11月号
「神戸で落語を楽しむ」シリーズ
落語家・(株)米朝事務所 代表取締役社長 五代目 桂 米團治 さん
社長としての2年半
米團治さんといえば、芸人兼米朝事務所の社長ですね。
いいように言えば、ジャニーズ事務所のタッキーみたいなもんですね。「比べるなよ」って怒られそうですけど。米朝事務所は、昭和49年に私の父であり師匠である桂米朝のマネージャーが社長になって立ち上げた事務所で、落語だけで全国をまわるなんて考えられない時代に、それを実現させた。時流にも乗ったんでしょうね。
芸人としても大変な時に、社長業もやるのは大変ですね。
もう、ヘトヘトですね。2年半程前(平成30年4月)に社長になったわけですが、私は「みんな一国一城の主なんですから解散しましょうよ」と言ったんです。でも、ざこば兄さんも南光兄さんも「米朝師匠が立ち上げた物を軽々しく解散なんてできないよ」とお叱りを受けまして。
まぁ芸人がやってもなんとかなるだろうと甘い考えで受け継いだのですが、うまいことなんていきませんね。やっと社内の構造改革にめどが付いたところで、コロナです。ホントに大変で銀行と保証協会を往復する毎日でございます。芸人は芸だけに打ち込んで、経営は別の人というのが本来なんでしょうね。米朝も、経営には携わっていませんでしたから。
さだまさしさん、鶴瓶さん多くの人に感謝
「米朝まつり」はいかがでした?
社長になって1番大きなイベントが「桂米朝五年祭 米朝まつり」だったんです。米朝が亡くなって5年ということで、春のお彼岸に企画をしたんですけど、これがコロナで中止に。せっかく準備したんだから「やろうよ」って言ったんですけど、社員のほとんどが反対でしたね。噺家の中にも反対という人が少なからずいたのですが「こんな時代やからこそ、やらなアカン」という強い信念で8月に開催したんです。
この時期に、大きな決断でしたね。
豪華なゲストもお呼びしていますし「ようやってくれた」とか「ありがとう」って言ってくれる人もいましたけど、コロナの第2波とぶつかって思い通りの集客ができず「ほら、やっぱり。満席にはならなかったじゃないですか」って叱咤の声もいただきまして。
大きなイベントをやる時には、協賛企業探しなど運転資金をちゃんと用意しないとね。経営者としては基本中の基本なのですが「ええい!」って気合でやってしまうところが私にはあるようで。「何してはんのですか」と言われることもしばしば…の今日この頃です。
有料リモート配信もされたそうですが。
サンケイホールブリーゼでの会ですね。客席は半分にしないといけませんでしたので、ご家庭でも臨場感を抱きながら観ていただけるスタイルにしたんです。
反対意見もありました。「米朝の秘蔵映像を民放各局がネット配信に出すわけないじゃないですか」って。「訊いてみなわからへんやろ。無料配信やなくて、お金を払ってくれた人限定で観てもらうんやから、器が大きくなるだけの話なんやで」って説明してもなかなか。
次には「リモート配信をOKしない噺家の方が多いでしょう。ゲストの笑福亭鶴瓶師匠、絶対ダメですよ」って。鶴瓶兄さんは、テレビやラジオなど映像や電波の媒体では絶対に落語しないというポリシーをお持ちの方なのです。
でも、何とかお願いしたかったので「兄さん、すいません・・・あのぅ実は、ソーシャル・ディスタンスで席数が半分になるのでリモートっていうのを使いたいんです」って言ったら「言うてることは、わかる」と。「兄さんは、繁昌亭のリモートにも絶対に映らんって言うてはりますよね。それはよくわかっているんですけど、うちの親父のために、1回だけ、一生のお願いです」ってお願いしたら、あの声で「俺はなぁ。今まで絶対やれへんかったんや。それを、なんでお前の一言で、そのポリシーを変えなアカンのや・・・・・・出ますけど」って。もう、涙があふれてきましたね。
ところが、普通ならチケットが即完売になってもいいのに、コロナの第2波で「えっ?まだチケット残っているの?」って感じに。鶴瓶兄さんもえらい気にして下さって「チケットどやねん」って。「立ち上げは良かったんですけど、第2波で今ちょっと伸び悩んで」と言ったら「ホンマかぁ、おまえもえらいこっちゃな。来週、ラジオがあるから」って、生放送に飛び入りで出させていただいたんです。
同時期に歌手のさだまさしさんにふらっと電話したんですよ。すると、さださんもコンサートの中止が続いている時期で大変なのに、「大変ですよね。ちょうどNHKの生番組がありますから、そこで紹介しますよ」って。それから、チケットが動き出してね。他にもホントに多くの方に支えてもらい、感謝感謝の毎日でした。
そして、当日ですよ。鶴瓶兄さんは米朝のライバル六代目笑福亭松鶴師匠のお弟子さんです。お客さんが米朝の秘蔵映像を見たあとに、鶴瓶さんの登場。そこで、対極の松鶴師匠の噺をバーンと出されたんです。会場は笑いの渦に包まれました。コロナがなかったら、できない経験でした。おかげでいい勉強をさせてもらっています。
コロナのおかげ
コロナでいろいろ変わりましたか?
瓢箪から駒といいますか、新しい発見がありますね。コロナがなかったらリモート寄席をやろうとは思わなかった。例えば定点カメラでお囃子の方を撮ったり、6月には大阪の動楽亭で試験的にお客さんを入れて臨場感を持たせながらリモート配信をしたりね。それが米朝まつりのリモート配信につながったんです。
私自身、アナログ人間で携帯は今もガラケー。パソコンも持っていません。けど、iPadを買ってツイッターを始めたら面白くて、暇があればツイートしています。そろそろインスタグラムもやろうかなと。
YouTubeページも新しくなりましたね。
米朝チャンネルですね。社長に就任した時に、やりたいという社員がいてYouTubeのチャンネルを立ち上げたんですけど、会社自体がアナログやったから活用できていなくて。コロナ禍を機に「米朝チャンネル」としてリニューアルしたんです。そこに私が作った「米朝一門のうた」というのを入れたんですけど、これがまた非難ごうごうですわ。そんなんが嫌いな社員や噺家からは白い目で見られています。もうホントに何やっても怒られる。この頃は慣れてきましたけどね。
でも、ようやく米朝チャンネルにもCMが付くようになりまして。収入はまだまだ微々たるもんですが、こういうノウハウが積み重なって、新しい仕事へとつながればいいかなと。
どんどん新しいものに挑戦されていますね。
芸人として、楽しいことをどんどん企画したいんです。SNSやネットに長けた噺家がいまして。桂吉弥君の一番弟子の桂弥太郎君には、新しくデジタルコンテンツ班のブレーンとして頑張ってもらっています。チラシにQRコードを入れたりするところからね。落語ファンの新しい開拓にもつなげたいです。
さまざまな企業とタイアップをして落語会ができないかとも考えていて、GoToキャンペーンで落語を聴くための旅行とか、スポンサーの要望を取り入れた落語会とかを計画しているところです。
喜楽館では、11月2日より桂米朝五年祭特別公演として『米朝ウイーク』が始まります!
(改まって)え〜、みなさま、どうか米朝事務所を応援の程、よろしくお願いします。
神戸新開地・喜楽館
TEL.078-576-1218
新開地駅下車徒歩約2分
(新開地商店街本通りアーケード)