11月号
Hill of the Rising Sun|より地域に根差した医療を目指し 芦屋セントマリア病院 朝日ヶ丘に移転リニューアル
1987年に開設された「芦屋セントマリア病院」がリニューアルされ、朝日ヶ丘で新たに開院する。より地域に根差した病院として、阪神間・東神戸エリアに暮らす人たちを医療でサポートしていきたいという伊藤直人院長にお話を伺った。
芦屋の中心にある病院として救急医療を担う
―2010年4月から伊藤先生が院長になられた経緯は?
当院を開設された神戸大学第一外科出身の登根先生は、当時は珍しかったMRIやRIなど最新の装置を導入し意欲を持って取り組んでおられました。ところがお身体を悪くされ、ご縁があり院長として私が引き継ぐことになりました。当時私は名古屋大学で肝胆膵疾患を専門とし、大阪市立大学の首藤太一先生、神戸大学の具英成先生とは面識がありました。特に具先生は登根先生の後輩にあたるという流れもあり、芦屋に来ることになりました。
―芦屋という街に来られていかがでしたか。
ご自分の健康に留意されている方が非常に多いと感じました。病気になってしまえば大きな病院に行かれますが、前もって健診はしっかりと受けておられますね。
―現在の芦屋セントマリア病院は救急医療に力を入れておられますね。
引き継いだ当時、市立芦屋病院と南芦屋浜病院、この2病院が頑張り市内の救急事案の半数程度を受け入れ、その他は市外に搬送されるという状況でした。初期治療は非常に重要ですから、これではいけない。芦屋市の中心という立地にある当院でやるべきだろうと、せめて6割を市内で受け入れられるようにしましょうと、芦屋消防署、そして救急隊員の皆さんとお話ししました。軽症の患者さんを大病院に搬送すると、必要としている重症の患者さんの受け入れを圧迫してしまいます。できる範囲でバックアップしていこうと考えました。
―ご苦労されたのでしょうね。
私が救急病院で研修を受けたころは、どんなことにでも対処できなくてはいけませんでした。その経験を生かし、総合診療で救急患者さんも受け入れることにしました。私一人で始めましたので、まず何ができるのかを知っていただかなくてはいけません。当初は救急車が素通りすることも多かったのですが、消防署や当院で勉強会を開き、日々、救急患者さんと真剣に向き合ううちに信頼していただくようになったのだと思います。
―受け入れ数を見てもかなり右肩上がりに増えていますね。
だんだん仲間が集まって来てくれました。まず、副院長で救急部長の整形外科医庄司太郎先生、外科部長の勝本善弘先生をはじめ、たくさんの非常勤の先生方にも支えていただいています。救急では透析を必要とする患者さんも多く、機器も備えていましたので、経験があった私が始め、今は専門の先生に来ていただき人工透析内科として開設しています。
目の前の命を救うために何でもできる医者でありたい
―伊藤先生のご人徳ですね。
みんな以前からよく知っている仲間です。私一人では大したことはできませんが、たくさんの人の力をお借りしてここまできたと思っています。もちろん高度医療を必要とするケースでは神戸大学医学部附属病院や兵庫医科大学、神鋼記念病院、甲南病院に御協力いただいています。具先生とも、「この地域で連携を取りながら頑張っていきましょう」とお話ししています。というよりは、具先生に叱咤激励されながら私が頑張っていると言ったほうが正しいかな(笑)。因みに、勝本先生は私のバンド仲間でもあるんです。
―バンドですか!激務の息抜きに?
中学生の時からやっていますから特にそういうわけではなく…、外科医としてギターを弾いて指先を使うのはいいことかなと(笑)。
―何でもできる伊藤先生だから新しいことにチャレンジできるのですね。
たまたま私は医者ですから人の命を守るために、ある程度は何でもできるようになりたい、医者なのに「それはできません」なんて言うのはちょっとカッコ悪いかなと(笑)。今の医療は専門分野に細分化されていますが、若いお医者さんにもせめて目の前の患者さんの命を救うノウハウは持った上で、専門の勉強をしてほしいと思いますね。
―総合診療の考え方ですね。
特に高齢者率の高い芦屋市内では、高齢者専門の総合診療科も必要ではないかと考えています。誰もがみんな年をとるのですから、「年寄りだからもう診ません」というのは、自分に自分で言っているようなものです。
最新の機器や外観より大切なのは、人です
―いよいよ朝日ヶ丘に移転リニューアルですね。
便利な場所だったのですが、入院患者さんのニーズに応えていくには限界がきていました。狭くて車椅子での移動にも対応できないという問題もあり、移転を考え、やっと最適な場所に巡り合えました。病床数も10%(6床)増床頂きましたので、患者さん一人一人の占有スペースも広くなりプライバシーの確保もできるようになりました。
―芦屋ですから外観にも気を使われたのでしょうね。
景観条例に合わせてということもありますが、時間がたって古くなっても威厳を保てる外観にしたいという個人的な希望がありました。外壁にレンガを使い、それも中に穴を開けて吊るし落下しないように工夫されています。
―中身は最先端に?
レントゲンや麻酔などの機器は最先端ですが、機器を使うのは人ですからそれぞれに担当医師やスタッフに任せて使い勝手の良さを最優先に導入しています。大切なのは、ハードよりもソフト。私も含め職員一同、改めて襟を正して医療に取り組まなくてはいけないと考えています。
―今後の芦屋市の医療についてのお考えは?
市立芦屋病院、南芦屋浜病院、芦屋セントマリア病院の3病院と芦屋市でもう少し包括的な何かができないかなと考えています。理想をいえば、市民一人にカルテ一つを共有する。そうすれば例えば救急で来られて患者さんの状態をすぐに把握することができます。
―今後の芦屋セントマリア病院については?
移植医療が必須の時代が必ずやってきます。それに備えて手術室は充実させました。これは次の世代に託したいと思っています。
芦屋セントマリア病院
院長 伊藤 直人 (いとう なおと)さん
1958年生まれ。1989年、山口大学医学部医学科卒業。1991年、名古屋大学医学部器官調節外科 (旧・第一外科)入局。静岡市厚生連静岡厚生病院外科副部長、兵庫県川西市のベリタス病院外科主任部長・総合診療科部長、大阪市立大学医学部 臨床准教授、神戸市のすずらん病院外科・消化器科・救急科部長等を経て、2010年4月より現職