12月号
神戸鉄人伝 第120回(最終回)神戸市長 久元 喜造(ひさもと きぞう)さん
神戸で活躍する芸術文化人を訪ねてきた『神戸鉄人伝』。最終回は久元喜造神戸市長に、神戸のまちと芸術文化についてお話をうかがいました。
―行政が芸術文化を支援するのは何故でしょう?
国家や自治体は、市民社会に不可欠なものを提供する責務があります。芸術文化もまた、社会が成り立つために必要なものです。しかし行政は、安全や生命に関わる仕事を優先せざるを得ません。従来の支援のあり方では、行政が芸術文化を支え続けるのは難しいと思います。
―支援のあり方を変えるとすれば、どのように?
一例を挙げるなら、神戸国際フルートコンクールです。第8回まで神戸市が主催してきましたが市民の認知度は3割以下で、広く支持されているとは言い難い事業でした。そこで公費を投入せず別の財源を、と問題提起したのです。存続を求める人々が動き始め、篤志家と企業からの支援を得て第9回コンクールが開催されました。この過程で市民の理解が深まり、経済界からも応援の声があがり、観客増にもつながりました。
―文化への支援には、様々な回路があるということですね。
そしてまた文化の射程は、芸術創造活動に留まりません。あまり知られてはいませんが、北区は全国有数の茅葺き家屋残存地区です。茅葺き民家や農村歌舞伎舞台は、その地区だけで存続させるのは困難です。過疎の集落が消滅すれば、千年守られてきた文化が数十年で消え去ってしまう。このような文化も支援を必要としています。
―確かに、伝統文化にも支援は不可欠です。
もともと芸術文化はパトロネージが無ければ成立しない分野です。多くの芸術文化は、市場原理に任せていては存続できない。これまでは個人が嗜好によって庇護・育成してきましたが、現代には地域社会が文化を支援する仕組みが求められます。
―そんな活動が神戸で始まっているとか。
フルートコンクールを契機に、芸術文化活動を経済界から支援しようと有志企業が「神戸文化マザーポートクラブ」を設立しました。この組織によってストリートピアノが設置され、まちに良い影響を与えています。今後いろいろな人が関わることで、支援の対象が広がることを期待します。従来の芸術文化、農村文化、さらには街並みや景観も都市の文化と言えます。
―都市の姿も文化とお考えに?
まちの佇まいは、そのまちの文化のありようを示します。景観を構成する建築物には文化的価値がありますが、都市は進化していくので、残念ながら消え去っていくものもあります。それらを記録に留め「都市の記憶」として参照しながら、多くの人でこれからのまちのありようを考え、行政もまたその中で役割を果たしていく。都市の再開発・再整備は、その都市の文化を認識し再考することと結びついています。
―最後に、鉄人の皆さんへのメッセージを。
芸術創造活動は市民や地域に大きな影響を与えます。特に阪神・淡路大震災の後、文芸・美術・音楽といったジャンルの方々の活動によって、多くの市民は前へ向かって進む元気をいただいたに違いありません。人々を支える活動が市民レベルで展開されてきたことは、神戸の市民力の為せる技ではないでしょうか。鉄人の皆さんのこうした活動へのご貢献に、心から感謝いたします。(2019年9月30日取材)
行政の役割や支援のあり方を率直に誠実な言葉で語っていただき、市長が芸術文化を従来の枠を超えた非常に大きなステージで捉えておられることが伝わってきました。今、まちの顔を大きく変えようとしている神戸で、芸術文化のありようもまた進化しなければならないのかもしれません。
とみさわ かよの
神戸のまちとそこに生きる人々を剪画(切り絵)で描き続けている。平成25年度神戸市文化奨励賞、平成25年度半どんの会及川記念芸術文化奨励賞受賞。神戸市出身・在住。日本剪画協会会員・認定講師、神戸芸術文化会議会員、神戸新聞文化センター講師。