2月号
神戸市医師会公開講座 くらしと健康 54
80歳の4人に1人が患うという認知症
趣味や運動で脳と体を刺激して予防を
─認知症とはどのような病気ですか。
長坂 認知症は脳や身体が異状をきたしておこる記憶障害などの知的機能の障害で、記憶や判断力などの低下により普通の社会生活や日常生活が困難になる状態をいいます。
認知症は大きく分けて神経変性型認知症と脳血管性認知症に分けられます。前者は神経細胞が減ってきて脳が萎縮しておこり、認知症の大半を占めるアルツハイマー型認知症や、異常な構造物が大脳皮質に蓄積して発症するレビー小体型認知症はこれに該当します。後者は脳の血管が詰まったり破れたりしてその部分の脳の働きが悪くなるものです。認知症の患者数は現在約200万人ですが、2040年頃にはその倍近くなると予想されています。
─認知症の兆候について教えてください。
長坂 加齢によるもの忘れは行為や出来事の一部を忘れますが、認知症では行為そのものを忘れます(表1)。例えば食事のメニューを思い出せないのは単なるもの忘れですが、認知症では食べた事自体を覚えていません。もの忘れでもひどい場合や何度も繰り返す場合は認知症のサインです。また、判断力や理解力の低下、時間や場所がわからなくなる、人柄が変わる、不安感の増加、意欲の低下なども兆候にあげられます。
─治療について教えてください。
長坂 認知症は進行する病気なので、早め早めの受診が大切です。認知症が疑われる場合は神経内科、精神科、心療内科、脳外科が専門になりますが、まずかかりつけ医に相談し、紹介してもらうのがよいでしょう。普段の本人の様子も診断の参考になるので、受診の際は家族が付き添いましょう。診断は認知機能検査や画像検査などをもとにおこないます。
治療は、薬物療法では昨年に3種類の薬剤が認可され、4種類の抗認知症薬を適宜用います。非薬物療法では回想療法、園芸療法などがあります。また、適切な介護ケアにより、進行を和らげることができます。
─認知症の人にはどのように接すればよいのでしょうか。
長坂 認知症の人は「わからないこと」の連続で不安と混乱の中にあり、家事や仕事などの失敗が続いて自尊心を喪失しています。さらに現実の世界についていけない焦りを感じ、自分自身が壊れていく強い恐怖を感じているのです。認知症で障害が出ても、感情の働きがなくなってしまうわけではありません。ですから認知症の人の気持ちを理解して、あたたかく受け入れてあげることが大切です。
しかし、身近な人が認知症になると戸惑いや混乱がおこるのは当然です。そんな時は神戸市内に75か所ある地域包括支援センターなどに相談するとよいでしょう。
─地域で認知症患者をサポートする動きもあるそうですね。
長坂 東灘区では、その一例として岡本・西岡本地区高齢者・認知症ネットワーク(バラ公園ネットワーク)が組織され、地域の医療機関、交番、コンビニ、薬局、商店、介護支援事業所、地域包括支援センターなどが連携をとって認知症患者を見守っています。
また、東灘区医師会では市民向けのシンポジウムやフォーラムの開催、認知症サポーターの養成などをおこなっています。認知症サポーターとは養成講座を受講し、認知症について正しく理解し、認知症患者やその家族を見守る人のことで、東灘区民の約3千人や東灘警察署署員全員が認知症サポーターになっています。
─認知症を予防するにはどうすればよいのでしょうか。
長坂 意欲を持って活発に脳や身体を使っている人は認知症になりにくいことがわかっています。社交ダンス、合唱、俳句などの趣味、散歩などの有酸素運動は予防につながります。また、簡単な計算をしたり、新聞や本を声を出して読んだりということを毎日続けるのも有効です。毎日日記をつけるのも予防に結びつきますが、昨日の日記をつけるとより記憶力が必要なのでさらに効果的でしょう。
長坂 肇 先生
神戸市医師会監事
長坂医院院長(認知症サポート医)