9月号
ファンタジー・ディレクター 小山 進の考えたこと Vol.6
僕には夢がない。けど…
意外だと思われるかもしれないが、僕には夢がない。正確に言うと、分かりやすく伝わるようにわざと「僕には夢がありません」と言うようにしている。だからといって、夢があるのがアカンという訳じゃない。でも、夢を持っていたって、夢を語るだけならば一歩も進まない。その夢と日常が結び付いていないと、夢は夢のまま終わってしまうのではないかと思うのだ。
多くの子どもたちは、将来何になりたいという夢を思い描いているに違いない。でも、今から10年後20年後の事と今が結び付かなければ意味がないだろう。今日をちゃんと生きないと、勝手に時間は経って明日になってしまう。じゃ、その夢が今日と繋がるように落とし込むようにするにはどうしますか?という話になる。
でも実は、学校ではその訓練をいっぱいさせてもらっている。例えば中間テストや期末テストで良い点を取りたいと思ったら、テスト勉強をどうするか考えるだろう。そのためには自分はどの科目が得意でどの科目が苦手なのか、それによりやるべき科目の優先順位が変わってくるからプランが見えてくる。予定通りにプランが進まなかった時にどのような修正プランを考えるか、ということも大事だ。
世の中のできごとは、学校でのできごとと基本は一緒だと思う。例えば部活動のスポーツ競技でも、強い学校はきっちり計画を立てて練習して試合に臨んでいるから強いのだ。だからそれを自分の人生に変換すれば良いだけで、何ら難しいことではない。夢を目標として落とし込んで、プランを立てて行動することによって夢のような結果が勝ち取れるのだ。
つまり、夢を目標に置き換えることが大切なのであって、そのやり方を教えるのが教師であったりコーチであったりする。親や先生など子どものまわりにいる大人たちが、将来こういう仕事に就いてこういう人になりなさいと言うのは勝手だけど、その前に夢を目標に変換するという考え方と、そこに向かうには道筋が必要だということを気付かせてあげてほしいのだ。
大きな夢を持つことはとても良いことだけど、夢が大きすぎてプランが立たないこともあるだろう。今日頑張らなくていいような夢は遠すぎるから、そういう時はステップを設けることで、ショートスパンで考えるのが良いだろう。ショートスパンの夢ならば現実的になるから、自ずと目標に置き換わる。
もっと言うと、10年先は、いや5年先だって、変化が激しいこの現代社会では、時代が変わっているのが当然のことだ。自分だってその時にどんな立場にあり、どんな考え方をしているかもわからない。だけど明日のことなら今日でも想像がつく。つまりショートスパンの目標なら間違いも少ないし、プランの修正もやりやすい。また、夢を持ったからといって、未来の自分が具体的な形で想像できるかというと、そうじゃないと思う。成長した未来の自分の能力が、また新たな目標を立てることに繋がってゆく。
僕は弱点をカバーしながらここまで来た。まずは常に自分の仕事を問い直し弱点を見つける。弱点を見つけたら期限を決めてそれまでに克服するという目標を立てる。それをクリアしたときはお客様にとっても自分たちにとっても、以前と比べて見違える事態になっているものだ。弱点の克服は小さな成功体験かもしれないけれど、目標達成を体感することによって物の動かし方がわかってくる。味の組み立ても、店の運営も、手直しを重ねていくのが僕のやり方だ。そのやり方を理解しているスタッフは、今日どんな仕事をすべきか、明日は何をしないといけないのかがわかっているし、ともに小さな成功体験を積み重ねて成長していく。そういう人材の集合体だと、お客様により高い満足を与えることができるのだと僕は信じている。
パティシエ ショコラティエ
小山 進
1964年京都生まれ。2003年兵庫県三田市に「パティシエ エス コヤマ」をオープン。「上質感のある普通味」を核にプロフェッショナルな味を展開し続けている。フランスの「C.C.C.」のコンクールでは、2011年の初出品以来、7年連続で最高位を獲得。2017年11月、開業14周年を迎えた日に、デコレーションケーキ専門店「夢先案内会社ファンタジー・ディレクター」をオープンした