバラでは一つの表現になりません。個性は生かしながらまとめて合わせていくのが指揮者の仕事の一つです。大指揮者トスカニーニや帝王カラヤンとはイメージが違うかもしれませんが、今も半分はチェロ弾きですからね。音を合わせることは、人間関係を作っていくことと同じこと。いい仲間と色彩豊かな音楽をお届けしたいと思っています。
神戸市室内管弦楽団 第153回定期演奏会
「シューベルトへの道」
日時:2022年4月23日(土) 15時開演
出演:指揮 鈴木秀美、フルート 清水信貴
曲目:C.P.E.バッハ:フルート協奏曲 ニ短調 Wq.22
ハイドン:交響曲 第83番「めんどり」 シューベルト:交響曲 第1番
会場:神戸文化ホール 中ホール
料金:S 4,000円、A 2,000円、U25 1,000円
チケット:神戸文化ホールプレイガイド Tel.078-351-3349
神戸文化ホールオンラインチケット
鈴木 秀美(すずき ひでみ)
神戸生まれ。チェロ、指揮、執筆、録音ディレクター、後進の指導と活動は多岐にわたり、サントリー音楽賞、齋藤秀雄メモリアル基金賞ほか多数を受賞。主要な古楽団体でメンバーや首席奏者を務めた。2001年《オーケストラ・リベラ・クラシカ》を創立し、自身のレーベル《アルテ・デラルコ》からその録音や室内楽等をリリース中。国内外のオーケストラに指揮者及びソリストとして客演。著書に「『古楽器』よ、さらば!」(音楽之友社)、「ガット・カフェ」「無伴奏チェロ組曲」(東京書籍)、「通奏低音弾きの言葉では、」(アルテス・パブリッシング)などがある。現在は山形交響楽団首席客演指揮者、東京音楽大学チェロ科客員教授、東京藝術大学古楽科講師を務めている。楽遊会弦楽四重奏団メンバー。また、神戸市室内管弦楽団(設立当時は神戸室内合奏団)の創立メンバー(副指揮者・首席奏者)でもある。